次世代リーダーの転職学

市場価値を高める「学び直し」 何から始めるべきか?

ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行

学び直しに取り組む社会人が増えてきた(写真はイメージ) =PIXTA
学び直しに取り組む社会人が増えてきた(写真はイメージ) =PIXTA

ここ数年、注目されている、社会人が新たなスキルを身につけるために学び直す「リカレント教育」。デジタルやテクノロジーの進化によって産業構造が変化し、同時に人口減少が始まっている中で「社会人が仕事で求められる能力を学び直す」ことがとても重視されるようになっています。しかし、個人単位では、何からどう着手すればいいのか、見当もつかないという方も多いのではないでしょうか。今回は学び直しの方法について一緒に考えてみたいと思います。

リカレント教育であぶりだされる必要な知識・スキルとは?

もともとリカレントとは「反復」や「循環」を示す言葉で、リカレント教育とは「社会人が仕事で求められる能力を学び直す」ことを指します。「人生100年時代」の到来を受け、厚生労働省を中心に社会人のリカレント教育の拡充に注力し始めています。その中で特に重要ななのが「デジタルに関わる知見」です。

トップクラスの長寿国として「人生100年時代」が注目される日本ですが、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2020」においては27位と、前年に比べてもランクダウン。特に「人材のデジタル・技術スキル」では63カ国中62位と超低空飛行の状況です。まだまだIT(情報技術)ニーズが拡大していくのに、ITに強い人材が不足し、企業の成長の妨げになるリスクが目に見えている状況です。

リカレント教育が注目されている理由は様々ですが、最も大きな理由は産業構造の変化によるものです。重厚長大型の業界は縮小し、黒字でも早期退職制度を導入して人員削減を行う企業が出る状況。一方、IT産業は拡大し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進できる人材の需要は高まるばかりです。

このアンバランスを解消するために、リカレント教育が推奨されているという側面があります。そして、重厚長大企業など、構造変革が求められている業界に在籍し、「そろそろ自分にも火の粉が降りかかりそうだ」と危機感を覚えている人が、IT系など伸びている業界への転身を目指して学び直しに動いています。

「先行きが不安なので、学び直しをして自分の市場価値を高めたい」という人にとっては、やはりデジタル領域でのスキル武装は有効かもしれません。

「食っていけそうな業界」を自分なりに考える

リカレント教育やリスキリング(スキルを身に付け直すこと)には落とし穴があります。「学び直すこと」それ自体を目的にしてしまうケースです。とにかく何でも学んでおけば、何らかの役に立つだろうという考えで学びに投資したものの、その学びをうまくキャリアに結び付けられないというケースが多いのです。

大切なことは、「どのようなキャリアを身に付けていきたいのか?」「それは自分にフィットしているのか?」という目的を先に考え、そしてそのために必要な学びは何かを考えるという順番を間違えないことです。学び直しはあくまで目的をかなえるための「手段」に過ぎません。

しかし、「何を目的にすればいいのかピンとこない」という人もいます。そんな人はぜひ「向こう何十年、どんな世界でならば飯を食っていけるのか」ということを、自分の頭で考える作業が必要です。

例えば今30歳ならば、平均寿命で考えれば、ほとんどの人はあと40年以上働く必要があります。向こう40年間飯を食っていくうえで、どんな業界のどんな仕事であれば需要が継続していそうかを自分なりに考える方法です。

とはいえ、正確に未来を予測するということは不可能です。日常で見聞きしているニュースなどをもとに、自分なりに仮説を組み立てて考えることに意味があります。気楽にいくつかの選択肢を挙げてみるだけでも思考回路は回り始めます。

あまり肩ひじ張らずに、考えてみてください。「紙媒体はどんどん部数が減少しているけれど、ネットメディアはまだ成長しそうだ」とか「ラグジュアリーブランドが苦戦しているけれど、ファストファッションや電子商取引(EC)は伸びしろがありそうだ」などというレベルで十分です。

そしていくつか挙げた中から、自分が比較的興味を持てそうなものは何か、力を発揮できそうなものはどれかを考え、その業界の有名企業はどんな人材を募集しているのかをチェックする。その中から自分の経験からできそうなもの、あるいは少し学べばできそうなものを選び、そこで活躍するための能力やスキルを強化する学びは何かを考え、挑戦していくという手順です。

もし自分で考え、学び、転職した結果、数年後に「やっぱり違っていた」と思うことがあれば、また同じことを繰り返せばいいだけのことです。そもそも何十年もずっと成長し続け、食べていけることが約束された業界や仕事を見つけることは不可能です。

学び直しにおいて絶対に避けたいことの1つが、安易に資格取得に動くことです。

そもそも資格があるだけで実務経験がない人を積極的に雇用する企業はほとんどありません。何かに役立つだろうからとMBA(経営学修士)や税理士の資格を取る人がいますが、同じことを考える人がたくさんいることもあり、キャリア形成に直接それが役立つことは考えにくい。

繰り返しになりますが、まずは、産業構造はこれからどう変化するのだろう、その中で自分はどんなことができそうだろう、それをやるために必要なスキルは何だろうと考えることです。そして、そのスキルが足りないとか、もう少し強化しておきたいという場合に、学び直しを行うということです。何歳になってもこの順番で考え、行動し、学び直しを繰り返すことで、人生100年時代の中でも長く活躍し続けることができるようになるはずです。

仕事を続けながら上手に学ぶ方法とは?

社会人が学び直しをしようと思っても、「時間」と「お金」と「距離」という3つの壁が立ちはだかるといわれています。しかし、新型コロナウイルス禍による在宅勤務の拡大に伴い、通勤時間の短縮で余裕が生まれました。同時に家庭内のICT(情報通信技術)環境が整ったことにより、学校に通わずともオンラインで学べるようになりました。これらのおかげで、「時間」と「距離」という2つの阻害要因が解消され、実際に学び始めた社会人は増えているといいます。あとは将来の自分への投資として、どこまで「お金」を使うかの覚悟を決めるだけとなります。

では、適切な投資回収をめざして覚悟を決めたとして、具体的にどんな方法で学べばいいのでしょうか?

社会人が学び直す際には、社会人大学院や通信制大学のほか、民間のスキルアップスクールやセミナー、講演、資格取得のための通信講座、それ以外にも書籍やネット、アプリを使った独学など、様々な方法があります。しかし、独学の場合は自分で自分を律することができる強い意志が必要になるので、教員によるフォロー体制や同級生との交流の機会でモチベーションを維持しやすくなる社会人大学院や通信制大学を利用する人が増えています。

多忙なビジネスパーソンでも比較的活用しやすい方法といわれているのが「科目等履修制度」「履修証明プログラム」「通信制大学」の3つです。

(1)科目等履修制度

社会人が大学・大学院で学ぶ機会を拡大させる目的で設けられた制度。大学・大学院に正規入学せずとも、正規課程の科目をオンラインや対面授業で履修できます。科目数は1科目から可能という場合が多く、興味があるテーマだけをピンポイントで学ぶことが可能。1科目履修したら、次の学期にもう1科目という具合に、ピンポイント利用を続けてスキルアップを図ることもできるので、時間に制約のあるビジネスパーソンに人気があります。

(2)履修証明プログラム

大学や大学院が社会人を対象にした学習プログラムを開設し、その修了者に対して履修証明書を交付するというもの。プログラム全体の時間は60時間以上で、半年から1年程度のプログラムが一般的。対面授業とオンライン授業を組み合わせて3カ月程度の短期集中プログラムを設けている機関もあります。学びたい分野に関する知識を、体系的に身につけられるので、「社会人大学院などへの正規入学はハードルが高い」と感じる社会人に活用されています。なお、履修証明は履歴書に記載することも可能です。

(3)通信制大学

テキストやメディアなどを通じた通信教育が中心で、時間の拘束が少ないのが特徴。もちろん卒業すれば学位を取得できる正規の大学です。出勤前や帰宅後、通勤途中などのすきま時間を活用できるので、限られた時間を有効に使いたい社会人に適しています。通信教育だけでなく、一部、リアルでのスクーリング(対面授業)の機会が設けられていることが多く、教員や同級生と交流することもできます。入試がなく、書類選考のみで入学可能。社会人大学院に比べて学費が4分の1程度と比較的安価なこともメリットです。

以前に比べると、多忙なビジネスパーソンでもかなり気軽に、かつ効率的に学び直しができる環境が整備されていることが分かると思います。これらの機会を活用するかどうかは、自分の気持ち次第。本気でこの先の長期キャリアを考えるなら、何らかの具体的行動をスタートさせることをお勧めします。自分の市場価値を維持し、さらに高めるために。ぜひこの機会にじっくり考えてみてほしいと思います。

黒田真行

ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年12月17日 掲載]

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