次世代リーダーの転職学

転職市場は2022年も勢い 人気人材はDX・採用・営業...

エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子

新型コロナウイルスの感染が広がり始めてから3年目に入ろうとしています。先が見えにくい中、転職市場はどのように動くのでしょうか。2021年の転職市場を振り返りつつ、現在の状況と注目の分野についてお伝えします。

21年の中途採用の求人活況は過去最高水準

約30年にわたり転職エージェントとして活動してきた目から見て、2021年の中途採用市場は、過去に経験がないほどの活況でした。20年4月に最初の緊急事態宣言が発出されてしばらくは採用が停滞したのですが、同年秋頃からは回復。翌21年は多くの企業が採用活動を意欲的に展開したのです。

その背景にあるのは、急速な時代の変化に対する危機感です。新型コロナウイルス禍以前から意識が高まっていたデジタルトランスフォーメーション(DX)は、コロナ禍でのデジタル化加速やオンラインシフトを受け、推進が急務となりました。

DXを推進する人材は引く手あまたの状況が続く(写真はイメージ)=PIXTA
DXを推進する人材は引く手あまたの状況が続く(写真はイメージ)=PIXTA

コロナ禍によって経済活動は制約を受けましたが、リーマン・ショック時と異なるのは、政府の補助金交付や金融機関の融資が手厚かったことです。資金調達が円滑だったため、企業はこの変化に対応するための投資ができたのです。そして、特に投資を強化したのが、デジタル化と並び、人材採用でした。

21年に見られた採用の動きは、22年も継続していくと見込まれます。具体的にどのような採用が進められているのか。特にニーズが高まっていると感じる分野のトピックスをお伝えします。

DX推進人材の獲得競争が続く

DXを推進する事業会社も、それを支援するIT(情報技術)・ネット業界やコンサルティング業界も採用を強化しています。IT人材はもちろんのこと、既存のオペレーションやビジネスモデルを見直し、新たな仕組みや価値の創出を担うマーケティング・企画系人材のニーズも高まりました。また、DX推進を支援するツールなどを提供する企業では、セールス系人材の採用も進められました。

採用がままならないことから、自社社員へのデジタル教育・リスキリングを強化する動きも活発化しています。22年もDX推進人材の獲得競争が続くでしょう。

クラウド経由でサービスを提供する「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス、サース)」企業による求人が数年前から増加しています。SaaSとは、インターネットを通じてソフトウエアをユーザーに提供するビジネスモデルで、あらゆる業種・業務に向けたサービスが生まれています。SaaSサービスの拡販および契約後の取引維持のため、インサイドセールス、カスタマーサクセスなどの採用が続いています。

インターネット上でサービス提供を行う類似分野で、「PaaS(Platform as a Service=ソフトを使うためのプラットフォームを提供する企業)」、「IaaS(Infrastructure as a Service=システム稼働に必要なインフラを提供する企業)なども同様に採用に積極的です。

MLaas企業、新型セールスの採用を活発化

最近では「MLaaS(Machine Learning as a Service)」を手がける企業の求人が目立つようになってきました。MLaasは、その名の通り、「機械学習」のツールを提供するサービスです。

例えば、建築業界における「積算」のように、これまでは高度な専門技術を持ったプロでなければできなかった業務を、機械学習・人工知能(AI)を活用して、多くの人が汎用できる業務にしていくビジネスです。専門技術を持つ事業会社、自社のノウハウをMLaas化して他社に提供することによって、安定収益を得られるストック型ビジネスに乗り出そうとしています。

MLaas企業は機械学習の技術力を駆使し、クライアントである企業の事業創出を支援します。そこで求められているのが、ビジネスデベロップメント型のセールス人材です。

顧客企業の1社ごとに向けてフルカスタマイズを提供していく世界なので、単なるセールスではなく、クライアントが持つノウハウやアセット(各種資産)と自社のソリューションをいかに組み合わせるかを企画・提案できる力が求められます。そこで、コンサルティングファームでのコンサルタント経験者、あるいは、経営戦略・事業戦略に関わるフェーズで企業の課題解決を手がけてきた法人営業経験者などが採用ターゲットとなっています。

コンサルティングファーム経験者の場合は、コンサル経験を積んだ後、事業会社の経営企画・事業開発ポジションへの転職を希望するケースが多いのですが、事業会社での勤務経験がないことがネックとなって苦戦することもあります。その点、MLaas企業でのデベロップメント型セールスの経験をはさむことで、その壁を突破できる可能性があると思います。

逆に、法人営業経験者がコンサルティングファームを目指す場合も、まずデベロップメント型セールスを経験することで採用門戸が広がるかもしれません。

人事・採用領域の求人が増加 営業経験者も採用対象に

様々な業種・規模の企業が採用を強化する中、「採用担当者」のニーズも厚くなりつつあります。採用担当者の求人においては、「営業経験者」も採用対象となっています。見込み顧客に向けて自社商材のメリットをプレゼンテーションすることと、求職者に対して自社の魅力をプレゼンすることは共通しているからです。

「人事」のキャリアに興味がある人にとっては、営業経験を生かして人事部門の採用担当として転職し、そこから他の人事業務領域へ経験を広げていける可能性があります。

このほか、「ダイバーシティー(多様性)&インクルージョン(包摂)」を掲げて多様な人材の活用を図る企業では、「ジョブ型雇用」など新たな雇用の仕組み、あるいはリモートワークのように柔軟な働き方の仕組みの開発に取り組んでいます。これらを推進する、CHRO(最高人事責任者)や人事部長などの求人も増えています。

エンジニア採用強化を背景に、「VPoE」のニーズが高まる

IT企業に限らず、幅広い業種の事業会社がエンジニア採用を強化しています。しかしながら、大手であっても採用に苦戦している企業が多数。そうした背景から、エンジニア部門のマネジメント責任者「VPoE」へのニーズも高まっています。VPoE(Vice President of Engineering)はエンジニアの採用から育成、配置、タレントマネジメント、働く環境整備までを担います。

VPoEの採用においては、エンジニアとしてのバックグラウンドを持ちながら、人事の経験もある人、あるいはマネジメントを行ってきた人が求められています。「自分は技術を極めていくタイプではない」と感じているエンジニアにとって、新たなキャリアを構築できるポジションと言えるでしょう。

「海外ビジネス」案件がそろそろ復活へ

コロナ禍以降、世界中が混乱に陥ったことや、渡航が制限されたことから、海外事業展開と、その関連の採用はストップしていました。しかし、そろそろ動き出しそうな気配が出てきています。海外事業や海外拠点の立ち上げ、マネジメントを経験した人たちにも転職のチャンスが戻ってきそうです。

今後の海外ビジネス案件では、「駐在」のパターンは減りそうです、一方、日本から現地拠点のマネジメントやコントロールを行うポジション、あるいは、現地拠点を運営する現地企業や人材を探して融合を図るポジションの求人が中心となると見込まれます。

「副業・複業」のマーケットがさらに拡大

近年、副業を解禁する企業が増加していることを背景に、求人案件と副業希望者をマッチングするサービスが広がってきています。企業側ではハイクラス人材を正社員雇用するのではなく、必要な期間・業務だけ、コストを抑えて活用したいとするニーズが高まっています。

また、ハイクラスとなると、通常の人事制度体系では受け入れられないという事情もあります。こうした事情から、プロフェッショナル人材をシェアリングするという考え方が定着してきました。

一方、働く個人側でも、単に副収入を得るだけでなく、「副業を活用して本業ではできない経験を得たい」という意識が高まっています。

ハイキャリアの人たちは1社だけにしばられず、「複業」の形でいろいろな企業と契約することによって、「自由な働き方」「専門性をさらに極める」といったキャリアを実現しています。リモートワークの常態化に伴い、副業・複業に取り組みやすい環境が整ってきたので、22年も副業・複業マーケットの拡大が加速しそうです。

選考スピードが加速 「カジュアル面談」が増加

企業側も求職者側も「オンライン面接」に慣れてきたことから、選考スピードが速くなり、応募~内定までの期間が短縮されたことも21年の傾向でした。

正式応募となると身構えてしまいがちですが、「まずは気軽に話してみよう」という「オンラインカジュアル面談」が増加しました。転職するつもりはなかったけれど、情報交換程度のつもりで気軽にカジュアル面談をした結果、転職を決意といった事例も増えてきています。

経営者サイドがSNS(交流サイト)を上手に使いこなすようになり、SNSを通じたコミュニケーションから採用に至るケースも増えています。今年、転職に向けてアクションを起こそうとしている皆さんは、SNSやカジュアル面談なども活用してみることで、チャンスが広がると思います。

森本千賀子

morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「マンガでわかる 成功する転職」(池田書店)、「トップコンサルタントが教える 無敵の転職」(新星出版社)ほか、著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2022年01月21日 掲載]

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