働き方innovation

「何のために働くの?」 ユニリーバが社員に促す自律

生産性上がっていますか

新型コロナウイルス感染拡大で急きょリモートワークを始めた企業が生産性低下に苦慮するなか、2016年から推進するユニリーバ・ジャパンは効率を落とさずに働いている。カギは自身のパーパス(存在意義)を考えさせる取り組み。何のために働くのか? 軸が定まれば上司や同僚の目があろうとなかろうと自律的に働ける。

「どんなときにワクワクしますか?」。1月下旬にオンラインで実施したパーパス・ワークショップには約10人が参加した。過去を振り返って人生で譲れない価値観に気付いてもらい、最後にそれをパーパスとして各自が言語化する。

パーパスは一般的に会社の経営姿勢を示すのに使われる。事業の目的は何かを簡潔な文言で表す。ユニリーバも「サステナビリティを暮らしの"あたりまえ"に」というパーパスを持っている。ワークショップは社員にも自分のパーパスを自覚してもらう狙いだ。

リモートワーク制度はコロナ禍前から

リモートワーク制度「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)は16年に導入している。現在は午前5時から午後10時の間なら、いつどこで働くのも自由。2カ月単位で所定労働時間を満たせば1日5分しか働かない日があっても構わない。どこでどう働けば仕事の効率が高まるかは一人ひとり違う。それぞれ能力を最大限発揮できるよう、場所と時間の制約を取り払った。

もともとジョブ型雇用で各自の職務が明確なうえ、人事考課も成果主義。リモートワークを導入しやすい土壌はあった。加えて有効だったのがパーパス・ワークショップ。ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田由香人事総務本部長は「パーパスは方位磁石のようなもの。パーパスが明確ならいつどこでもぶれずに働ける」と説明する。

研究開発部門でシニアR&Dマネジャーを務める鳥川行雄さん(41)は18年に受講した。自らのパーパスを「新しいものを作り続ける」に定めた。「夏休みの工作や料理に夢中になった子どもの頃を思い出した。何か作ることが何よりも好きなんだと再認識した」

パーパスを見いだしてすぐに社内ベンチャー制度に応募し、シャンプーの新ブランド「ラボリカ」を19年に立ち上げた。髪質や嗜好に合ったシャンプーをオーダーメードできる。「シャンプーは大量生産が基本で中身は均一。でも自分だけのシャンプーが欲しい消費者はいる」。従来業務はそのまま担いつつ、リモートワークを駆使してプロジェクトメンバー7人を束ねた。19年7月に発売するや、大ヒット。21年売上高は前年比3.2倍に上る。

「パーパス」を意識、モチベーション維持にも一役

コロナ下において、パーパスは社員のモチベーション維持にも役立った。

インドネシア国籍のサヴァナ・セガラさん(25)は生産管理部門で働く。18年に日本の大学を卒業し、新卒採用された。20年3月以降は在宅勤務がベースになり、同僚らとの接点が減った。自身を見つめ直そうと20年12月にワークショップに参加。そこで定めたパーパスは「周囲にいい影響を与える」だ。

以降、仕事への向き合い方が変わった。テレワークでも積極的に後輩と関わる。職場周りの環境問題に目が向き、工場で廃棄されていたプラスチックボトルのリサイクルを提案し、実現した。「入社後は仕事を覚えるので手いっぱいだったが、今は『次に何をしようか』と自分で考え動ける」

個人にパーパスを自覚させる取り組みはSOMPOホールディングスも始めている。コロナ禍でテレワークが進んだ。仕事と生活の境界線が曖昧になるなか、社員に人生の目標を考えさせ、仕事との向き合い方を再構築させる目的だ。23年度までに全グループ社員が「MYパーパス」を設定し、上司と共有する。

生産性「上がった」7割が回答

ユニリーバ・ジャパンがWAAを導入して5年。社内調査で社員の71.6%が生産性は「上がった」と答えた。導入前の自分の生産性を50としたら、導入後はどのくらいかと尋ねたら、平均値は66。主観ながら単純計算で会社の生産性は32%高まったことになる。

ただコロナの影響は気がかりだ。WAAは個人の選択を優先し、出社の自由も認めていた。だが20年3月から21年12月までは在宅勤務を原則とした。望まないテレワークを強いられた社員も少なくない。

管理職研修を追加するなど手は打ってきた。さらなる対策がパーパス・ワークショップの拡充だ。従来は管理職が受講必須、それ以外は希望制だった。それを改め、22年上半期中に全社員に受けさせる。

島田本部長は「人はシンプル。いい感情、いい状態にいるときは生産性が上がる。何のために働いているのか、なぜこの会社に入ったのか。自分を知り、社員がポジティブに働けるようになれば、会社への貢献は自然に増す」と強調する。

テレワークで孤立、働く意欲低下? 周囲の声で仕事の意義再確認

孤立は働くモチベーションを下げる。リクルートキャリア(当時)は2020年、テレワーク実施前と後でモチベーションに変化があったかを調査した。全般的に下降傾向にあったが、テレワーク下でチームでの仕事が減った人に限ると、モチベーションが「低い」とする回答が28.4%と実施前の2倍を超えた。

図表(「何のために働くの?」 ユニリーバが社員に促す自律) (1).jpg

下げる具体的な要因は何なのか。ほかの回答結果を合わせて分析すると、「仕事の全体感の把握」「仕事の重要性の実感」「上司や同僚からのフィードバック」の3つが浮かび上がってきたという。

通常は部署全体の仕事から一部分が切り出され、個人に任される。担当が一部であっても、オフィスで働いていれば、周囲の会話や同僚の仕事ぶりから、自分の業務がどんな仕事の一環か、その重要性などが見えてくる。出した成果についても「助かった」「こうするともっとよかったかも」などと複数の相手から多角的な評価を聞きやすく、自分の立ち位置が自覚できた。

リクルートの藤井薫・HR統括編集長は「テレワークでチームから切り離された人はこれらが得られなくなり、働くモチベーションが下がった」と説明する。
この仕事は何のためにやっているのだろう? テレワーク下では迷いが生じやすく、迷いは生産性低下につながってしまう。防ぐポイントは仕事の意義を再確認することだと藤井氏は指摘する。

「任せている業務はどんな仕事の一部であるのか。それによって会社にどう貢献できるのか。チーム内コミュニケーションを密にし、仕事の全体感と重要性を共有することが大切。加えて個人にパーパスの自覚を促すのも有効だ。何のために働くのか。軸が定まれば気持ちはぶれずに、目の前の仕事に向き合える」

(編集委員 石塚由紀夫)

[日経電子版 2022年03月07日 掲載]

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