次世代リーダーの転職学

「45歳以降のキャリア」はいつ考え始めるべきなのか?

ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行

40歳、45歳、50歳…、年齢が上がれば上がるほど、転職や起業など、キャリアチェンジの選択肢は減っていきます。それと反比例するように、事前準備に必要な時間は長くなります。特に、“45歳以降のキャリア”はその年齢になってから考えていては間に合いません。いかに長期的な視界を身に付けて、早い段階から将来のキャリアを考えるべきか。今回はキャリア準備のタイミングについて掘り下げてみたいと思います。

年齢が上がるほど長くなる「転職のための準備期間」

先日、「転職をすべきかどうか迷っている」という相談でお会いした47歳の精密機械メーカーの営業部長。相談の内容を簡単にまとめると、以下のようになります。

「あと3年で50歳という年齢が見えてきたが、上司や先輩たちの世代の状況を見てみると、役職定年や出向、転籍などでどんどん自分の居場所がなくなっている人が多い。業界自体の先行きも読めない中で、そろそろ転職も視野に入れておかないといけないと思っているが、自分の市場価値もつかめないので、なかなか行動に踏み込めない」

ということで、ご本人としてはかなり現状について悩んでおられる様子でした。

この種の悩みは、最近特に40代50代の方から相談されることが増えています。子供の進学や親の介護など、家族を守るために安定した収入は必要だが、今のままの業界や仕事を続けていても将来は先細ってしまう。しかし、転職自体がリスクに見えるので動きに動けない、と八方ふさがりの状態で悩んでいる人がとても多いのが実情です。

20代、30代前半までは、現場第一線のプレーヤー募集の求人需要が多いので、思いついた時に転職しても十分に選択肢がある状態で、転職活動は円滑に進められます。しかし、35歳を過ぎたあたりから、求人市場の需給バランスが変わってきます。

具体的には、登録している転職サイトからスカウトメールは送られてくるが、少しずつ希望する求人の割合が減少してくる。求人が豊富にあるように見えても、いざ実際に応募してみると書類選考通過率が以前より露骨に下がり始める。といった現象が起こり始めます。

「人材不足で中高年の転職者が増えている」「35歳転職限界説は過去のものだ」というニュースを目にする機会は増えてきていますが、これは単純に「転職先が決まった人が増えた」という事実だけであって、「希望していた条件で転職ができた人が増えた」ということを意味しているわけではありません。転職先への満足度や、転職活動を始めた段階での希望条件との合致度はそこには表れないからです。

想定していなかった事情で、突発的に転職活動をしても、まったく希望していなかった転職先でしか働けないというリスクに直面する可能性が高いです。「自分にとって満足度が高いキャリアチェンジ」を実現するには、年齢が上がれば上がるほど、その可能性を高めるための準備が必要になります。

45歳以降のキャリアは40歳までに設計しておきたい

「年齢が上がるほど、満足度が高いキャリアチェンジをするために準備が必要になることはわかりました。では、いったいどれくらいの期間、どんな準備をすればいいのでしょうか?」そんな質問をよく受けることがあります。

ミドルの転職準備はとにかく早めに(写真はPIXTA)
ミドルの転職準備はとにかく早めに(写真はPIXTA)

実際にはどんな業界やどんな職種経験を持っていて、転職や起業後にどんなキャリアを築きたいのか?報酬や働き方など、どんな希望条件を持っているのか?によって準備に必要な期間や準備の中身は大幅に変わってきます。

しかし、あえて大ざっぱに一般的な傾向だと前置きした上で、上記の質問に対しては、以下のように答えるようにしています。

40歳以降のキャリアは30代後半の数年のうちに考えればいいが、45歳以降のキャリアも30代後半で見据えておく必要がある。50歳以降のキャリアは、遅くとも45歳までには、どんな仕事をどんな立場でやっていくのか具体的にイメージして、準備を始めておきたい。

少なくともそう考えて動いたほうが、ある日突然必要に迫られて、一夜漬けで動くよりは明らかに満足度が高い転職ができる可能性は高まります。

もし転職や起業など人生の転換点となるイベントを実行する可能性があるなら、最低でも実行の3年前にはキャリアを見直し、戦略立案を開始しておいたほうがいいと思います。

・自分が考える業界や仕事の周辺にどんな需要があるのか?またはどんな需要が高まっていきそうなのか?
・その市場で売りにできる、自分の中の経験やスキルはどんなものがあるのか?
・それは自分が希望する報酬水準で売れそうなのか、そうでないのか?そうでないとしたらどんな付加価値を追加搭載していかなければいけないのか?

少なくともこれらの要素を一通り考えて、具体的な手順に落とし込んでいくことをお勧めします。

異業種転職や独立起業……遠い目標ほど早めの準備を

準備の内容をさらに深めていくためのヒントを、もうひとつご紹介しておきたいと思います。それは自分の仕事人生を俯瞰(ふかん)して考えるという観点です。

たとえば自分は、70歳まで働きたいのか、60歳でリタイアしたいのか? どれくらいのペースで働いていきたいのか? 生涯をいくつかのフェーズに分けてみた時に、どの段階でどれくらい稼いでいきたいのか?

これらを俯瞰したライフプランを立てることで、いま目の前にある状況に対応するだけではなく、長期的かつ戦略的にキャリアを考えることができるようになります。

その際、遠い目標ほど、戦略的な準備が必要になりますし、ハイリターンをめざすほど、当然ハイリスクとなる傾向があります。たとえば長く働くことめざせば、雇われて働くだけではなく、独立・起業という手段が現実味を帯びてくるし、業界の先行き不安を解消しようと思えば、異業種への転職と言う判断も必要になってきます。

自分にとってリスクがあるように思える手段を選択する際に、事前準備でその不安を潰すことができればできるほど、幅広い選択肢を確保できます。年齢が上がるにつれてキャリアの選択肢が狭まっていく中で、いかに多くの選択肢を確保できるかが、精神的な余裕に直結していきます。

キャリア設計で後悔しないためのポイント

最後に、45歳以降のキャリア設計を悔いなく進めていくためのポイントをいくつかご紹介しておきたいと思います。ぜひ参考にしていただければ幸いです。

■雇用市場の情報収集を継続的に行う

ひとつめは今すぐ転職する予定がない期間も、できる限り雇用市場の動向を「線形で把握するために」転職活動を継続しておくということです。具体的には転職サイトや転職エージェントに登録して、自分あてに届くスカウトやオファーの内容をチェックし続けるというのが一番手っ取り早い方法です。「さあ転職活動を本気でやるぞ」というタイミングごとに求人情報をチェックしていたのでは、情報収集にブランク期間ができてしまい、その時々の“点の情報”しか入手できないため、変化や動向を感じ取ることが難しくなってしまいかねません。

■仕事を通じて手に入れたいものの優先順位を決める

40代後半からのセカンドハーフキャリアは、身体的にも心理的にも、時間の有限性を実感しながら働いていくことになります。もちろん年収やポジション、勤務時間など、具体的な希望条件も重要ですが、残りの仕事人生でいったい何を得て、何を残していきたいのか、という仕事観、人生観を実現するための時間でもあります。また、何かを得るためには、何かをあきらめなければいけないということもあります。自分が得たいこと、実現したいことの優先順位をはっきりと決めて、時間の使い方の純度を高め、迷いなく突き進めるように準備しておくことをお勧めします。

黒田真行

ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」http://lucentdoors.co.jp/cr40/

[NIKKEI STYLE キャリア 2022年05月20日 掲載]

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