次世代リーダーの転職学

プロ経営者の失敗に学ぶ 転職幹部のやってはいけない

経営者JP社長 井上和幸

4月下旬、プロ経営者にまつわる2つの「事件」が話題となりました。日本電産の永守重信会長のお眼鏡にかなったはずの関潤社長が最高経営責任者(CEO)から最高執行責任者(COO)に戻ったニュースが1つ。もう1つは、吉野家の伊東正明常務取締役(当時)が大学講義での女性蔑視の不適切発言で解任されたニュースです。

これらは遠い世界の話でしょうか? 実は、経営幹部や管理職として転職をお考えの皆さんにとっては決して他人事ではなく、今後の転職やキャリアについて他山の石とする点が多々あります。

プロ経営者の成功と失敗を分ける思考・行動がある

日系企業におけるプロ経営者の招へいは、社長・取締役のみならずチーフオフィサー(CXO)クラスまで含めると、この10数年で大きく広がり、外部採用の数は増え続けています。当社でも多くの経営者・経営陣の採用をご支援しています。

もちろん経営者・経営幹部として成果をあげていらっしゃるプロ経営者も多くいらっしゃいます。しかしその一方で、機能しない、あるいは会社をダメにしてしまうプロ経営者がいるのも事実です。

私はこれまで2万人を超える経営者・経営幹部・管理職層の方々のキャリアを見てきました。そこで言えることは、プロ経営者にとって成功と失敗の境界線となる思考・行動が存在するということ。そしてそれは、転職経営幹部・管理職についても等しく当てはまることなのです。

そこで今回は、プロ経営者が失敗する代表的な3つのパターンから、管理職(部長・課長)が転職する際に気をつけるべき思考・行動について見てみましょう。

パターン(1)自社へのリスペクトのない幹部転職は失敗する

転職管理職(部長・課長)には、「事業、商品・サービスにほれ込んで」着任する人と、そうでない人がいます。

具体的な案件の選考が進んでいく中で、「このビジネスにはとても可能性を感じますし、ぜひ自分の力でそれを実現してみたいです」と応募先企業の事業や商品・サービスにのめり込んでいく人と、そこには終始あまり目がいかない(興味ない?)ままポジション(肩書)や待遇についての話が中心となる人に分かれます。

当社としては、経験上、前者の人は入社後、期待通り職務にコミットされるので企業側に採用をお勧めしますし、後者の人は(そもそも、このタイプを当社が企業側にご推薦するケースは基本的にありません)早晩うまくいかずにまた次の転職を考えるようになるので採用を控えるようお話しします。

プロ経営者が失敗するパターン(1)は、事業、商品・サービスへのリスペクトがない人が、その会社の本質的な価値や強みを引き出す経営ができなかったというケースです。

吉野家を解任された伊東氏はプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)でマーケティングセオリーをたたき込まれたプロマーケターとして知られていました。その伊東氏が若い女性を顧客化するために選んだのが、地方から都市部に出てきた若い女性が、男性から高い食事をおごってもらうようになる前に「牛丼中毒」にし、そこでリピート客になってもらうというシナリオでした。

ツッコミどころ満載の戦略ストーリーですが、いち吉野家ファンとしても、吉野家の牛丼は「男性から高い食事をおごってもらう」ようになったら食べなくなるようなクオリティーの低いものなのでしょうかと言いたいです。伊東氏には明らかに、吉野家の「うまい、やすい、はやい」という価値への共感がなかったと言わざるを得ないでしょう。

経営の要諦は、その企業・事業(商品・サービス)が持つ根源的価値を見極めて、それを徹底的に磨き込むこと。そもそもこの出発点がずれている人、あるいはその見定め・見極めに興味関心のない人が要職につくことは、その会社を瓦解させることにしかならないはずです。

採用側は絶対にこうした幹部人材を採用してはなりませんし、当の本人も、こんな状態で着任しても、大きな成果をあげることは難しいのですから、やめておいたほうが良いと断言します。

パターン(2)「次のキャリア」しか考えていない幹部は総スカン

転職管理職(部長・課長)には、「その会社に骨を埋める覚悟で」着任する人と、そうでない人がいます。

「この会社で担える役割・テーマをライフワークとしたいです」。そんな気持ちを抱いた人を、企業は欲しており、ぜひ採用したいと思っています。

以前の当コラム「30~50代の転職 ポストコロナに求められる3つの常識」の中でも、「『終身雇用マインド』で転職せよ」というお話をしました。もちろん、しがみつくような雇用ありきでの終身雇用を指しているわけではありません。経営幹部や管理職においては、ある面、青臭いミッションやビジョン、パーパスへのコミットメントがあるリーダー人材に絞って採用したほうがいい。それはそのまま、自社の従業員たちへの求心力ともなり、組織エンゲージメントの強化に直結するからです。

幹部としての転職で失敗しないためには(写真はPIXTA)
幹部としての転職で失敗しないためには(写真はPIXTA)

経営職(取締役)でいえば、その職は一定有期の役割。幹部であっても「定年まで」を前提にする人ばかりではないのは時世柄ごもっともです。しかし、着任時点から「次の自分のキャリア」ばかり考えているようなトップや幹部に、社員たちの心はついていくでしょうか。

プロ経営者が失敗するパターン(2)は、自分のことしか考えていないトップに従業員がついてこないケースです。

最近、メディアに登場するプロ経営者たちの中で、在任中から次のキャリアを口にしたり、転職渡り歩き術に関する自著を出したりするケースが目につきますが、私見としてはいかがなものかと思います。

従業員たちから、このような経営者や管理職が自分たちの会社に転職してくることは、どう見えているでしょう? 少なくとも、なんだかなぁという感じでしょうし、愛社精神の強い社員たちが多くいる会社であれば、そのような脇見ばかりしている上司に対して憤りを感じますよね。

パターン(3)プロパー社員の軽視はNG

転職管理職(部長・課長)には、これまで自社を支えてきた従業員たち(プロパー社員)への愛情を持って着任する人と、そうでない人がいます。

プロ経営者が着任した企業が、それ以前とは打って変わって、続々と幹部クラスの人材が外部に流出するようになるという事象を、私はこれまで何度も見てきました。

プロ経営者の着任で、叩き上げのプロパー人材で主要なポストが占有されていて組織活力や柔軟性に欠けていた企業が、よい意味でも人材の代謝が活発になるというケースももちろんあります。ただ一方では、それまで愛社精神をもってその会社を支えてきてくれた中核人材が、せきを切ったように外部に飛び出し始めるということもあります。

後者の事象が発生するケースでは、大抵の場合、着任したプロ経営者が、内部の幹部を登用せずに、自分が好みの外部人材を次から次へと招き入れ、それまで支えていた幹部をどんどん外してしまうようなことをやっています。

以前ある企業で、外部招へいで着任した経営トップの方から幹部の外部採用についてご依頼をいただき打ち合わせを行った際に、脇にいらっしゃるプロパーの人事部長を前に、「いやー、うちは本当に、内部に使える幹部が全然いないんでねー」と臆面もなくおっしゃっていたのを、ヒヤヒヤしながら聞いた経験があります。

プロパー社員をダメ人材扱いして、自分の子飼いを外部からぞろぞろ連れ込む人、社内での自分の立ち位置を盤石にしようと既存社員たちにマウントを取るトップや幹部が、従業員たちの総力を結集して事業を成長させたり変革したりすることができるでしょうか?

プロ経営者が失敗するパターン(3)は、プロパー社員を信じず外様ばかり重用して、組織が空中分解するケースです。

これもこの連載で折々事例をご紹介してきましたが、「俺のほうが上だ」「俺が教えてやる」というようなマウント型の転職管理職は、総じて人間関係部分でつまずき、成果を上げることなくその会社を去ります。

逆に、当社経由で着任いただいている管理職の方々を拝見していても、プロパーの方々とすぐに打ち解け、心を共にしてグッド・コミュニケーションを図られている人たちは、プロパーの方々が味方となってくれてとても仕事がしやすそうですし、周囲からの信頼も得て生き生きとご活躍されていらっしゃいます。

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4月21日の決算説明会で日本電産の関氏は、COOに戻ったことについて「正直悔しい。振り返ると、やはり日本電産の各事業を見ながら、社長業、CEO業をやって、向かい風を跳ね返す力がなかったのは事実。会長との実力差を見た。特徴ある日本電産に社長でぽっとはいる難しさを実感した。実際の経営力の習得に時間をかけすぎた」と語りました。

やはりプロ経営者はダメだった。結局オーナーはトップを手放せないのだ……。そう語ることは簡単ですが、永守氏は、経営トップはあくまでも「出せる事業成果に応じた役割」であること、敗者復活もあり得ることを強調しています。

関氏は「チームの意識改革をして、しっかり結果を出したい。経営はすべて結果だ。頑張ったねではうれしくない。頑張ったかどうかは語られなくても、すごいことをやってきたということで認めてもらえるようにやっていきたい」とも語りました。

そんな関氏のリベンジとCEO復帰を願っておりますが、率直に言って、私はこの関氏の語り口に不安を覚えます。鍵は、自分のバリューアップよりも、自社・事業・従業員たちの社会的価値向上を大切にすること、また、自分が認められたい思いよりも、事業・従業員たちの成功が第1であるというマインドで仕切り直せるか否かではないかと思います。

そしてこの関氏の言葉は、そのまま転職管理職(部長・課長)がいかなる心境と姿勢で、新天地での責務に取り組むべきかについて、反面教師としても教えてくれているのです。

井上和幸

経営者JP 代表取締役社長・CEO。1989年早稲田大学卒業後、リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年よりリクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)。2010年に経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。https://www.keieisha.jp/ 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)など著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2022年05月13日 掲載]

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