GAFA元部長が語る転職成功の鍵 4分割で己の強み知る

GAFAの一角で元部長 寺沢伸洋さん

「何を強みと表現していいか分からない人が多い」という
「何を強みと表現していいか分からない人が多い」という

日系メーカーで17年間勤務し、40歳でIT(情報技術)大手「GAFA」(グーグルの持ち株会社アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)のうちの1社に事業企画部門の部長として転職した寺沢伸洋さん。ビジネスパーソンが転職市場での価値を高めるには、まず「自分の強みを的確に捉えることが大切だ」と語る。

年収が良くても、自分に合った仕事でなければ続かない

――成功する転職の条件は。

年収などの条件がどれほど良くても、そこでの仕事が自分に合っていなければ、長続きしないし、働きがいも感じられません。これでは転職は失敗でしょう。自分に合うところで働いてこそ、成果が付いてきて、その後のキャリアの選択肢も広がります。当たり前すぎると思われるかもしれません。でも「自分は何が得意なのか」「何が好きなのか」をきちんと認識できていない人はとても多いです。

例えば、知人の営業職の女性は英語と中国語を駆使しながら海外の顧客と交渉を重ね、それまで1カ月当たり100万円だった売上高を1億円に伸ばした経験を持っていました。それにもかかわらず、僕のところへ転職の相談に来た彼女は「私には売りにできる強みが何もない」と言うんです。

客観的に見たらすごい実績を持っているのに、なぜ自信を持てないのか。それは呼吸するような感覚で難なくできてしまうことほど、人は「こんなことは誰にでもできる」と考えてしまい、「強み」として認識しにくい傾向にあるからです。多くの人には「強みがない」のではなく、「何を強みと表現していいか分からない」だけなのです。

「4分割マップ」で自分の強みを知る

――自分の強みを見つける方法はありますか。

僕は次のような切り口で自分自身と向き合ってみることをお勧めしています。ノートなどに「好き」「嫌い」を縦軸、「得意」「苦手」を横軸にした十字を書いて「4分割マップ」を作ってみてください。

「好き」「嫌い」を縦軸、「得意」「苦手」を横軸にした「4分割マップ」
「好き」「嫌い」を縦軸、「得意」「苦手」を横軸にした「4分割マップ」

ここに、これまでの具体的な経験を分類して書き込んでいくと、自分の特性が浮かび上がってきます。このマップに急に落とし込もうとすると戸惑いが生じる人は、別のスペースに今まで経験した細かい業務を思いつくままに箇条書きした上で、一つ一つ分類していくと作業しやすいと思います。

好き、嫌いにかわわらず、得意であれば「自信を持っていい領域」、得意、苦手にかかわらず、好きであれば「楽しめる領域」です。「CAN(できること=自信を持っていい領域)」と「LIKE(好きなこと=楽しめる領域)」を両方満たせる状態を目指していくと、成果も幸福度も上がります。自分の強みをしっかり理解し、積極的に外部へ発信していくことで、人材としての信頼や市場価値が高まります。結果として、年収アップにもつながっていくでしょう。

人材としての信頼や市場価値が高まれば年収アップも
人材としての信頼や市場価値が高まれば年収アップも

――もし今、取り組んでいる仕事が「苦手」かつ「嫌い」な領域にある場合は、どうすればいいですか。

転職してその領域から抜け出すという考え方もありだと思います。ただ、やってみたいことが未経験の仕事だった場合、中途採用市場だと案件が見つかりにくいかもしれません。また、「できないこと」「したくないこと」は分かったとしても「何ができるのか」「何がしたいのか」を捉えられていないと、転職先を見誤ってしまう可能性も大きいです。僕はまず、今いる場所で行動を起こしてみることが大事だと思います。

現職場で異動希望も一手 転職せずに働きがいも

例えば、今は営業部門にいるけれど、自分には向いていないと感じていて、未経験の事業企画の仕事に関心があるとしましょう。「企画職って面白そうだな」とぼんやり考えているだけではなく、実際に企画書を作ってみて、事業企画部門の部長などに「良いか悪いか、意見だけでも聞かせてもらえませんか」と頼んでみるのはどうでしょうか。

初めは完成度の低い提案であってもいいのです。働いてみたい部署の上司に自分の思いを知ってもらうだけで意味があります。助言をもらったり、それを基に改良した企画書をまた持ち込んだりしているうちに、新規プロジェクトを一緒にやらないかと声がかかったり、社内異動が実現したりするかもしれません。それで、自分の強みがより発揮できるようになり、働きがいも感じられるようになれば、必ずしも転職しなくてもいいわけです。

現状を変えるために何ができるかを考え、行動するのが第一歩
現状を変えるために何ができるかを考え、行動するのが第一歩

もし、社内で行動してみた結果として異動などにつながらなかった場合でも、行動に移したことは全て実績としてアピールできます。同じ未経験転職でも「やってみたいという思いがあるだけの人」と「実際に行動してみた上で、環境を変えたいと考えている人」では、採用担当者が受ける印象が全く違うであろうことは想像できますよね。

そもそも、「CAN」と「LIKE」が両方満たされる領域で働けている人は、とても幸運だと思います。「苦手な上に好きではない」「得意だけど好きではない」「好きだけど得意ではない」といった領域で働いている人の方が多いでしょう。その状況を変えるには、職場から言われたことをやっているだけではなく、変えるために何ができるかを考え、行動に移してみるのが第一歩だと思います。

(ライター 加藤藍子)

寺沢伸洋(てらさわ・のぶひろ)
1976年大阪府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、日系メーカーで17年間勤務。経理、営業、マーケティング、経営企画などさまざまな部門を経験し、半年間の英国留学後、GAFAのうちの1社に転職。2021年9月末で退職。著書に『40歳でGAFAの部長に転職した僕が20代で学んだ思考法』『GAFA部長が教える 自分の強みを引き出す4分割ノート術』ほか。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年10月27日 掲載]

ピックアップ

注目企業

転職成功アンケートご協力のお願い
日経転職版を通じて転職が決まった方に、アンケートのご協力をお願いいたします。