次世代リーダーの転職学

リモートつらいと転職検討 若手も気づいた出社の価値

エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子

先日、電気自動車大手・米テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏が、社員に出した通達が注目を集めました。

「リモートワークはもう認めない」「週に最低40時間、オフィスへの出勤を義務付ける」。週40時間なら、1日8時間×週5日勤務に該当し、実質リモートワークは禁止ということ。さらに、リモートワークを続ける社員を解雇する意向を示し、反発や批判の声が上がっています。

日本でも、今年3月にまん延防止等重点措置が解除され、新型コロナウイルスに対して共生モードへ移行。多くの企業で「出社」の日常が戻りつつあります。

この2年間、「リモートワークOKの企業に転職したい」、中には「フルリモートワークの企業しか受けない」と希望する人が増えましたが、「出社中心」に戻るのを機に転職活動に踏み切る人も見られます。

ところがその一方で、最近、逆の声を耳にすることも増えてきました。「今の会社ではこれからもリモートワークが続く。出社できる会社に転職したい」と。

こうした声は20代~30代のひとり暮らしの人に多く、自宅がワンルームなど手狭であることから、「閉塞感がある」「オン・オフの切り替えがしづらく、仕事中も集中を欠いてしまう」という声が上がっています。

また、「コロナ禍でオフィスを解約し、たまに社員が集まるときはカフェやコワーキングスペースを借りる」「オフィスが縮小され、行ってもほとんど人がいない」などの状況で、「居場所がない」ことに寂しさや孤独を感じている人も少なくありません。

4月には新年度スタートのキックオフや新入社員歓迎会など、社員一同がリアルで集まる機会がありました。そこで久しぶりに仲間とワイワイ時間を過ごし、「やっぱり楽しい!」と実感した人も多いようです。

その気持ちは、私もよくわかります。登壇するイベントがオンラインからリアルに戻ったり、会食が復活したりして、人の温度を感じられるコミュニケーションの楽しさを再認識し、良い刺激を受けています。

「仕事の喜びやモチベーションの源は、人とのコミュニケーションや人間関係構築にあると改めて気付いた」――そんな声が聞こえてきます。

管理職や経営者も「出社」の価値を認識

出社を希望しているのは、孤独感や閉塞感から抜け出したい若手メンバーだけではありません。30代~40代マネジャークラスも、リモートワークの悩みを抱えています。

オフィスで顔を合わせる価値が見直されている(写真はPIXTA)
オフィスで顔を合わせる価値が見直されている(写真はPIXTA)

「姿が見えないので、問題を抱えていたとしても、適切なタイミングでサポートができない」「評価基準が『成果』に偏りがちで、目に見えない頑張りを評価してあげられない。アピールが上手なメンバーとそうでないメンバーがいて、不公平になってしまう」

「リスクマネジメントの観点で、上長や社長に報告すべきラインを判断しづらいことがある。オフィスにいれば話しかけやすかったが、『リモート会議を設定してまで伝えるべきことなのか…』と迷ううちに、後手後手になってしまう」

一方、ベンチャー企業の経営者たちも危機感を抱いています。

フルリモート体制に移行し、オフィスを解約した企業も多数。当初はオフィス賃貸料のコスト削減や、遠隔地から人材採用ができる点をメリットと捉えていましたが、ベンチャーの強みである「スピード感」「イノベーション」が失われることへの懸念が生まれています。

担当業務が細分化されていないベンチャーでは、発生した業務に対して手分けして対応しますが、「これは僕がやっておくよ」「あなたは今、業務を抱えすぎだから私が手伝うよ」といった臨機応変の連携がしづらくなっています。結果、ビジネスの展開スピードが落ちてしまうわけです。

また、オフィスでのささいな雑談から新しいアイデアが生まれ、イノベーションにつなげるチャンスも減っています。

もちろん、リモートワークによって生産性が上がった事例も多数ありますが、オフィスでの対面コミュニケーションの価値が見直されているのも事実です。

出社+リモートの「ハイブリッド型」で最適なバランスを模索

こうした背景から、一時期はフルリモート体制にシフトした企業でも、「リモート」+「出社」のハイブリッド型を導入するケースが増えています。

ただし、リモートワークと出社のバランスは、まだまだ模索中。事業部門や職種によっても最適なバランスは異なるため、各社、確立するにはもうしばらく時間を要するのではないでしょうか。

なお、出社して働ける企業を望んでいる人も、出社に対する経営トップや上司の考え方に対しては敏感です。

冒頭に挙げたイーロン・マスク氏は、Twitterで「出社せず働いているフリをしている」という発言もしたそうです。そのように「性悪説」で捉え、従業員を「監視する」ために出社を求めているような企業は避けられます。

経営陣がコミュニケーションの重要性や価値を理解し、その効果を高めるための場・機会を用意してくれている。そして社員たちもその環境を積極的に利用して、コミュニケーションから学んだり楽しんだりしている――そんな風土を求めているのです。

今の時代、企業にとって「フル出社」を義務付けるのは得策とはいえません。優秀な人材が「リモートワーク可」を条件に企業を選んでいるからです。柔軟性が高い働き方によって生産性を高め、利益をもたらせる人材を獲得するためにも、リモートワーク制度を持っておくことは有効です。

しかし同時に、社員がコミュニケーションを通じて成長したりエンゲージメントが高まったりする場所・機会を設けることも重要といえるでしょう。

ちなみに、私が代表を務める会社での取り組みもお話ししましょう。

私の会社では、今後も当面の間、リモートワークメインの働き方を継続します。私自身が昨年、次男の進学にともなって静岡に移住したからです。会社のオフィスと夫・長男が住むマンションはまだ都内にありますが、普段の生活拠点は静岡なのです。

また、メンバーのほとんどがワーキングマザーであるため、メンバーにとっても仕事と家庭を両立させるにはリモートワーク中心のほうが好都合なのです。

しかし、リモートに移行した当初は、「ちょっとした相談・雑談」がしづらいこと、孤独を感じやすいことに課題を感じていました。

そこで、チャットツールに気軽な雑談スレッドを設けて皆で投稿したり、週1回はオフィスに集まってランチをとりながら雑談する時間を設けたりと、コミュニケーションを絶やさない工夫をしてきました。

さらに、最近導入したツールが、孤独感の解消や相談・雑談の活性化に効果を発揮しています。そのツールとは、音声のみのバーチャルオフィスツール『roundz(ラウンズ)』です。

このツールでは、音声が常時接続されていて、自宅でリモートワーク中でも皆と一緒にオフィスにいる感覚で、気軽に話しかけられます。

もちろん、オンラインミーティング中や話しかけられたくない状況のときにはステータス表示してマイクをオフにし、話しかけられないように設定することも可能です。私の会社ではこのツールの導入でコミュニケーションの活性化につながりました。

これは一例で、最近はリモートワーク環境でのコミュニケーションを促進するツールがいろいろと開発されています。

組織にとって最適な働き方を確立できるまで、リモートワークのデメリットをこうしたツールも活用してカバーしてはいかがでしょうか。

森本千賀子

morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「マンガでわかる 成功する転職」(池田書店)、「トップコンサルタントが教える 無敵の転職」(新星出版社)ほか、著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2022年06月17日 掲載]

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