邦銀、システム人材育成に本腰 開発力など米銀に見劣り

国内の大手銀行がシステム人材の育成に本腰を入れ始めた。りそな銀行などは全社員を対象にプログラミング研修を実施。三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)はグループ横断でデータ分析を競うイベントを開いた。米銀などに比べて遅れている自前のシステムエンジニアを育成し、デジタル化する金融をリードしたい考えだ。

「東京メトロ東西線木場駅(東京・江東)近くの焼肉屋の情報を自動でまとめましょう」――。りそな銀行や埼玉りそな銀行はこのほど全社員に対してプログラミング研修を終えた。

プログラミングの考え方を学ぶことで、顧客管理や営業報告など身近な事務作業を効率化するアイデアを生むのが狙いだ。4月からは希望する社員向けに表計算ソフトのエクセルに含まれるプログラミング言語「VBA」を使ったより実践的な内容の研修を始める。

りそなホールディングスの南昌宏社長は「これからの人材教育はデジタル時代をベースに学び直しをしないといけない」と強調する。全社員への研修を義務づけたのは「どの金融機関よりも早くベースを底上げする必要がある」との危機感に迫られてのことだ。

研修にとどまらず、社員のスキルアップを目的に互いに競わせる動きもある。三菱UFJは3月、信託銀行が主体となってFG横断のコンペをオンラインで開いた。「企業の貸し倒れリスクを予測し、融資を承認するか否か」をプログラミング言語「Python(パイソン)」などを用いて分析する。いかに正確な予測ができるかを得点化し、FG傘下企業13社、約200人で競った。

三菱UFJはデータ分析のコンペを開いた
三菱UFJはデータ分析のコンペを開いた

最も高得点を得たのは三菱UFJ銀行入行1年目の磯川弘基さん。金融工学に基づいた金融モデルを開発する部署に在籍し、自己研さんを目的に参加した。「普段の業務でもデータ分析手法は活用できる」と自信を深める。三菱UFJFGの大沢正和執行役常務は「データサイエンティストを外部から採用するのは難しく、大事なのはFG内で育成することだ」と話す。

三井住友フィナンシャルグループは2016年にデジタル分野の教育組織「デジタルユニバーシティ」を設けた。計5時間程度のオンライン動画やグループワークを通じてデジタル活用のノウハウを高める。みずほフィナンシャルグループは今後、外部のIT企業へ社員を派遣するなどして専門人材を育成する。

もっとも、デジタル人材の活用を巡っては米銀に見劣りする。JPモルガン・チェースは社内に5万人超のエンジニアを抱え、約25万人いる社員の約5人に1人をエンジニアが占める。一方、社員数約14万人の三菱UFJのIT(情報技術)人材は約4000人にすぎない。中途採用人材の流動性など国による違いはあるが、デジタルサービスの開発力やコスト競争力で後れをとる要因の一つといえる。

顧客の利便性向上と事務効率化の両面でデジタル化を迫られる金融業界。先進的なデジタル銀行で知られるシンガポール大手DBSグループ・ホールディングスはデジタル経由の顧客が全体の過半に達する。PBR(株価純資産倍率)は1.7倍と0.4~5倍付近に沈むメガバンクを引き離す。

日本では低金利環境が当面続く見通しで、フィンテック勢の参入も激化している。デジタル戦略でさらに後れをとれば、顧客や投資家からの評価はますます厳しくなる。

(須賀恭平)

[日経電子版 2022年03月30日 掲載]

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