出社はコロナ前の6割 企業、働き方の最適解を模索

JR東京駅前で通勤する人たち(6月21日)
JR東京駅前で通勤する人たち(6月21日)

新型コロナウイルス禍で企業が生産性と柔軟な働き方の両立を模索するなか、出社がじわり増えている。日本経済新聞がスマートフォンの位置情報データを活用し主要企業が本社を置く地区を分析したところ、6月第4週の出勤者数が3月中旬に比べ少なくとも2割増えていた。ただ、主要地区の出勤者数はコロナ前の6割の水準にとどまる。足元で再び急速にコロナの感染が拡大しており、最適解を巡って判断に迷う企業も出てきそうだ。

技研商事インターナショナル(名古屋市)の協力を得て、主要企業の本社が位置する東京・横浜・大阪の37地区で分析した。調査対象地区で調査期間の直前1カ月に昼間の滞在時間が長かった人を「勤務者」と定義し、平日5日間の延べ出勤者数を集計した。

37地区の22年6月19~25日(第4週)の平日昼間の出勤者数は、まん延防止等重点措置が解除される前の3月中旬に比べ20%増えていた。36地区で増加していた。ただ、コロナ前の19年6月最終週比では39%減となっており、オフィス街の出勤者の人出は完全には戻っていない。

出勤者数が3月中旬に比べて最も増えたのが横浜市西区高島1丁目で2.1倍に増えた。いすゞ自動車は同地区に5月に本社を移転。コロナ感染拡大が落ち着いた時期であったことなどから同月から原則出社とした。「拠点集約でグループ企業間の連携を取りやすくするなど円滑に業務を進めるため」(同社)とする。

40代の男性社員は「何気ない相談などがしやすく仕事の効率があがった面もあるが、テレワークと組み合わせる方法もあったのではないか」と話す。

東京都千代田区丸の内1丁目5~6番地も出勤者数が伸びた地区だ。同地区に本社のある日立製作所は重点措置解除後に「リモートと出社を柔軟に組み合わせた働き方とする」とした。従来は在宅勤務を原則としていた。5月末からは社内でのマスクの着用基準も緩和するなど、従業員の無理のない働き方の模索を続ける。

多くの企業はテレワークと出社を組み合わせたハイブリッド型の働き方を現時点で導入しており、そのバランスを探っている。東芝もコロナ前の出社を前提としていた勤務体系を改め在宅と出社を組み合わせる働き方に移行する。

出社に関する企業の方針は多様だ。ホンダが5月から原則出社に切り替える一方で、三菱ケミカルグループのように本社などのオフィス従業員を対象に完全テレワーク制度を恒久的に導入する企業もある。

NTTも主要子会社の3万人を対象に7月から原則テレワークとした。社員のテレワーク導入率が8割に達するNTTコミュニケーションズの30代男性社員は「働く場所や時間の自由度が高まり、働き方として浸透してきた」と話す。

海外でも企業の対応は割れる。米グーグルが従業員に週3日の出社を推奨している一方で、米テスラのイーロン・マスク氏は5月末、「毎週、最低40時間オフィスで働くのが嫌だという者は、他の就職先を探すべきだ」などと従業員にメールし物議を醸した。

米調査会社のフューチャー・フォーラムが実施した世界の1万人超を対象としたグローバル調査によると22年2月時点で週5日出社している人は34%で20年の調査開始以降過去最高となった一方で、ハイブリッド型は22年2月でも45%となり働き方として定着する。

米民間雇用サービス会社ADPの調査によると、オフィスへの復帰を強制すると転職を検討する労働者の割合が65%に達するという。キャリア向上のための成長分野への転職を検討している人の割合(55%)を上回る水準だ。

日揮はコロナ禍中に一度、経営陣が社員に対し原則出社の方針を示し、現場の社員から疑問が呈された。ある若手社員は「テレワークが定着する過渡期だけを見て、社内のコミュニケーション不足が見られたと総括されたのは残念だった」と振り返る。

今年5月以降は原則出社としながらも、理由を問わずに週1回、育児中の社員であれば週2回まで在宅勤務を選べるようにした。経営側は柔軟な働き方の余地を残して現場の意向とのバランスに配慮する。

パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は「日本ではコロナ禍の新たな働き方の総括がないままに、出社が増えている企業も多い」とみる。技研商事によると、7月11~15日までの東京・丸の内地区の人出は前週比3%減。コロナの感染再拡大を警戒した動きがじわり広がっている。企業は働き方の最適解を探り続ける必要がありそうだ。

調査の方法 東証プライム上場500社超の本社のある東京・横浜・大阪の37地区で、スマートフォンなどの携帯通信契約者で匿名化しデータ分析の対象にする許可を得た位置情報データを活用した。「勤務者」の2022年6月19~25日の1週間の人流について、直近のまん延防止等重点措置解除直前の3月13~19日、コロナ流行前の19年6月最終週と比較した。

[日経電子版 2022年07月21日 掲載]

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