次世代リーダーの転職学

転職で後悔するか否か 失敗5つと成功3つのパターン

ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行

入社前の約束とは異なる待遇で悩むケースも珍しくない(写真はイメージ)=PIXTA
入社前の約束とは異なる待遇で悩むケースも珍しくない(写真はイメージ)=PIXTA

30歳以降の即戦力世代の人たちが初めて転職をする場合には、思わぬ落とし穴がつきものです。場合によっては、転職直後に違和感を持ち始め、1年もたたずに再び転職する必要に見舞われたり、その後も不本意な転職を繰り返すことになったりするケースがあります。転職で後悔する前に、納得できる転職ができる人とそうでない人の共通点をぜひ心にとどめておきたいと思います。

ベンチャー企業に転職して「たった1日で退職」の悲劇

これはある転職経験者が実際に体験した悲劇です。もともと大手メーカーで営業部長をしていたAさんは40代後半に差しかかり、役職定年などで不本意な働き方を迫られる元上司や先輩たちの姿を見て、「自分はあんなふうになりたくない」と考え、転職活動を始めました。転職エージェントから紹介された、成長中の中堅企業の求人内容を聞いて、今ではあまりにも大きくて味気ない組織になってしまった自社とは全く違う世界に、わくわくする可能性を感じて選考に進みました。

全く畑違いの業界でしたが、社長や副社長をはじめ、その企業の経営陣にとっては貴重な経験を持つ人材と映ったこともあり、いきなり執行役員のポストと前職年収を維持するという破格の条件で、まさに「三顧の礼」で迎えられました。

しかし、入社1日目に悲劇が起こります。

事前の打ち合わせ通り、Aさんは定時である朝9時に出社し、人事部長から入社後の段取りを聞いた後、午後からは経営管理担当の役員と打ち合わせをして今後の業務の進め方を確認。その後、自分の担当部署に行って課長たちと会話をして午後5時には退社したそうです。

その日の午後6時ごろ、Aさんの担当部署で顧客トラブルがあり、Aさんの判断が必要な事態がいきなり発生してしまったのです。部下たちが電話をしてもメールをしても、いっこうに連絡が取れず、前任の役員が対応することになってしまいました。

「幹部として採用した人物なのに、緊急事態に全く対応できないのは問題ではないか」。この件を知った社長は、翌日、出社したAさんに話を聞くことになったようです。

Aさんが「前職の大企業では、緊急事態の対応体制はできあがっていた。役員がいちいち判断することもなかった。また、就業時間以外のプライベートタイムに、私用携帯で仕事のやりとりをすることもなかったので、それが問題だと言われても理解できない」と回答したことをきっかけに、売り言葉に買い言葉で感情的に対立してしまい、事態が悪化。Aさんのほうも一気に気持ちが冷めてしまい、入社そのものをなかったことにしてほしいと申し出て、退職するに至りました。

従業員数が多く、労働環境の整った大企業と、破竹の勢いで成長しているものの、組織が未完成な中堅・中小やベンチャー企業では、仕事に対する価値観や働き方の当たり前がかなり異なります。「ベンチャーは大企業に比べてスピードが求められる分、ハードな側面もある」という「一般常識」を頭では理解できているつもりでも、現実にその落差に直面しないとわからないことはたくさんあります。

この事例は、その現実的なギャップの大きさを表しています。

「頭でわかる」と「体感」には大きな落差がある

職場や仕事内容が変わる「転職」には、必ずギャップが存在します。たとえ同規模レベルの同業種企業への転職だったとしても、ギャップは避けられません。「大企業から中堅企業に転職したから」とか、「未経験の業界に挑戦したから」といった個別の事情に限らないのです。

このギャップに備えて、後悔しない転職を実現できるかどうかは、転職が当たり前になった今こそ、より大切なライフハックと言えるでしょう。では、実際にどんな失敗パターンがあるのかを押さえるところから学びをスタートしたいと思います。

転職後に後悔する理由 ワースト5

(1)社風や企業文化が合わなかった

いくら仕事内容やポジション、条件が良くても、自分にとって働きやすい風土や文化がなければ、職場にいることが地獄のような苦痛になることがあります。企業研究の際に情報収集が十分にできていないと、「こんな場所ではやってられない」という不幸な「気づき」を後から得ることになりかねません。内定を受諾する前に、他部署でもいいので、自分と年齢や役割が近い人に会わせてもらい、社内の働き方をカジュアルに教えてもらう機会を作るという方法が有効だと思います。

(2)待遇や条件が事前の話と違った

入社前に聞いていた給与と金額が異なっているとか、条件が違っていたという事例があります。適用される待遇が入社前のイメージと異なった場合も、後悔する原因につながります。特に給与や年収は、生活基盤にとても大きな影響がある問題です。待遇などの労働条件でずれがあると、信頼関係がこじれることもあります。待遇面での認識の相違は、企業側のミスであった可能性もあり得ます。入社する側の確認不足が原因ということもあるので、できるだけ速やかに対応したほうがいいでしょう。

(3)仕事内容や役割が入社前に聞いていた内容と違った

仕事内容や役職やポジション、権限範囲が自分の想定と異なっていた場合は、「最初からその仕事とわかっていたら、そもそも転職する必要がなかった」というようなケースもありえるトラブルです。特に仕事の「名前」や役職ごとの「権限の範囲」などは、同業界の企業でさえ、会社ごとに具体的な内容や定義が異なることが多いので、要注意のポイントです。

(4)自己分析が不十分だった

意外に重要なのが、この自己分析や自己理解です。転職というタイミングは自分の棚卸しに最適なタイミングでもあります。本来、自分が求めているやりがいや仕事をしていく上で大切にしたいポリシーなどを整理しておきたいところです。前職の就業期間が長ければ長いほど、自分の中で「当たり前になってしまっているが、自覚できていないバイアス」が積み重なっているものです。企業に社風があるように、個人にも価値観があります。これをしっかり自覚しておかなければ、入社後になってミスマッチに気付き、後悔する事態になりかねません。

(5)人間関係でトラブルが起こった

転職後は人間関係をもう一度、ゼロから構築する必要があります。それぞれに違う環境で育ってきた人同士がうまくかみ合うようになるには双方の努力が欠かせません。どちらかといえば後から転職して入っていく転職者のほうに「郷に入っては郷に従え」の精神が求められます。まずは最初の3カ月、次に半年、そして1年と、スタート時には慎重な人間関係構築を心掛けたいところです。

転職後に後悔しない人が実践していること

上記のような失敗を回避して、転職経験が豊富にあるわけでもないのに、納得感の高い転職を実現している人たちはどこが違うのでしょうか。転職で後悔しない人たちの共通点を3つ紹介しておきたいと思います。

(1)転職の目的を徹底的に考えている

最初に押さえておきたい共通点は、転職の理由と目的を明確にして、本当に転職すべきかどうかを考え尽くしているということです。「この仕事を辞めたい」とか「転職をしたい」と漠然とした気持ちで転職を決断してしまうと、退職することに力点があったり、環境を変えたいという気持ちだけが先走ったりして判断してしまい、後悔を招きやすくなります。不満を裏返したら、満足が手に入るわけではないということを理解しておきましょう。

(2)意思決定の軸を決める

次に、重要な要素は、転職について意思決定をする際の軸が決まっていることです。仕事内容、報酬、勤務地、社風、業種、経営者の人物タイプ、組織の状態、職場環境――。転職先を選ぶ際にはこれら多くの変数が交錯し、すべての条件がきれいに整うことはありません。それらのうち、自分は何を重視するのか、これだけは譲れないという軸を絞り込めていると、後悔する確率は大きく低下します。条件の取捨選択や重みづけが十分にできていることが大切なポイントです。

もし転職の軸を決めずに転職活動を行った場合、前職の不満が解消されない企業へ就職してしまうことも少なくありません。特に、なかなか理想の転職先を見つけられず、焦ってしまったときに誤った選択をしてしまう可能性が高まりますので、しっかりと軸を決めておきましょう。

(3)情報収集を十分に行う

最後が情報収集です。応募を検討している企業やその業界全体の知識を深めることはとても重要です。大ざっぱなイメージだけで選考に行き、その企業が言っていることだけを真に受けてしまうと、後から「不都合な真実」が見えてくるということもあり得ます。転職サイトの求人情報だけでなく、企業のホームページや口コミサイト、同じ業界の友人・知人などから幅広く情報を集めるようにしましょう。また、その企業についてだけではなく、業界研究、特にその業界の未来予測も十分にしておくことをお勧めします。

黒田真行
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/

[NIKKEI STYLE キャリア 2022年11月26日 掲載]

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