働き方innovation

積水ハウス、キャリア面談は安心感が要 挑戦意欲高める

生産性上がっていますか

積水ハウスが気兼ねなく意見をぶつけ合える関係づくりに力を入れている。生産性が高い組織に共通するといわれる「心理的安全性」を確保し、社員自身がキャリア目標をどう達成していくかを上司がフラットな立場で聞く機会を設けた。部門を超えて事業アイデアを練り上げるアプリも用意。社員の挑戦意欲も高まりつつある。

「イクメン(休暇)どうやった?」「子供の世話は大変ですね。妻は喜んでましたよ」。4月上旬、西日本特建支店営業3課店長の岩本周大さん(33)は、2週間の育休から戻ったばかりの部下、沢田裕大さん(32)と向き合っていた。同社の「キャリア面談」は上司と部下が定期的に話し合う1on1ミーティングと同じようなスタイルだが、まずは身近な話題から始めるのが通例だ。

同社はキャリア面談を組織風土改革の根幹と位置づけ、2021年から始めた。目標達成度などを確認する面談とは別で年5回、職場によってはそれ以上実施することもある。「部下の話を『聞き切る』ことで、心理的安全性の醸成につながる」と藤間美樹・執行役員人財開発部長は説明。社員が自らキャリアを考え、決める「キャリア自律」を支援する狙いがあるという。キャリア自律は一人ひとりが何をなし遂げたいかを積極的に発信し、上司もそれを受け止める安心感があって成り立つとみる。

積水ハウスでは部下を持つ管理職4000人に対し、動画研修などを通じてキャリア面談のやり方を学んでもらった。「どうした?」「それで?」「どういうこと?」「で、どうするの?」の4つの言葉を投げかけるといった簡単なコツを伝えた。岩本さんの場合は3人の部下に対して週1回10分程度のキャリア面談を実施。気を付けているのは「自分の考えを押しつけない」「自発的に問題や課題を発見してもらう」「店長としての話はしない」の3つだ。

入社して10年になる沢田さんは「上司とこれほどしっかりプライベートな話をする機会はなかった。心にゆとりが生まれるし、ポジティブな感じになる」と話す。目指すのは、部下が育って生産性が上がる→上司の仕事の質も高まる→チームや組織が強くなるという好循環だ。

同社はグループ約2万7千人に対し、職場や社員個人の幸福度を計測する調査を20年度から実施している。21年度は「チャレンジを推奨する風土」や「他者承認(自分や、自分の仕事が関心を持たれ、好ましい評価を受けていると思えている状態)」などの項目が前年度より上昇した。20年からの30年間を見据えたグローバルビジョンとして「『わが家』を世界一幸せな場所にする」を掲げており、社員がそれぞれのキャリアビジョンを達成する充実感と幸せを感じることにも主眼を置く。

こうした取り組みを通じ、仲井嘉浩社長は「生産性は上がっている」と話す。社員数は大きく変わらない中で22年1月期の連結純利益は過去最高を更新、23年1月期もさらに伸ばす見込みだ。戸建て住宅など中核事業は売上高や利益で1ケタ成長が可能とし「自律した社員の存在」が原動力だと説く。

「(成長の)キーワードはイノベーション&コミュニケーションだ」。4月1日、仲井社長はグループ約880人の新入社員を前にビデオメッセージで訓示した。それを体現する仕掛けも用意している。一つが社内アプリ「スカイデア」だ。社員が自由に事業アイデアを書き込んだり、賛同する仲間を集めたりできる。気軽に雑談できる社内SNS(交流サイト)のようなアプリも用意。21年にはスカイデアを使ってアイデアを募集し、優秀なものを表彰する「SHIP」という制度も新設した。

3月中旬、イノベーション部門の提案800件弱から最終に残った10件の審査が全社ライブ中継された。「人材が自ら育ち根付く風土の確立、採用応募者の増加、幸せ度の向上といった未来が創造できます」。大阪北シャーメゾン支店の奥野陽子さん(39)は「サバティカル」と呼ばれる長期休暇制度の意義を会場にいる役員やオンライン視聴していた社員にアピールし、準グランプリを獲得した。

奥野さんは提案を出したチームのリーダーだ。21年9月にアプリ上に匿名でサバティカル休暇の意義を訴え、メンバーを募った。集まったのは同期を除けば、入社年次も職種もバラバラの4人。ESG経営推進本部の信田由加里さん(39)は「どんどん心理的な距離が縮まり、奥野さんのプレゼンを応援しながらみんな泣いていた」と振り返る。それぞれの蓄積やスキルを生かし、目標に向けて努力する経験は得がたいものになり、メンバーは「会社への愛着も増した」と口をそろえる。

心理的安全性、社員の自律促す

心理的安全性は米グーグルが社内で最もパフォーマンスの高いチームの特性の筆頭に挙げたこともあり、「それ以降、特に注目が集まっている」とリクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所の今城志保主幹研究員は説明する。

人材サービス大手のエン・ジャパンの調査(有効回答約8900人)では、職場のどこに心理的安全性を感じるかという質問に対する複数回答で「他愛のない雑談ができる」(75%)が首位。「心身の状態を配慮し合える」(28%)、「人格や発言をむげに否定されない」(27%)などの回答も目立った。

遠慮は不要で安心感がある職場で仕事に取り組む社員は、今後のキャリアを考えて自ら切りひらいていく「キャリア自律」の意識も高まる。パーソル総合研究所(東京・港)が全国の正社員1万人を対象に2021年4~5月に実施したキャリア自律に関する調査で、「当てはまる」を5、「当てはまらない」を1とした場合の平均点で自律度が高い層の仕事のパフォーマンス(自己評価)は3.76と、自律度が低い層より0.62ポイント高かった。

同社の小林祐児上席主任研究員は「主体的に仕事に向き合っているので、パフォーマンスにも影響する」と話す。仕事への貢献意欲を示す「ワーク・エンゲイジメント」なども軒並み、自律度が高い層が上回った。企業にも、働く本人にとっても利点が大きいといえる。

キャリア自律を促すには、心理的安全性に代表されるような企業風土づくりに加え、他社留学のような越境学習の機会創出や社内公募による異動など複合的な取り組みが不可欠だ。小林氏は「単発の施策や啓発だけでなく、組織全体の環境づくりが求められる」と話す。

(井上孝之)

[日経電子版 2022年04月18日 掲載]

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