金融DX、即戦力は争奪戦 改革の勢いそぐ銀行の論理

金融PLUS 金融グループ次長 藤川衛

デジタルトランスフォーメーション(DX)は銀行にとっても経営の一丁目一番地だ。対象分野は業務フローから顧客向けサービスまで幅広い。各銀行が悩んでいるのが人材の確保。即戦力採用は過熱し、行員を再教育する効果が出るには時間がかかる。すべてを完璧にやりきろうとする銀行の特性がDXのスピードをそぐ可能性がある。

23日にSBIホールディングスとの資本業務提携を発表した三井住友フィナンシャルグループ。中期経営計画では「グローバルソリューションプロバイダー」を掲げている。三菱UFJフィナンシャル・グループも「世界が進むチカラになる。」というパーパス(存在意義)に「金融」や「銀行」の文言を入れていない。各銀行はデジタルを使って銀行そのものを変革することを打ち出している。

人材育成「急がば回れ」

重要なのは人材の確保だ。大手行の採用担当者は「中途、新卒問わず、他業種との争奪戦状態。中途人材はスピード重視で動かないと他社へ流れてしまう」と明かす。他の銀行の担当者は「採用したとしても定着率が悪い」と話す。

金融機関は顧客の資産といった情報を扱うためコンプライアンスをとりわけ重視する。デジタル人材はオープンでフラットな組織を好む傾向があり、銀行の社風に堅苦しさを感じたり、働き方の自由度が低いと感じたりする人もいる。DXに明るくても金融機関のビジネスがわかる人は極端に少ないという点も即戦力を一気に確保できない理由だ。

中途や新卒の採用と同時に大手行が力を入れているのが、リスキリング(学び直し)による行員の底上げだ。採用の状況を踏まえ「DX人材の育成は急がば回れだ」と話すメガバンク幹部もいる。

必ずしもプログラミングを理解できる必要はなく、デジタルの素養を身に付けることを第一のステップとしている。通勤などの隙間時間に業務用のスマートフォンで見られる動画コンテンツを用意するなど工夫を凝らす。

三井住友銀行では2016年に「デジタルユニバーシティ」を設置し、グループの従業員5万人を対象に教育を始めている。ワークショップでは企業が抱える課題を引き出し、DXによる業務改革提案やビジネスモデルの構想までを疑似体験する。「金融取引のない企業からデジタルの相談がきて、取引が始まった例もある」(システム統括部)といい、成果も出てきているという。

専門人材の育成にも力を入れる。例えば、三菱UFJが中堅の行員を指名して行う研修では、参加者は模擬ビジネスでDXを企画したり、システムを設計したりする。内容は実践的で、その後は新規事業の企画やDX関連の案件に携わることを想定している。みずほフィナンシャルグループは外部IT企業への業務出向やテック系大学院の留学などで専門性を高めるプログラムを用意している。三井住友も専門人材は大学院などでの研修を実施している。

リスキリングの効果が出るには時間がかかる
リスキリングの効果が出るには時間がかかる

スピード見劣り

銀行の論理や事情を優先してDXを進めようとすると、改革のスピードをそいでしまう可能性がある。参考になるのが、りそなホールディングスのオープンイノベーション拠点「りそなガレージ」だ。アプリの開発では協力するチームラボ(東京・千代田)や日本IBMのメンバーも席を並べ、座席を固定せず自由な場所で作業する。

大きな組織ではなく、小さな単位のチームで実装と開発を繰り返すことで、開発期間を短縮する。川辺秀文DX企画部長は「ポイントは顧客情報は扱わず、コストの議論は一切しないこと」と話す。

日本の金融機関は、米銀に比べるとデジタル化のスピードで見劣りする。米銀は非効率な業務をいち早く切り離し、デジタル化を進める部分を明確にしてきた。これが改革のスピードを生んでいる。

IT投資の額も米銀が毎年1兆円かけるのに対して、メガバンクは年間2000億円弱だ。日本はシステムの保守・管理が中心で、サービス開発に回す投資額が小さい。人材の確保とIT投資の両面で出遅れている。

経済産業省が出したリポートによると、デジタル人材は30年に79万人不足すると懸念されている。金融ビジネスにもデジタルにも精通する人材は少ないのが現状だ。システム会社も含めた外部を活用し、イノベーションを生むチームづくりや環境をつくりながら進めていくのが現実解となる。ともすると、銀行のDX戦略は総花的なものになりがち。経営者の戦略策定力とマネジメント力がDXの成否を左右する。

[日経電子版 2022年06月27日 掲載]

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