
何歳まで転職できるのか――。仕事探しで誰もが気になるのが年齢だ。中途採用では年齢を重ねるほどに経験や専門性を求められる。転職のハードルが上がり、尻込みする人も少なくない。
長らく転職年齢の上限とされてきたのが「35歳の壁」だ。現実はどうなのか。総務省の労働力調査をみると、2020年の転職者数のうち35歳以上は186万人で全体の約6割を占めた。このうち45~54歳の中高年は59万人と、10年前から55%も伸びた。

人事コンサルタントの城繁幸氏は「この5年くらいで35歳の壁は完全に崩れた」と断言する。背景にあるのが企業側の意識変化だ。「若い人材を育てるよりも、脂の乗った40歳で即戦力になる人材を採ったほうが効率的だと多くの企業が気づいた」と指摘する。
働く人も市場の変化を冷静に見据えて行動している。「年齢や経験を重ねて、自分のやりたい仕事がはっきりしてきた」。針谷典子さん(36)はPR会社などを経て2020年5月に都内の医療系ベンチャーに転職した。20代の頃は自分に適した仕事か自信が持てず、将来のキャリアプランも考えていなかった。
ずっと働き続けるには何を武器にするか。複数の会社で人事業務を担当することで「人事のプロになりたい」という思いが強まった。経験を売りにしながらスキルアップも可能な場所を探し当てた。転職先では採用から労務、人事制度など幅広く任せられている。「ここで腰を据えて学びたい」と笑顔を見せる。
市場の求める知識やスキルを磨く「リスキリング」の動きも広がる。ビズリーチの21年調査によると、ビジネスパーソンの55%がリスキリングに取り組んでいると回答した。伊藤綾ビジネス開発統括部長は「1つの会社に依存せずに自らのキャリアを主体的につくろうという人が増えた」とみる。
企業の人事制度も変革を迫られている。その象徴が社内の各ポストの職務を明示してその能力を備えた人材を起用する「ジョブ型雇用」の導入だ。
SOMPOホールディングスは20年4月にジョブ型を取り入れた。22年春には課長ポストを社内外からの公募制に切り替える。特定の椅子をめぐって社内外の人材が能力を示し競うことになる。制度づくりを担う人事部課長も例外ではない。三浦哲雄課長は「まず自分自身が手を挙げた」と明かす。
同社はジョブ型を前提に中途採用者も積極的に採用する。21年度末までに社員数の2割の100人程度を転職者が占める見通しだ。「優秀な人材を獲得するには人事制度も大きく変えないといけない」と三浦氏は強調する。
年功序列と終身雇用を核とした日本型の雇用システムは1960年代の高度成長期に確立した。80年代には日本の経済成長を支える仕組みとして世界中の注目を集めた。ただ企業が大量採用した学生を何でもこなせるゼネラリストとして育て、配置する仕組みはジョブ型とはなじまない。
人事コンサルタントの城氏は「ジョブ型になれば年功賃金もなくなる。終身雇用が形骸化し、転職の動きが加速するだろう」と予想する。企業も個人も雇用制度の転機にどう向き合うかが問われている。
岡部貴典、千葉大史が担当しました。
[日経電子版 2022年01月27日 掲載]