複雑化する社会課題の解決に挑む 
中途採用で、国の政策づくりを担う国家公務員へ

国の政策づくりを担う国家公務員(いわゆる「キャリア官僚」と呼ばれる国家公務員)になるには、新卒で採用されなければならない、そのためには学生時代から公務員試験の勉強をしなければならない、というイメージが強いかもしれない。しかし、実はこの分野にも転職、中途採用の道が開かれている。
国がつくる政策の背景には解決すべき社会課題が潜み、課題の複雑化が進んだ現代においては、政策立案者にも多様な人材が求められている。ビジネスや専門職の経験を生かして中央省庁で政策立案を担うことができる時代だ。今、ビジネスパーソンに伝えたい、中途採用による国家公務員の働き方、仕事のやりがい、キャリア展望について、内閣官房内閣人事局 内閣参事官 鈴木毅氏に話を聞いた。

入省したら即、政策の企画立案の担当者に。翌年の国会に向けて動き出す

鈴木 毅 | 内閣官房 内閣人事局 内閣参事官
1997年、建設省(現国土交通省)に入省。道路公団民営化の法律改正、水害や土砂災害などの危険性を考慮した都市計画制度の検討などを手掛ける。
現在は内閣官房 内閣人事局 内閣参事官として、国家公務員の任用・人事評価などの制度づくりに従事。

――今回、民間企業などで社会経験を積んだ方々を対象として、国家公務員の「経験者採用(係長級(事務))」を募集していますが、入省するとどんな業務をすることになるのでしょうか。

 「今回の経験者採用で採用される方の仕事は、ひと言でいうと、高度な政策を企画立案する仕事です。係長として1つの担当を持ち、国民が安心していきいきと暮らすために必要な制度を、予算や税制、法律の形で整えていきます。その過程では、事業者や専門家と意見交換をしたり、国際交渉に携わったりすることもあります。道路や水道などのインフラ整備、産業振興、教育、福祉、医療など、分野はさまざまです。最近は企業が事業計画にSDGs(持続可能な開発目標)を取り入れる動きもありますが、公務員は『国民全員をお客様』として、企業では手掛けられないような社会課題にも取り組める点が特徴といえます」

 「政策づくりの大まかな流れをご紹介しましょう。仕事のスパンは基本的には1年単位です。4月に入省すると政策担当者として担当分野をアサインされ、それぞれの現場の課題解決のために必要な政策は何か、予算か税制か法律か、この規制は緩和するのか強化するのか、などの調査・検証からスタートします。夏までに情報収集や関係者・専門家などへのヒアリングを行い、さまざまな意見や要望を聞きながら、政策案をつくっていきます。秋以降は予算や税制、法律の審査を担当する省庁と調整を重ね、予算や法律案としてまとめ上げます。年明けには国会が開かれ、予算や法律案が審議されます。成立したらいよいよ実行段階です。スムーズに実施されるよう、細かいルールづくりや関係者への丁寧な説明が欠かせません。このようにして自分のアイデアを形にし、全国レベルで実際に動くところまで関わることができる。これは国家公務員にしかできない仕事だと思います」

 「この仕事の面白さと難しさは表裏一体だと思います。政策立案の過程では、生活者、自治体、関連業界・企業、専門家、国会議員など、大勢の人々が関わります。立場が異なれば求めるものも変わります。全員が満足する政策をつくることはとても難しいです。その中でみんなが納得する一番良い答えが出せるよう、知恵を絞らなければなりません。時には、税金や規制のように国民に負担をお願いすることもあります。それがなぜ必要なのか、その結果何がどのように良くなるのかを理解してもらわなくてはなりません。知恵を出し、工夫の手を止めず、仕組みに変える。簡単ではありませんが、粘って考えて考え続けると、誰も思いつかなかったような答えが生まれることもあるんです。こんなことが実現できたときは、『私だからできた仕事だ』とやりがいを強く感じますね」

 「法律や予算の仕組みが一度できると、全国津々浦々に広がり使われるので、その波及効果は絶大です。目の前の人たちだけでなく、その後ろにいる何千何万の人たちが安心できる社会にしたり、生活を良くしたりできる。それが国家公務員の仕事の醍醐(だいご)味といえます」

鈴木 毅 | 内閣官房 内閣人事局 内閣参事官
1997年、建設省(現国土交通省)に入省。道路公団民営化の法律改正、水害や土砂災害などの危険性を考慮した都市計画制度の検討などを手掛ける。
現在は内閣官房 内閣人事局 内閣参事官として、国家公務員の任用・人事評価などの制度づくりに従事。

多様な課題解決のため、異なる経験値に期待

――人口減少、デジタル化、技術革新、脱炭素、働き方改革、サステナビリティ・・・今の日本はさまざまな社会課題を抱えています。これから国家公務員を目指すにあたって、特に注目すべきキーワードは何でしょうか。

 「どれも大切な重要なキーワードですが、中でも特に重要だと感じるのは人口減少と技術革新です。今後も人口減少や高齢化が避けられない日本で社会保障やインフラをどのようにしていくか、より良い暮らしのために新しい技術をどのように用いるかという課題は、担当分野は違えども全ての公務員が頭に置いていることだと思います。容易なことではありませんが、知恵を出して1つ1つ答えを見つけていきたいですね」

――経験者採用に取り組む背景、理由を教えてください。

 「現代の社会課題はとても複雑です。こうした課題の解決のためには、優秀でも均質な人材だけで成り立つ組織ではなく、さまざまな能力・経験を持った人材が加わり、知恵を結集して答えを見つけられる、柔軟で強い組織でなければなりません。官庁も例外ではありません。このために中途採用に積極的に取り組んでいます。2012年から正式な試験制度として『経験者採用』を導入し、中途採用の一層の強化を進めています」

 「経験者採用で入省した方たちは、その経験を生かしてさまざまな形で活躍しています。調査会社で統計分析を経験した人が官庁で経済分析を担当したり、企業の人事部門で労使交渉をやっていた人が労働法制や年金問題を担当したり、外資系コンサルファームのコンサルタントだった人が語学力や交渉術を生かして、国際的な航空交渉に取り組んだり......。本当にさまざまです。また、経験者の方たちは、このように直接にスキルを生かすだけでなく、民間企業が政策にどのように反応するか、どうやったら多くの人に伝わるかなどの気づきを私たちが得る点でも貴重な存在となっています」

――入省後のキャリアパスはどのようになっていますか。

 「官庁は幅広い分野の政策を扱うため、担当が細かく分かれています。1つのポストで特定の分野の仕事を続けるよりも、さまざまな仕事を経験し、どんな政策にも対応できる人材になれるようにキャリアパスがつくられています。基本的に1、2年ごとに異動があり、さまざまな部門を経験して知見を広げることができます。入省した省庁だけでなく、別の省庁へ出向したり、自治体へ幹部として赴任し現場の推進役として活動したり、大使館や国際機関で外交に携わる機会もあります。海外の大学院で公共政策や法律を学ぶなど、留学のチャンスもあります」

――国家公務員は「下積みが長い」というイメージがありますが。

 「そんなことはありません。係長級というポジションは、担当分野について現場を最もよく把握できる立場です。その係長にしかない情報を多く持つことになります。そのため、幹部から質問される機会も多く、自分なりの分析や意見を求められることも頻繁にあり、尊重されています。また、係長を数年経験すると課長補佐に昇任します。課長補佐になると政策を自ら提案し、動かしていく幅がぐっと広がりますし、国会議員とも直接やりとりすることになります。その後は、能力と実績に応じて、企画官、室長、課長といった管理職、さらに審議官、局長など幹部職への道も開かれています」

 「国家公務員は若いうちから各界のリーダーや企業の幹部などと意見交換や交渉をする機会が多くあります。こうした機会を通じて、自分たちの政策を強固なものにしたり、優れた方々の見識や行動を吸収したりして、自己成長ができる環境にあると思います。それも、この仕事の魅力の1つといえるのではないでしょうか」

 「霞が関は長時間労働という印象があるかもしれませんが、最近は残業時間もかなり少なくなりました。災害への対応など、時には目の前の仕事にとにかく取り組まなければならないこともありますが、普段の仕事はとても効率的になりました。リモートワーク(在宅勤務)も浸透しています。私たちはワークライフバランスを推進していて、男性の家庭生活への関わりを促進したり、育児・介護中の職員も柔軟に仕事ができる制度を整えたりと、さまざまなライフステージを支える環境も整っています」

地道に考え続け、工夫をやめない人が突破口を開く

――経験者採用で求める人材像はどのようなものですか。

 「さまざまな経験・スキルを持った方々を幅広く求めていますが、特に、自分で工夫し、やり遂げた経験のある方、チームをまとめて成果を上げた経験のある方には、ぜひ公務の世界に飛び込んで政策づくりに活躍していただきたいですね。困難な状況でも諦めずに、粘り強く地道に考え続け、工夫をやめない人が最後は突破口を開きます。また、希望する職種と関係するかに関わらず、ある分野を専門的に深く掘り下げたことがある方は、高い分析力や思考力を身に付けられていて、政策づくりには貴重な存在です。こうした経験のある方にもぜひ来ていただきたいと思っています」

――経験者採用はどのように行われるのか教えてください。

 「人事院が実施する『経験者採用試験』を受験していただく必要があります。試験というと大変と思われるかもしれませんが、経験者採用試験は、勉強した知識よりもこれまでの経験やそこで身に付けた能力をより重視する仕組みになっています。もちろん、みなさんの能力がしっかりと評価されるよう、試験は公平に行われます」

 「第1次試験は、マークシートによる選択式の基礎能力試験と経験論文試験があります。経験論文試験がこの採用試験の大きな特徴で、みなさんのこれまでの経験がどのようなものか、公務員になったらそれをどのように生かすことができるかを思う存分アピールしていただくことができます」

 「第2次試験では、人物試験と政策課題討議試験が行われます。人物試験は、人柄や対人的能力などをみるための個別面接です。政策課題討議試験では、決められた政策テーマについてグループで討議を行っていただきます。ここでは、自分の意見を述べることはもちろん、他人の意見をどう受け止めたか、そこからさらによい答え導き出せるかなど、プレゼンテーション能力やコミュニケーション力、さらに発展して考える力も見ています。立場の異なる人たちの意見を聞き、尊重しながらまとめていく能力は、政策をつくっていく上で最も大切なものです。この試験でも、みなさんのこれまでの経験をもとにした能力を大いに発揮していただけると思います」

 「試験のための勉強にとどまることなく、これまでの経験をもとにどんなことに取り組みたいか、自分に何ができるかを深く考えていただくことが大切です。広く社会の課題解決に取り組みたい、次世代により良い社会を残したい、社会貢献と自己成長をかなえたい、そんな気持ちを持ちながら働く方々にぜひ挑戦していただきたいと思います」

【2021年度 経験者採用試験(係長級(事務))】

■採用予定数:
会計検査院①、内閣府②、金融庁③、デジタル庁③、外務省①、財務省②、文部科学省①、厚生労働省③、農林水産省①、経済産業省⑤、国土交通省③および環境省①において、それぞれ〇内の数字の予定(2021年7月1日現在)

■試験日程:

・受付期間 8月2日(月)9:00~ 8月16日(月)受信有効
・第1次試験日 10月3日(日)
・第1次試験合格者発表日  10月27日(水)9:00
・第2次試験日 11月6日(土)または11月7日(日)で指定する1日
・最終合格者発表日 11月19日(金)9:00

※最終合格後、採用予定府省の面接を受けて採用者が決定されます。

■申し込み:
人事院のホームページよりお申し込みください。
https://www.jinji.go.jp/saiyo/siken/keikennsya/keikensya_goudou.html

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