転職、コロナ禍前水準に パーソルHD・和田社長

月曜経済観測

パーソルHDの和田孝雄社長
パーソルHDの和田孝雄社長

猛威を振るうオミクロン型。社会経済活動に大きな影響を与える中で、労働市場はどうなっているのか。人材派遣、転職支援などを手掛ける人材サービス大手、パーソルホールディングスの和田孝雄社長に新型コロナウイルス禍、人手不足の下での雇用環境、働く人の意識などについて聞いた。

――第6波に襲われています。働く現場に混乱は起きていますか。

「急な派遣の依頼はない。事業会社では混乱が起きておらず、第6波に向けた準備をしていたからだろう。コロナとの闘いは2年にもなり、事業継続計画などの経験知もある」

――コロナ禍前と現状を比較すると。

「人材紹介(転職)はコロナ前の水準に戻っている。DX(デジタルトランスフォーメーション)関連がけん引する。人材派遣は10%下回る。小売・飲食業はまだ約70%も落ち込んでいるのが主な要因だが、金融・保険業からのテレマーケティングなど非接触型営業のニーズは高い。住宅関連の引き合いも強い」

「人材派遣はオミクロン型の存在が明らかになる前の昨年秋ごろにはコロナ前に戻るのを今年3月ごろと見ていたが、現状では数カ月遅れるだろう」

――地域別の濃淡はありますか。

「東京に比べて大阪の派遣需要の戻りが早い。中小の幅広い業種の製造業が多いことが背景にあるのではないか。これまでは景気回復期では自動車産業が集積する中京の動きが良かったが今回はそうではない」

――人手不足感が強い状況では転職が活発になったり時給単価が上がったり、新規に職を求めたりする人もいるのではないですか。

「追い風になるはずだと見ていたが、まだ動きが鈍い。コロナ禍での景気回復の見通し、産業構造の変化の確信が持てず、様子見の姿勢だ。コロナ禍で一旦、仕事から離れた人も『まだ理想の職場を見つけるタイミングではない』と考えているようだ」

「派遣の単価はアルバイトの時給のようには上昇しておらず、東京の場合、事務派遣で約1700円と昨年並みだ。企業が求める人材との質のギャップがある。コロナ禍では最初から在宅で仕事をこなすこともあり、今まで以上にコミュニケーション能力が必要になってくる。強い需要のあるデジタル関連では、テクニカルスキルが明確でそのスペックがないと難しい」

――コロナ禍にもかかわらず、2023年度を最終年とする中期経営計画を1年前倒しで達成できそうです。 

「初めての緊急事態宣言が出て、経済が急失速した時でも派遣の人材の雇用を守ってくれたことが大きい。雇用の調節弁ではなく大切な戦力との位置づけが背景にある。だからこそ業績の回復も早かった。08年のリーマン・ショックとは違う」

――年度末には派遣の賃金交渉が始まります。

「昨年は契約継続のお願いで賃金交渉まで進まなかった。今年は労働需給の逼迫もあり、賃上げをお願いすることになるが、このタイミングでオミクロン型の猛威は痛い。なんとかスキルアップ分の評価はしていただきたい」

(聞き手は編集委員 田中陽)

わだ・たかお 「はたらくを通じて笑顔になる社会に」を実践する。59歳

[日経電子版 2022年01月31日 掲載]

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