半導体製造装置大手の東京エレクトロンが、職務を明らかにして人材を登用するジョブ型制度で、組織の士気向上や若手育成につなげている。職責や技能に応じた教育・訓練が明確になり、エンジニアや営業担当者が必要なスキルを的確に身につけられるようになってきた。人事制度をバネに全社的な競争力を生み出しつつある。

同社は2017年からジョブ型の人事制度を導入し、等級や評価、報酬などを見直してきた。技術進化が早い半導体関連の業界では、活況な市場環境も相まって人材の獲得競争が激しさを増している。「企業の成長は人、社員は価値創出の源泉」(同社)として世界のライバル企業と伍(ご)していくには、十分な報酬や明確な評価が欠かせない。
部長職は平均3歳若返り
ジョブ型で職務が明確になり、職責や成果に応じた絶対評価には納得感を感じている社員も多いとしている。さらに海外の競合企業と報酬水準を比べられるようになり、外部人材の登用にも役立つ。導入後は7割の社員が基本給の増額につながった。
40歳代の営業担当者は「新しい人事制度は若手やベテランなどの固定概念にとらわれず、職責に応じて評価してもらえる」と話す。新人事制度の導入などが奏功して従来より若くて優秀な社員の昇進が進み、制度の導入前後で部長職は平均3歳弱の若返り効果があった。
人材育成では、ジョブ型で明確にした個人の等級や評価に合わせて、訓練や研修を受けられるようにした。これまで現場ごとの職場内訓練(OJT)に頼りがちで曖昧だった仕組みを、職務に合わせて体系化した。継続して改善したことで「3年かけて制度がうまく回るようになってきた」(人事総務ユニットの土井信人ジェネラルマネージャー)。
社外研修を強化する一方、世界のどこにいてもキャリア形成できるようにオンライン教育サービスを活用して若手社員の底上げを図る。OJTだけでは得るスキルが限られがちだからだ。
エンジニアはスキルを記録分析
例えばM&A(合併・買収)に積極的な外資系企業と比べ、財務上のリスクを取りたがらない日本企業では資金調達や法務関連の実務を学ぶ機会が限られる。土井氏は社外との交流など「他流試合を増やしていきたい」とする。
装置の保守などを手掛けるエンジニアには、技術スキルを記録する「FEスキルアップ教育システム」を構築し、19年からグローバルで運用している。装置内の部位ごとにエンジニアのレベルを細かく記録し、グラフを使って把握しやすくした。
エンジニアが自らの強みや弱みを客観的に把握でき、足りない技能を集中して学ぶよう促す。「この人は専門スキルがあるので韓国のA工場で作業してもらおう」といったように、人材の可視化やグループ内の配置に活用できる。22年2月には高度な専門職社員が活躍できる新制度も導入した。
「何を基準にキャリアがアップするのか」。東京エレクトロンの取り組みは、職務や報酬の明確化が社員のモチベーションアップやキャリア形成に役立つケーススタディーにもなりそうだ。
(佐藤雅哉)
[日経電子版 2022年03月31日 掲載]