
エイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)がデジタル人材の育成を強化している。百貨店の販売員やバイヤーなどへのIT(情報技術)教育に数年間で1億円超を投資する。システム子会社で管理職も経験させ、将来の経営人材の発掘も狙う。IT人材の層を厚くし、転換期にある百貨店事業モデルのデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める。
「デジタルと現場の両方の知見を生かし、各事業のDXを進める人材として活躍してもらう」。H2OのIT・デジタル推進室長を務める小山徹執行役員は2020年度に始めた人材育成プログラムの狙いについて語る。
同プログラムでは百貨店の売り場で働く販売員や商品部のバイヤーらを同推進室に出向させる。参加者は座学と職場内訓練(OJT)を活用した約3カ月間の研修を受けた後、社内のIT化推進プロジェクトに加わってシステム設計やクラウド導入などを学ぶ。
一部の参加者には今度はシステム子会社に出向させるなどして、管理職としての経験も積ませる。将来的には再び出身部署にデジタル分野の責任者として戻す計画だ。

過去2年間で約3000万円を投資し、20代の若手を中心に14人が参加した。22年度も30~40代の中堅社員を中心に10人程度参加する予定だ。今後数年間で1億円超を投じる。
阪急うめだ本店(大阪市)の紳士服売り場の販売員だったソン・ヨンドクさん(30)は20年度に同プログラムに参加。現在は子会社のエイチ・ツー・オーシステム(大阪市)で担当部長を務め、社内ITインフラの設計やクラウドサービスの導入などを手がける。
17年に韓国から来日して阪急阪神百貨店へ入社した当時は商品部のバイヤー志望だったという。ソンさんは「デジタル化が遅れているH2Oにとって今は流れに乗れるチャンス。将来は社内システムの整備だけでなく、対顧客のデジタル戦略を担いたい」と意気込む。
プログラム参加者の中にはさらに高度なIT知識の学習やDXの実務経験を求めて外部に転職した人もいる。優秀な人材の流出にもつながりかねないが、小山氏は「外部からH2Oや阪急阪神百貨店のDXに協力してもらいたい。将来的にIT関連部署への再雇用も検討する」と話す。

H2Oはデジタル技術の活用を急いでいる。8月下旬に複合ビル「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」へ移転予定の新オフィスでは顔認証システムを採用。他にも百貨店売り場での契約書や伝票などのペーパーレス化や、社内IT基盤にクラウドサービスの導入などを進める。
H2Oのグループ会社で、2月に発足した関西フードマーケット傘下の食品スーパーなどと顧客データの連携を深める取り組みも加速する。22年度中に関西圏に住む約1000万人の顧客とOMO(オンラインとオフラインの融合)でつながる新事業の立ち上げも視野に入れる。
H2Oは金融や不動産で稼ぐ他の百貨店大手と比べて百貨店以外の事業が弱く、デジタル技術を用いた顧客との接点創出が喫緊の課題だ。24年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画で260億円をIT関連投資に充てるとしており、23年3月期も110億円を投じる方針。大型投資と並行して社員のリスキリング(学び直し)を支援し、既存ビジネスの変革を急ぐ。
(大竹初奈)
[日経電子版 2022年07月13日 掲載]