次世代リーダーの転職学

今の管理職に必要な条件 「心理的安全性」とは?

エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子

心理的安全性が保たれた職場は働きやすいとされる(写真はイメージ)=PIXTA
心理的安全性が保たれた職場は働きやすいとされる(写真はイメージ)=PIXTA

昨今、「心理的安全性」への注目度が高まっています。「心理的安全性」とは、他者からの反応を恐れたり、恥ずかしく感じたりすることなく、ありのままの自分をさらけ出せる状態のこと。気兼ねなく意見をぶつけ合える組織文化を指します。今回は、私自身の経験も踏まえ、心理的安全性が保たれたチームビルディングのメリットや方法についてお話しします。

米グーグルが2012年に開始した労働改革「プロジェクト・アリストテレス」において、効果的なチームの条件を探った結果、「心理的安全性」の重要性が報告されました。以来、多くの企業が組織づくりのキーワードとして注目しています。新型コロナウイルス禍以降、リモートワークが広がる中ではチームビルディングが難しくなり、特に意識されるようになりました。

私は転職エージェントとして、日々、企業からマネジメント人材の紹介を依頼されますが、「心理的安全な環境をつくれる人」を求める傾向が強まっていると感じます。今後、マネジメントのキャリアを伸ばしていこうとする方は、「心理的安全性」の重要性と方法についての知見を持っておくことをお勧めします。

心理的安全性の低い環境がメンタル不調・離職意向を生む

03年、7人の宇宙飛行士が命を落としたスペースシャトル「コロンビア号」の爆発事故。この原因を追求した結果、「エンジニアの心理的安全性が確保されていなかった」と報告する論文が発表されています。

HR(ヒューマンリソース、人事管理)領域のウェブサービスを提供するUnipos(ユニポス、東京・港)が実施した「仕事と心理的安全性」に関する意識調査によると、「離職意向がある人」「今の職場に満足していない人」は心理的安全性の測定値も低いという結果が表れているそうです。

そして、心理的安全性が低い環境で働いていると、メンタルに支障をきたすこともあります。精神科医であり、管理職向け研修を手がけるメンタルコンパス(名古屋市)代表の伊井俊貴さんによると、「職場で発生するうつ病の約75%は、組織の人間関係が影響する問題」なのだそうです。

うつ病の人に、カウンセリングや薬の処方を行ったとしても、同じ組織に戻ればまた再発してしまう。いくら個人にアプローチしても、組織の習慣が変わらなければ問題解決には至らない――。そこに課題を感じた伊井さんはメンタルコンパスを立ち上げ、管理職が「心理的安全性」を高めるスキルを身に付けるトレーニングサービスを提供しています。

企業の人事担当者も、従業員のメンタルケアやモチベーションアップ、エンゲージメントアップの施策として「心理的安全性の向上」に注目しています。関心の高さを裏付けるように、心理的安全性に関する組織診断や企業研修・組織開発コンサルティングなどを提供しているZENTech(東京・中央)取締役・石井遼介さんの著書『心理的安全性のつくりかた』は、日本の人事部「HRアワード2021」(※)の書籍部門で優秀賞に選ばれました。

(※)日本の人事部「HRアワード」 人・組織に関わる領域において、企業や個人の成長を促す取り組みに着目し、HRパーソンに広く伝えることで、HRを通じた全国の企業の発展を目指す表彰制度。

人事コンサルティングを手がけるカルチャリア(東京・港)が従業員数100人以上300人未満の企業の経営者109人を対象に「心理的安全性」に関する調査を実施したところ、99.1%の経営者が、「心理的安全性は健全な組織運営のために重要」との回答が得られたそうです。心理的安全性を高める施策を実施している企業の84.7%が、その取り組みによる「売上・生産性向上」の効果を実感しているというデータもあります。

心理的安全性が高いチーム作りのポイント

私は起業前、約25年にわたりリクルートグループに在籍していました。振り返ると、リクルートは心理的安全性が高い組織風土だったと思います。

上司のことを「○○課長」「○○部長」とは呼ばず、社長でさえも「○○さん」と呼んでいました。これは心の距離を縮め、話しかけやすい効果を生んでいました。

会議では新人でも派遣スタッフでも、遠慮なく発言できる。突拍子もない意見であっても耳を傾けてもらえる。だからこそ思い切ってチャレンジができる風土が醸成され、強い組織となり、現在の規模までに成長を遂げたのだと思います。

私もリクルート在籍時代にマネジャーを務めていましたが、先輩から受け継がれたやり方をベースに、自分流にアレンジしたチームビルディング方法を実践していました。当時は「心理的安全性」という言葉は一般的ではありませんでしたが、その手法は心理的安全性を高める効果があったと思います。実際、私のグループは社内の全グループ中トップの業績を挙げ、MVG(Most Valuable Group)として表彰を受けたこともあります。

具体的な方法をご紹介しましょう。期の変わり目などで新しいグループが編成されると、まずメンバー一人ひとりと面談を行いました。今でいうところの「1on1」です。

1on1の場では、「私とあなたの間に『上下関係』はない。マネジャーとメンバーは役割が異なるだけで、人としては対等。私はあなたと『人対人』のお付き合いをしたい」と伝えました。そして、私自身の生い立ち、学生時代の経験、この会社を選んだ理由、仕事に対する思いなど、仕事のことからプライベートまで、オープンに話をしました。

次にメンバーがこれまでどんな人生を過ごしてきて、今どんな思いを持っているかを尋ねました。最初に私が自分をさらけ出したので、メンバーも「ここまで話していいのか」と安心し、自分自身のことを開示しやすくなります。

こうしてメンバー一人ひとりとお互いへの理解を深めた後、メンバー全員でお互いの生い立ちや価値観を共有する場を設けました。オフィスを離れ、ホテルや旅館の施設など、「非日常」の場所へ。皆、カジュアルな服装で、靴を脱いで畳の上に座り、リラックスした状態で行います。

メンバーが各自用意したのは「モチベーション曲線グラフ」。これは幼少期から現在までの出来事や経験、それぞれの時期のモチベーションの上がり・下がりの波を記したものなのです。それを共有しながら話をし、感想を語り合ったり質疑応答をしたりします。

このワークを通じて、メンバーがお互いの志向や価値観を共有。これにより、仕事においての連携がスムーズになりました。

メンバーが自分のパーソナリティーを理解してくれている安心感があれば、会議などでも誤解を恐れず発言ができます。言いたいことがある場面で遠慮なく言い合える。そんな関係ができたことで、心理的安全性が高まり、一人ひとりが主体的に考えて行動できるチームを築くことができました。

マネジャーに求められるのは、心理的安全性をつくる力

このところ新型コロナウイルス感染者数が減少し、「集まる」ことへの制限が解除されつつあります。この約2年弱、リモートワークなどの影響でチームビルディングがうまくできていないと感じているリーダー・マネジャーはこのような「価値観の共有」の機会を設けてみてはいかがでしょうか。

改めて言うと、心理的安全性がある組織をつくる第一歩は、リーダーやマネジャーが自分自身を開示することだと思います。自分を開示することが苦手な人もいるでしょう。しかし、そこは「チーム力を強化する」というミッションの達成のために欠かせない役割と受け止め、行動してほしいと思います。

とはいえ、皆の前で自分のことを話すのが苦手な人は一番乗りで話すと、かえって場に緊張感を与えてしまうかもしれませんね。その場合は、チーム内で「自己開示」が自然にできるメンバーに一役買ってもらい、話しやすい空気を作ってもいいでしょう。もちろん、1番手を任せるメンバーには、その会の目的を事前にしっかり伝えておいてください。

私が会うエグゼクティブ・ビジネスパーソンは、心理的安全性が高い組織をつくり上げたことで成果を挙げ、自身のキャリアの発展につながっているケースが多いと感じます。転職を図るにしても、そのノウハウと実績を語れることがアドバンテージになり得るでしょう。マネジャーとしてのキャリアを歩んでいくだけでなく、人生においても家庭内・多様なコミュニティの中でも、このノウハウを習得しておくことは決して無駄にならないはずです。

森本千賀子

morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「マンガでわかる 成功する転職」(池田書店)、「トップコンサルタントが教える 無敵の転職」(新星出版社)ほか、著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年12月03日 掲載]

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