次世代リーダーの転職学

転職先で部長止まりか役員昇格か 違いは5つの力

経営者JP社長 井上和幸

ひと昔前までは転職先で役員候補といえば外資系企業か、縁故づてくらいしか外部から登用される機会はありませんでしたが、今では公募市場においても取締役や執行役員・CxO(最高~責任者級)候補の募集が少なからず行われるようになっています。

結果として希望通り役員に就任する人もいますが、一方では本人の希望、あるいは自らの自覚・自信とは裏腹に「役員クラスを期待するのは、ちょっと難しいですね」という判断にならざるを得ないケースも少なくありません。現実としては後者のほうが圧倒的多数です。では、そこで実際に役員に起用される人とそうでない人の違いは何なのでしょうか?

マネジメントに求められる「5つの力」

当社では経営陣や中間管理職として活躍するマネジメント層に必須の力として「5つの力」を特定して方程式化しています。それは次のような式です。

経営者力=(構想力+決断力+遂行力)×リーダーシップ力×学習力・習慣化力

「構想力」「決断力」「遂行力」の3つがマネジメント層が業務遂行するにあたって求められる骨格の3要素であり、足し算で表しています。この3つにレバレッジをきかせるのが「リーダーシップ力」と「学習力・習慣化力」で、掛け算となっています。

マネジメント力の高い人は共通して、この5つの力を発揮して日々の現場に臨んでいます。興味深いのは、同じマネジメントでも、課長~部長の中間管理職層と執行役員~取締役の経営層とでは、5つの中で特に優れて発揮されている力が異なるのです。

役員室に入るには「5つのハードル」が待つ(写真はイメージ) =PIXTA
役員室に入るには「5つのハードル」が待つ(写真はイメージ) =PIXTA

では、部長や課長はいったい何で評価されるか。それは、任された組織において課された目標・テーマに対して成果をしっかり出すことです。

よって5つの力の中でも特に、「遂行力(やり切る力)」と「リーダーシップ力(まとめる力)」の2つの発揮が求められることを、まず記憶してもらえるとよいかと思います。

「遂行力(やり切る力)」とは、絵に描いた餅で終わらせず、決めたことを徹底的に実行する力です。これを採用上、どのようなポイントから見極めるかと言いますと、「戦略を分かりやすく説明、浸透させているか」「戦略を果断に遂行しているか」「業績への強いコミットがあるか」が挙げられます。

職務経歴書の記述や面接での話においては、ぜひこれらをカバーするようにしてください。あくまでもファクトベースで、具体的事例で話すことが肝要です。

チームのメンバーに戦略をどのように周知しているか。どのように実行に当たっているか。業績達成への強い執念を物語るエピソードは何か。これらの点を棚おろししてみてほしいと思います。

マネジメントとは「人を動かして、ことをなす」ことです。「リーダーシップ力(まとめる力)」が高い人は組織や事業を大成させやすいことでしょう。

これを面接でしっかり伝えるには、「周囲からの信頼を獲得している」「組織を組成、場づくりに気を配り、チームをリードしている」「メンバーの個性・主体性を生かし、人材開発・育成に努めている」ことを、それぞれのエピソードで伝えることが効果的です。

部長や課長は経営・事業からの「問い」に答えて結果を出す立場です。そのため、特にこの「遂行力(やり切る力)」と「リーダーシップ力(まとめる力)」の2つの力を発揮できる人材が中間管理職として活躍するのです。

部長と役員の間にある「非連続的ジャンプ」

部長や課長として「遂行力(やり切る力)」と「リーダーシップ力(まとめる力)」を発揮して活躍してきた人が執行役員や取締役へと昇進できるか否か。実は部長・課長と取締役・執行役員の間にはスムーズに階段をあがるようなわけにはいかない「非連続的ジャンプ」があるのです。

それは、「問い」に答えて結果を出す人から、「問い」自体を設定できる人への転換です。取締役やCxO、執行役員には、5つの力の中でも特に「構想力(描く力)」と「決断力(決める力)」という2つの発揮が期待されることになるのです。

「構想力(描く力)」とは、自社の事業ビジョンや、個々のサービスの到達点、目指すべき姿をしっかりと描ける力。できる経営者の人たちがよく口にするのは、「頭の中でくっきりと絵を描いて、それを社員や社外のステークホルダーに説明する」というフレーズです。これは「見えていないものは、成し遂げ得ない」という信念から出てくるものでしょう。

「構想力(描く力)」でよく言われるのは、「鳥の目」を持つことです。自分の立ち位置や仕事内容を俯瞰(ふかん)してみる癖を身につけているかが問われます。もちろん、どのような立場であれ、究極は「社長の目」に立つことです。将来の後継者候補たる人材は日々、社長の目から自社の事業や日々の業務を見ているものです。

ちなみに私は「構想力(描く力)」を持っているかどうかを評価するポイントとして、「広く市場の動き、事業環境に目配りできているか」「自分なりのビジョンを創出しているか」「ビジョンや構想を戦略や組織に落とし込んでいるか」を見ています。こちらも職務経歴書の記述、面接時に話す内容の参考にしてください。

リーダーというのは毎時間、毎分、毎秒が決断の連続。その決め方にもその人の個性が出ます。一人で決める人、衆知を集め合議する人、様々です。ここにその人の「決断力(決める力)」が表れます。

決められないトップやリーダーがいると、組織は混乱や停滞をきたします。向かうべき方向を得られない組織は、迷走するか、動けなくなるかのどちらかです。

昭和型の大企業トップに多いのが、決断の段階での「意思決定のたらい回し」です。「あの役員は、どう言っているんだ?」「皆がよいというなら」「先に副社長に聞いてみてくれ」といった具合です。

決めないということも1つの決定です。しかし、それがどんな災いをもたらすかは、世間を騒がせてきた偽装・粉飾問題や大型倒産などに見てとれますね。多くは意思決定の先送りがもたらした悲劇です。また、そもそもの偽装問題や先の粉飾決算の発生自体は「間違った決定」による悲劇です。

単に決めればよいというわけではないのは、当たり前のことです。決断できる人とは、自分のなかに正しい判断基準を明確に持っている人のことです。自らの「決断力(決める力)」を自己評価するには、「事業や経営での意思決定に主体的に参画しているか」「多様な意見・利害関係の中でも最適な判断をすべく動いているか」を自問自答してみてください。

経営陣(「経営人材」)として優れた成果をあげている人たちに共通していることは、「遂行力(やり切る力)」と「リーダーシップ力(まとめる力)」の2つの力をいかんなく発揮できることに加えて、「構想力(描く力)」と「決断力(決める力)」の質と量とスピードが抜群に優れていることです。日本人の経営者でも、グローバルで注目の経営者でも、皆さんがパッと名前を思いつく名経営者は皆、これに当てはまると思いませんか。

これからを勝ち抜く、成長し続けるマネジメント人材

転職先で役員に起用される人と部長止まりの人の「境界線」について、理解してもらえたかと思います。最後にもう1つ、これからを勝ち抜くマネジメント人材、とりわけ役員候補人材は、「学習力・習慣化力(学び続ける力)」を持つ人が選抜されることになります。

いわゆるリスキリング(学び直し)力のあるリーダーなのかどうか、望ましい経営行動を習慣的にとれる人なのかどうか。ここが問われます。組織エンゲージメント、SDGs(国連の持続可能な開発目標)的観点も非常に重要視される今、その体現者としての価値観・倫理観を持つ人が役員として適任とされるようになっているのです。

そもそもどのような仕事、事業、組織、経営にも、これで終わりという完成形はありません。時代ごとに変化や対応を求められます。なにがしかの責任を負う立場のリーダーであれば、「日々是勉強」を生涯、自らに課すことになります。おごらず、過去の成功に縛られず、あらゆる事象や世代から学び続ける力が求められます。言われたことだけをやるのであれば、勉強は不要かもしれませんが、それでは人工知能(AI)に駆逐されてしまうでしょう。

さらには優れたリーダーの共通項として、自分の専門性や経験を「方法記憶化」(無意識的に再現できるレベルまで記憶化すること)するまで徹底的に繰り返し反復する習慣化力を持っていることが挙げられます。

できる経営者は、事業においてもプライベートにおいても、自分は全く苦に思っていないのに、周囲から見ると「えーっ、そんなことを、そんなにやっているんですか」という驚きの習慣をいくつか持っていることが多いです。一般的には努力や忍耐を要する、苦労と思われるようなことで、自分は全く苦にならないことは何でしょう。ぜひチェックしてみてください。

「学習力・習慣化力(学び続ける力)」の有無は、「過去の蓄積に留まらず、常に外部からの新たな知見を吸収しようとしているか」「常に学んだことを現場に生かし、現場でわいた疑問や知見不足を補うべく学びに行っているか」を見れば一目瞭然。この部分は、案外、部下たちがよく上司の資質を見ているものです。

転職で役員に起用されることを目指す人には、ぜひとも5つの力を棚おろしして、強化を図ってほしいと思います。特に「構想力(描く力)」と「決断力(決める力)」、「学習力・習慣化力(学び続ける力)」について揺るぎない自信を持ち実行できることを目指してください。

井上和幸

経営者JP社長兼CEO。早大卒、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、リクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。「社長になる人の条件」(日本実業出版社)、「ずるいマネジメント」(SBクリエイティブ)など著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2022年01月28日 掲載]

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