外資系の年収が高い理由 採用の裁量権の違いも一因に

ジェイエイシーリクルートメント 黒沢敏浩プリンシパルアナリスト

外資系は職務の大きさに対して給与を支払う傾向がある(写真はイメージ=PIXTA)
外資系は職務の大きさに対して給与を支払う傾向がある(写真はイメージ=PIXTA)

前回の記事「外資系企業の中途採用年収 日系より100円高い理由」では、主に外資系企業で高給ポジションの求人が多く発生する仕組みについて説明しました。今回はその後編として、外資系の給与が高い理由や給与支給の仕組みなどについて、人材紹介会社のジェイエイシーリクルートメント(JAC)の黒沢敏浩プリンシパルアナリストに語ってもらいました。

読者の方々は「スマートフォンといえば、日本ではどのメーカーのシェアが高いか」と聞かれたら、どのメーカーを想起しますか?おそらく多くの方々は某外資系ブランドを想起するでしょう。

技術力が高い日本企業が数多く存在する中でも、外資系の製品が日本で高いシェアを獲得できたのは、世界的に高いブランド力と独自の製品開発戦略に加え、優秀な人材を採用し、緻密な販売戦略を立て、市場の開拓に成功したことは容易に想像できます。外資系企業は「それなりに高い給料を提示した上で、いろいろと工夫しなければ優秀な人材は採用できない」という原則・原理を理解し、それを実践しているのです。

日本進出の外資系は生産性が高い

さて、外資系の年収が高い4つの理由のうち、前回の記事では高給ポジションの求人を外部に出す理由2点について説明しました。今回は同じポジションでも年収が高くなる以下の2つの理由を説明します。

●日本に進出してくる外資系は生産性が高い高成長企業が多い
●外資系は職務の大きさに対して給与を支払う傾向がある

海外に進出して事業を展開する外資系は一般的に単一国だけで運営する企業より生産性が高く、海外でも製品やサービスを販売・展開できる企業です。地場の企業と同レベルではなく、それを凌駕(りょうが)する強みと海外進出する確証や自信を持っています。もちろん、これは外資系だけでなく、日系グローバル企業にも当てはまります。

生産性とは別の話になりますが、国境を越えて進出できる体力がある成長企業が多いことから、進出する国で成長するための投資の目的も込め、高い年収を提示して人材を外部採用するのです。

外資系は一般的に本国の報酬体系により、本国から日本に派遣されるエクスパット(駐在員)の給与は非常に高い傾向があります。社員の職務の高さに応じて年収の高さも比例するため、本国から日本に派遣されるエクスパットのポジションが日本在住の日本人に切り替わった場合でも、比較対象となるエクスパットの高い給与水準に影響を受けるため、外資系の役職者の給与は比較的高い状態が維持されるのです。

外資系は人事より採用部門が待遇の裁量権を持つ

日系が人材を採用する場合、一般的に本社の人事部が決めた給与体系の中から諸条件を決めてオファーを出します。一方、外資系は給与体系の最低限の条件が相対的に緩く、基本的に人材を採用する部署の責任者が待遇を決めることができるなど、いわゆる採用の裁量権は各部門に属しています。このため、もし採用される人材が高い市場価値の方であれば、高い年収のオファーを得やすくなるのです。これが日系と外資系の大きな違いです。

また、日系と外資系では給与の支払い方式の違いから、結果的に外資の方が高くなる要素もあります。

日系の特徴として「年功的昇進・昇給」「遅い昇進」などの文化が根強く、外資系はその逆です。特に、営業職や経営などのポジションでは成果主義の度合いが高いケースが多く、好成績の時はインセンティブで高い給与が支給されます。

外資系は日系に比べると人件費は固定費ではなく変動費的な扱いでもあるため、「人件費=固定費」と考えている日系に比べ会社側としてのリスクは低くなります。その分、高く給与を払ってもよく、個人にとっては変動リスクが高いだけに、期待値としては高い年収が得られることになります。

なお、外資系では図表の理論年収に加え、業績に応じて支払うインセンティブ・ボーナスやストックオプションなどの金額を加算して支給する企業も多く、これらを含めると給与額はさらに高くなります。これに対し、日系では当初は金額が未確定の時間外手当や社宅、退職金といった要素が図表の数字以外の金銭的な報酬として存在します。

日系が多く採用している「能力は下がらない前提かつ大抵年功的に運用される『能力給』」に比べ、外資系は「職務給」である企業が多いため、特に30代ぐらいまでの若手の候補者にとっては、日系の年功的給与に比べ、若くして高いポジションに就けば高い給与を得ることができます。

外資系は職務に対して給与支給

日系は部署異動をしても給与額が下がることはほぼありませんが、外資系は職務に対して給与を支給する考えのため、その職から外れるとその給与も支給されなくなります。これが会社側としては比較的容易に高い金額が出せる理由ですが、個人としてはその職から外されることを考えるとリスクになります。

ここまで述べた通り、外資系企業の年収が高いことにはさまざまな理由があり、読者の方々の中には「外資系は年収が高いけれど、その分だけ仕事は厳しいな」と思った方もいるかもしれません。しかし、外資系で高い年収のポジションが多く募集される理由は、転職を考える際の選択肢として十分に合理的なものです。

外資系の中途採用市場では比較的高年収の求人が多く出ており、これは現在の高給を維持もしくは年収アップの企業選びの選択肢が大幅に増えるということです。従来から指摘されている通り、典型的な日本の大手企業のミドル層以上の人たちが、高い給与を維持したまま転職する手段がないため、我慢して会社にしがみつかなければならない状態、いわゆる「ホールドアップ」問題に悩まされている状況を鑑みると、転職して現状を打破できる機会が大幅に広がっていると言えます。

外資系は仕事の実力や結果を短期間で判断し、仕事自体に対して高い報酬を払う文化があり、それが魅力的と思う方にはチャレンジをする価値が十分にあります。これまで培った専門性や経験を生かし、高い年収で転職する手段として、英語を使う外資系を視野に入れることは選択肢の確保という点でも大きな価値があるでしょう。

黒沢敏浩
ハイクラス・管理職の転職に強い人材紹介会社のジェイエイシーリクルートメント(JAC)でマーケット研究などを担当し、ホワイトカラー転職市場や給与の分析などで約20年の経験を持つ。人材サービス産業協議会の「外部労働市場における賃金相場情報提供に関する研究会」委員や日本人材マネジメント協会執行役員「人事(HRM)の投資対効果(ROI)」担当も務める。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。国家資格のキャリアコンサルタント、ISO30414リードコンサルタント。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年12月08日 掲載]

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