次世代リーダーの転職学

40、50代幹部の転職デビュー これだけ守れば怖くない

経営者JP社長 井上和幸

前職の流儀を持ち込んで嫌われる転職者は多い(写真はイメージ)=PIXTA
前職の流儀を持ち込んで嫌われる転職者は多い(写真はイメージ)=PIXTA

40~50代管理職層の転職が活発です。この5~6年、最も転職者数の増加率が高いと感じるのがこの年代で、その流れは新型コロナウイルス禍が続く状況でも変わっていません。近年の特徴は、これまでに転職を経験したことのある人のみならず、この年齢で初めての転職に踏み切る人が増加している点です。相応の立場と年齢となった上での初転職には、気をつけるべきことがあります。しかし、ポイントを押さえれば怖くはありません。

「待ち」の姿勢にチャンスはこない

「役職定年が現実の問題として数年後に近づいてきて、このまま残りの会社員人生を過ごすだけでよいのかと痛烈に思ったのです」。そう言うのは、大手メーカー勤務のAさん(50代前半)。人事総務畑を歩んできたAさんは、このまま定年まで勤めあげる道もある中、それを捨てて外部へのチャレンジを選択しました。

Aさんのように、大手企業で順調にキャリアを積んできた人たちが自ら新天地への道を選択するケースが増えています。その背景には、大手勤めとはいえ、自社の先行き不透明感、自身の役割・所属に関する漠然とした不安(本当に定年までい続けられるのだろうか)、そして何よりも現在の職務での不完全燃焼感があります。「もっとできる」「まだまだやりたい」、そんな意欲的なミドルやシニアが多くいることはとても頼もしく思います。

こうした自ら積極的に外部への機会を求めるAさんのような人もいれば、一方では現職の状況からやむなく外部への道を検討することになった人たちもいます。典型的なケースは早期退職パッケージや部門リストラなどでの退職ですね。

この「やむなく」退職することを選択した人たちには致し方ないところもありますが、そうではなく自ら積極的に転職を選択した人においても、いざ実際の転職活動に関しては受け身になりがちなのが、この世代で初めて転職する人の共通しているところです。

「転職サイトや人材紹介会社に登録したのですが、ご連絡をいただけなくて」。そう漏らす人もいます。いざ面接に進んでも、企業側から聞かれたことに答えるだけで、自らがどうしたいのかはっきりしない人も少なくありません。

エージェント側からの提案を待ち受ける姿勢では、40~50代幹部を採用しようとしている企業から評価を得ることは難しいものです。40~50代幹部の皆さんに企業が期待し、求めることはリーダーシップであり、成果にこだわる動きです。だから、転職活動、選考過程においても、どれくらいそうした姿や考え、発言がみえるかを採用側はウオッチしています。

面接の場ではもちろん、様々な選考ステップでのやり取りでも、自分から積極的に応募先企業とのコミュニケーションを取りにいきましょう。この世代で初めて転職活動を始める皆さんが奥手な姿勢になりがちな理由は、そもそも転職活動の勝手が分からないことも一因だと思います。この部分はヘッドハンターや転職エージェントを活用して、効果的な転職活動の進め方についてアドバイスを受けましょう。

ちなみに冒頭のAさんからは、当社への相談にあたって、自身の希望、情熱などを積極的に説明してもらえたので、今後はどのような考え方や行動で取り組むのがよいかを提案することができました。その結果、こちらから紹介した企業のうち、人事責任者を求めていた、中堅規模でありながらカテゴリートップのメーカーへの転職が実現しました。

着任から1年ほどがたちますが、人事総務部長として社長や取締役の直下で同社の今後の人事総務強化に尽力していると経営陣から聞きました。本人も「あのまま前職にいたら味わえない充実した日々です」と喜んでいます。

転職先ではすべてが現職と異なる可能性も

40~50代幹部を採用しようと考えている応募先企業が、転職経験のない候補者に対して最も心配するのは、これまで長く働いてきた企業からの環境変化に対する適応力です。

「以前もこの世代の管理職を採用したことがあるのだけど、全く使い物にならなかったよ。同業界で当社よりはるかに格上の企業の幹部だったので、入社前は社員たちもとても期待していたのだけれど、いざ入ったら、『あれがない、これがない。こんなこともできないのか。前の会社ではこうだった』のオンパレード。総スカンとなってしまって、すぐに退職することになってしまった。ちょっともうこりごりだね」

こんな社長のぼやきを、これまで何度聞いたことか。採用する側はこのような事例を踏まえて、初転職で入社してきた40~50代幹部を見るわけです。

しかし、転職側の当人からすると、景色が異なるようです。事前にある程度は想定していたものの、思っていた以上にあらゆることの勝手が違うと感じがち。新天地でのカルチャーギャップや制度・ルールギャップに衝撃を受けることが多いのです。ここは相当に覚悟しておいたほうがよいでしょう。

もしあなたが、「いや、私は絶対大丈夫」と思うなら、ぜひ、転職活動中にエージェントや応募企業に「異なる組織でやっていけるという証明」を伝えてください。部署異動などでの経験談で、どのくらい異なる状況を経験したことがあるか。その際、どのように組織適応を図ったのか。これらの情報をファクトベースで伝えましょう。ただし、それでも、「では、大丈夫だね」とは思ってもらえる可能性は低いと思っておいたほうが良いでしょう。

各種のギャップにへこたれないうえで何よりも重要なのは、新天地に移ったら、これまでの成功体験にとらわれず、一から学び、チャレンジしていきたいというマインド、姿勢を持つことです。これに尽きると言ってもいいくらいです。

「前の会社・部署ではこうだった」という前例踏襲主義は絶対に嫌われます。くれぐれもお気をつけください。「ああ、こういうやり方もあるんだな」「こんな感じでやるのか」と、あらゆる面での違いを楽しむような気持ちがあれば、逆にすぐに転職先で「仲間」になれますよ。

1社経験者が持つ、絶対的なアドバンテージ

40~50代幹部の初転職がマイナスに働くところをみてきましたが、ぜひともみなさんが持つ、大いなる強みにも目を向けてほしいと思います。それは「これまで1社でしっかりやってきた」という事実です。

長くしっかり働いてきたという部分は、応募先企業、特に経営者からみて、大きな加点ポイントです。「この人は、何かあったらすぐに転職してしまうような人ではない」。この期待、信頼は、転職を繰り返してきた人にはないアドバンテージ。これを新天地につなげてほしいものです。

転職後も長く貢献していきたいという姿勢を、ぜひ一貫して伝えてください。前職を長く勤めてきたという事実に裏打ちされているだけに、説得力は絶大です。その上で、1社経験者に多くみられる次のマイナスポイントに気をつけて面接に臨みましょう。

・話し方が冗長、説明的すぎる
[対策] 結論から、端的に、具体的に話すよう気をつけましょう。
・自分がどうしたいかが不明確
[対策] 会社から言われたことをやるだけでなく、「自分はこうしたい」という意思を明確にしましょう。
・諸条件にこだわりすぎる
[対策] 確認は大事ですが、本筋は「職務へのコミット」「成果を出す姿勢」であることをお忘れなく。自分がぜひ参画したいと思える企業であれば、制度がいい加減だという会社は少ないでしょう。そしてそうした応募先企業であれば、結果は後からちゃんとついてきます。

入社後のことで、もう一つ付け加えておきたいのは、業務に関するスピードです。この世代で初めて転職する人が新天地でギャップを感じやすい点です。

スタートアップのみならず、中堅・中小企業でも、あるいはマネジメントクラスを積極採用する大手でも、プロパー率の高い企業に比べると、業務の対応スピードが格段に早く感じるでしょう。レスポンスや着手が早い。業務を進めるスピードが速い。この「早くて、速い」について、後手に回らないよう意識して動くことが肝心です。

業務スピードが「早くて、速い」ことは今後、勝ち残る企業の条件です。もし、自分の体質が異なるようであれば、これを機会に体質改善してしまいましょう。

40~50代幹部の場合、この年齢で初めて転職することになったことについて「出遅れ感」を持つ人が少なくありません。でも、先に述べた通り、アドバンテージもあることを認識してください。そして、これからの仕事人生をさらに積極的に楽しむ姿勢、環境変化を楽しみに待ち受けるマインドで臨めば、新しい新天地でのチャンスが必ず待っています。

井上和幸

経営者JP社長兼CEO。早大卒、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、リクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。「社長になる人の条件」(日本実業出版社)、「ずるいマネジメント」(SBクリエイティブ)など著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年12月10日 掲載]

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