Zホールディングス、文系社員700人がAI人材に変貌

しごと進化論 経験ゼロから企画立案

Zホールディングス(HD)が文系社員を人工知能(AI)活用の戦力に変えている。グループ横断の文系塾で約700人を育て、AIによる新たな画像検索や顧客分析といった企画が生まれた。日本は数学や科学など「STEM」分野の卒業者数が米国の10分の1と少ない。文系社員がAIを体感して学び、現場での課題解決につなげていく仕組みが競争力を左右する。

現場にAI活用の視点

「経験ゼロだったAIのハードルが大きく下がり、職場の課題解決に生かしたい」。ZHD傘下のヤフーで働く32歳の大野志穂さんは成長を実感する。競売サイト「ヤフオク!」などではサービス内容、操作手順、トラブルといった多岐にわたる顧客からの問い合わせがあり、その対応の改善業務を担っている。

大学では日本文学を専攻し、入社後もAIは未知だった。転機となったのが、「Z文系AI塾」への応募だった。

この塾は新規事業を手がけるZOZO子会社の元取締役で、自らも文系出身の野口竜司氏らが立ち上げた。グループ主要約30社のすべての文系社員から募り、関心の高い人材を発掘。まず2021年9月から半年間で、20~40代を中心にヤフーやLINE、アスクルなどから674人が参加した。全従業員の3%相当の人材が各職場にAI活用の視点を入れる。

プログラミングや統計の専門知識なし

AIは長らく、アルゴリズム開発や論文など「つくるもの」だった。しかしプログラミングや統計の専門知識なしで、AIを活用できる「ノーコード技術」が進化。データやアイデアがあれば、初心者も挑みやすい時代に変わる。

学習は大きく3つのステップに分かれる。1つ目は土台となる基礎知識の講義だ。まず「販売量」などAIで予測したい目的変数、「価格」「地域」のような予測に必要な「説明変数」を学ぶ。「識別系」「会話系」「予測系」「実行系」といったAIの機能別の分類なども習得する。

2つ目が模擬データで手を動かすこと。ソニーグループが開発し、製造業や流通業なども利用するノーコードのAIツールを使い、受講者は購入予測モデルをつくった。同塾講師の宮園太貴氏は「AIは体感が最も重要だ」と指摘する。

独自性が表れるのが3つ目だ。野口氏が考案し、AI活用に「WHO」(誰のため)、「WHY」(なぜ必要か)などを具体的に落とし込む「5W1H」のフレームワークを使う。個々の問題意識から、約400件の企画が生まれた。

大野さんは電子商取引(EC)での商品画像検索の高度化を考案した。例えばテーブルを探す消費者が好みの脚の形を見つけても、デザインに明確な名前がなく、類似商品の検索が難しい。そこで商品画像の中で気に入った部分に印をつけ、「目当ての商品候補を探すAI」を編み出した。

チームで企画100本ノック

アスクルから参加した保田大輝さんは、自社サイトの訪問客が「アスクルに愛着があるか」「特定商品を狙った目的買いか」など、来店動機を5つに分類するAIを開発して実用化も始まった。野口氏はチームでの「AI企画の100本ノックがおすすめ」と指摘しており、ZHDは文系人材が豊富なアイデアをどんどん提案し、AIを実装する環境にする。

ZHDは「AIテックカンパニー」を掲げ、21年度から5年でAI技術や人材に5千億円を投じる。だが21年春に統合直後のLINEで個人情報の管理問題が発覚し、シナジーはまだ十分ではない。22年度以降も塾の募集を広げ、グループの人材交流でアイデアや課題を出し合う。人事部門統括の今村健一執行役員は「AIを使う新規事業や資格制度など、ムーブメントを起こす」という。

ヤフーはAI活用例を募り、優秀な個人・チームに最大100万円を支給する制度も導入した。日本企業はデジタル施策の外注が目立ち、「丸投げ」では伝言ゲームになり、課題認識がずれやすい。あらゆる産業構造が変わるなか、文系社員のAIの知見を高めることが競争力を底上げする近道になりそうだ。

5人に1人は素養高く、非DX部門に隠れ人材

経済産業省によると、AI人材の不足は2030年に12万4千人と、25年より4割増える。エンジニアの奪い合いでは需給ギャップは解消しない。デジタルトランスフォーメーション(DX)に資する「隠れ人材」の発掘、育成が課題となる。
AI開発のエクサウィザーズは4700人を対象に、データサイエンスのスキル、数学への理解や好奇心などを数値化して調査した。結果、DX推進部署以外でも5人に1人の素養が高いことが判明。企画部門の32%、営業で24%が該当した。
AI活用について、他人任せにしない「DIY精神」を育み、組織全体で試しやすい環境を整える必要がある。
また東京大学の隠岐さや香教授は「日本は高校で文系と理系に分け、能力を自己規定しやすい」と教育の構造問題を指摘する。「米国は大学で文学と数学など2分野を同時専攻する『ダブルメジャー』、就職後に再び大学で数学などを学べる柔軟な制度が担い手を増やしている」とみる。
AI人材を掘り起こしつつ、文理の壁を取り払う教育制度の改革も問われる。
(DXエディター 杜師康佑)

[日経電子版 2022年07月19日 掲載]

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