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転職採用、営業系引く手あまた 新顔のプロ職は年収増

「日経転職版」特別セミナーから

営業職には「足で稼ぐ」という古いイメージが残る(写真はイメージ)=PIXTA
営業職には「足で稼ぐ」という古いイメージが残る(写真はイメージ)=PIXTA

営業職の転職市場が熱気を帯びている。専門職化が進み、年収も上昇傾向にあるという。しかし、かつての「飛び込み」「外回り」のイメージが残り、仕事内容への誤解も多い。転職サイト「日経転職版」が開催した特別セミナー「営業職からのキャリアアップ実践法~営業職というキャリアの誤解とは?~」では、新規営業の研究を行うセールスエバンジェリストで、営業支援を手がけるセレブリックス(東京・江東)の執行役員、今井晶也氏に、営業職のキャリアの築き方について話を聞いた。

――営業職というキャリアについては誤解している人も少なくないようです。そもそも「営業職」とは、どういう仕事なのでしょうか。

営業職は総合職というよりも、むしろ専門職と考えてキャリアを磨いていくほうが、キャリア形成はうまくいくと思います。

「新卒はとりあえず営業」「文系だから営業」という文脈の中で、総合職としてまず営業を経験してきた人が多いのではないでしょうか。でも、昨今は営業のスキルは多角化・専門化の傾向にあり、ひとくくりに「営業」とカテゴライズできなくなっています。

一方で、営業職のキャリアの現場では、例えばスポーツで言う「陸上競技」のような粒度(細かさ)で語られることがまだまだ多いと感じます。陸上競技には、短距離走もあれば長距離走も、走り高跳びもあります。求められるスキルや考え方、トレーニング内容はかなり異なっているはずです。

営業もこれと同じです。新規営業なのか、既存顧客へのフォロー営業なのか、対面営業なのか、インサイドセールスと呼ばれる非対面の営業なのか。それぞれで必要な知識や考え方は大きく異なるにもかかわらず、なぜか「営業職」とひとくくりのキャリアと考えられがちです。

この誤解があるままスキルアップしたり転職したりすると、キャリアチェンジに失敗するおそれがあると思います。ですから、まずはこの誤解を解くことです。営業を細分化したとき、今の自分の仕事がどの分野になるのかを理解することで、転職するときに生かせるスキルが何なのかを間違えずに済みます。

営業職を分ける6つのジャンル(ウェビナー画面から)
営業職を分ける6つのジャンル(ウェビナー画面から)

この図のように、営業は大きく6つのジャンルに分けて考えることができます。それぞれ、営業のやり方が全く違うので、身につけるべきスキルやキャリアも変わってきます。下の3つは、ジャンルにかかわらず生かせる普遍的なスキルです。

営業職の年収は上昇傾向に

――ベンチャー企業、特にクラウド経由でサービスを提供する「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス、サース)」系の企業の求人が増えているようです。具体的な人材流動の傾向は、どうなっているでしょうか。

SaaSやサブスクリプションと呼ばれる、いわゆる月額利用モデルのビジネスを中心に、営業職の求人数は増加しています。そしてこれらの求人は、インサイドセールス、フィールドセールス(顧客をじかに訪問する、従来型の外回り営業)、カスタマーサクセス(販売後の顧客フォローを主に受け持つ営業職)などの専門性の高い即戦力を採用する目的で出ているケースが多いです。

さらに今、転職市場での営業職の年収も上昇傾向にあります。年収が上がっている理由の1つには、SaaS系の企業が大手企業の求人に勝つための1つの方法として、年収の引き上げで魅力付けを行っていることが考えられます。

しかし、実力に見合わなければ、入ってから当然苦しくなりますから、ギャップが生じてすぐにさらなる転職を余儀なくされるという実態もあります。自分のキャリアやスキルをしっかり見直して、活躍できる場所かどうかを見極めて転職しないと、ミスマッチが起こると思います。

ベンチャー業界の人材流動は以前から活発で、今も引き続き盛んです。最近増えているのは、大手企業からベンチャー企業や中小企業への移動です。大手企業が社員に早期退職を促したことなどが影響しているのかもしれません。

大手が扱う商品には、受注を得るまでに数年かかるものもあります。その間にどんどん実績を上げていく周囲を見て、「いつまでもこのままで大丈夫だろうか」と、自分のキャリアに不安を感じて転職に踏み出す人も多くなってきているようです。

キャリアの棚おろしより「スキルの棚おろし」

――大手企業で「配属されて担当になったから営業職をやっている」という人が今後、自分に必要なスキルが何かを理解し、それを伸ばすためには、どうすればいいでしょう。

スキルを言語化して今までやってきたことを棚おろしすると、それがベンチャー企業から見て非常に魅力的な能力だということがあると思います。例えば、既存顧客との太いパイプの中で売り上げを拡大していくことなどは、ベンチャー企業があまり持っていない経験なので、そのようなスキルを生かせる会社はあるはずです。

転職をするとき、「どれぐらい売り上げを増やしたか」「どんな表彰を受けたか」「どこまで昇格したか」など、自分の実績の棚おろしを、皆さん一生懸命しているのですが、それがジャンルの違うところで生きるかどうかはわかりません。むしろ、自分の業務内容やその中で上げた成果について、具体的にどんなPDCA(計画・実行・評価・改善)を回したか、自分にはどんなラベル(評価・位置づけ)があるかなど、スキルの棚おろしをすることのほうが重要だと思います。

――営業を突き詰めた先のキャリアには、どんな展開があり得るでしょうか。

まずは「営業のキャリアを伸ばす」というところで3つあると思います。1つ目はプレーヤーとして「営業一筋」という人材になることです。いつも現場でお客様と対峙しながら自分のキャリアを高めていく、スペシャリスト性を高めていくというのも1つの選択肢だと思います。

セレブリックスの執行役員、今井晶也氏
セレブリックスの執行役員、今井晶也氏

そして2つ目はマネジメントサイドに行くことです。自分が成果を出すのではなく、自分のチームに成果を出させる立場へのキャリア転身があります。

3つ目はジャンルの違う営業職に就くことです。インサイドセールスからフィールドセールスに転じるとか、大手企業から中小企業に移るとか、異なる業界に入るなどの選択でも、キャリアを伸ばせると思います。

さらに「営業の周辺の職種に転職する」方法もあるでしょう。営業職は非常に「ポータブル=持ち運び可能」なスキルや能力が身につくと思います。そもそも営業は「人に行動変容を促す」というスペシャリストです。この能力は、掛け算することによって、無限にキャリアの転身が可能です。例えば「採用×営業」「マーケティング×営業」「新規事業開発×営業」などが上げられます。営業パーソンとして営業以外の職種と関わることによって、選べる仕事の幅を広げられる可能性も秘めています。

[NIKKEI STYLE キャリア 2022年01月22日 掲載]

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