転職サイト「日経転職版」は特別セミナー「2022年最新のプロティアン・キャリアとは」を開催した。法政大学教授で一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事の田中研之輔氏に、現在のプロティアン・キャリアの最前線の状況について語ってもらった。
「プロティアン・キャリア」の考え方をひとことで言うと、「(自分の)キャリアを(他人や組織に)預けない」ということです。たとえ組織人であったとしても、組織にすべてのキャリアを預けるのではなく、自分で主体的にキャリア形成をしていくことが重要です。この考え方をもつことで、私自身も生き方が変わり心理的幸福感が高くなったと感じているので、ぜひ皆さんにもお伝えして、実践してもらいたいと思っています。
「プロティアン・キャリア」の最前線では、個人の主体的なキャリア形成を組織が応援することで、個人と組織がよりよい関係性を築けるようにする取り組みが進んでいます。そしてそれが企業の生産性や競争力をグロースさせるエンジンになるという考え方が広がっています。
個人が主体的にキャリア形成をするためには、自分のキャリアオーナーシップは自分でもつという「他責にしない」考え方や、過去を否定せずに「自らを受け入れる」という心掛けがポイントになると思います。その上で、まずは「個人のパーパス(目的)」を決めることです。
個人のパーパスを策定するときに覚えておいてほしいことが2つあります。それは「パーパスは変化してもいい」ということと「1つではなく複数あってもいい」ということです。自らを作るためのパーパスは何か、組織や事業を作る関係概念としてのパーパスは何か、社会を作るためのパーパスは何かというように、キャリア形成のフェーズによって変化していっていいですし、複数あっていいのです。
キャリア論における歴史を見てみると、キャリアの捉え方は、昭和・平成・令和と変化してきています。「プロティアン・キャリア」は現在のキャリアの考え方の最先端にある、1つの流派と言えると思います。昭和の時代に組織優位だった考え方が平成の時代には個人優位になり、令和は「個人と組織の関係性をよりよくしていく時代」になると私は見ています。つまり、個人主義的にならず組織との関係性を最善化させて「組織内キャリアから自律的キャリアへ」移行する時代です。この流れを頭の片隅に置いてキャリア形成について考えてもらうとうまくいくと思います。
この流れの中でもう1つ押さえておいてもらいたいのが、「人的資源管理から人的資本管理へ」ということです。つまり、今もっているスキルばかりに目を向けるのではなく、自分の可能性をいかに伸ばすかを考えることが、プロティアン型のキャリア形成では重要です。
プロティアン型のキャリア形成を具体的にどのように考えていけばいいかと言うと、まずは自分のキャリアをチェックする「キャリア診断」によって客観的に今の自分の状態を把握することです。そして、ビジネスにおける経営戦略や事業戦略と同じように「キャリア戦略」を考えることです。

「自らを創(つく)るために何を成すのか?」「組織・事業・集団を創るために何を成すのか?」「社会を創るために何を成すのか?」。この3つを考えることをキャリアワークとしてやってみてください。
このワークによって「自分のキャリアのブレーキになっているものは何か?」を特定することができるはずです。キャリアに対する停滞感を「迷っている」フェーズから「考える」フェーズに進めていくことが重要です。ブレーキを特定し、それを外すためには何をすればいいかを考え、ブレーキが外れたらアクセルを踏むことに取り組んでください。
キャリアワークに取り組む上で、「個人のパーパスが見つからない」と感じた人は、次の4つのステップを意識しながら考えてみてください。
「戦略設計→意識改革→組織貢献→自己研さん」。この4ステップが個人のパーパスを見つけるためのステップになります。
これをやることで自分のキャリアの強みが可視化されるので、その強みを「資産化」することを考えてみてください。キャリア資産はただもっているだけでは価値が変わりませんが、自己投資して「資本」として増やしていくことを考えれば、いくらでも伸ばせる可能性があります。
「私にはキャリア資産になるものがありません」という人がときどきいますが、そのようなことはありません。預貯金や家、車、ブランド品など目に見える「有形資産」はわかりやすいですが、目に見えない「無形資産」はわかりにくいものです。私たちは働いている過程で、例えば、プレゼンテーションをする、資料をまとめる、時間管理をする、ビジネスマナーを身につけるなどの無形の資産を誰しも培っているものです。これを強みとして認識して、キャリア資本戦略の中長期計画をぜひ考えてみてください。「悩む」のではなくしっかり「考える」ことで、キャリアを形成していくことができます。
今まで「キャリアについて考える」と言うと、例えば「キャリアの棚卸し」など過去の自分に向き合うことでした。実際にそのようなことに取り組んだ経験のある人が多いと思いますが、プロティアン・キャリアの最前線では、「これからのキャリアを作るトレーニングをする」という視点をもつことが重要なポイントになっています。キャリア戦略を考えながら、強みを徹底的に磨いて自分自身を強化していくことが大切です。
[NIKKEI STYLE キャリア 2022年06月04日 掲載]