
日系メーカーで17年間勤務し、40歳で米IT(情報技術)大手「GAFA」(グーグルの持ち株会社アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)のうちの1社に事業企画部門の部長として転職した寺沢伸洋さん。1度の転職で年収を3倍まで伸ばし、その後4年で「FIRE(Financial Independence, Retire Early)=経済的自立と早期退職」を遂げた。キャリアアップをどう実現したのか。
新卒入社の企業は10カ月で退職
――順風満帆なキャリアを歩んできたように映ります。
経歴を一見すると、そんな印象を持たれるかもしれません。でも、仕事に対するモチベーション(やる気)は上がったり下がったりの繰り返しでした。そもそも僕は新卒で入社したメーカーを10カ月で退職しました。経理部門に配属されましたが、伝票を端末に打ち込み続ける単調な仕事にどうしてもなじめなかったのです。転職先のメーカーでは「面白い仕事ができるぞ」と張り切っていましたが、最初に配属された営業部門で全く成績が上がらず、意気消沈して辞めることも考えたくらいです。
結果的に17年間勤め続けることになったのは、何回か部署異動をする中でマーケティングや経営企画の仕事にやりがいを見いだすことができたからです。でも、日系企業の会社員であれば多くの人が経験するように、組織から任される仕事は「得意なこと」「好きなこと」ばかりではありません。40代を前に苦手な営業部門に再び配属され、状況を打開したいと考えていました。そんなとき、GAFAのうちの1社で働いている知人から「一緒に働かないか」と声をかけてもらい、採用面接を経て転職するに至りました。
年収を上げたければ自分のスキルを「見える化」
――その転職は寺沢さんのキャリアでどんな意味を持ちますか。
これまで培ってきたスキルをきちんと「見える化」して伝えることで、責任ある役職を与えてもらい、自分の可能性が大きく広がったと思っています。年収も最終的に前の会社の3倍ほどに上がりました。
このキャリアアップに至るまでに大切にしていた思考法や仕事のノウハウを電子書籍にまとめて出版したところ、大きな反響がありました。これを機に商業出版に至り、副収入が得られたこともあって、2021年9月末でいわゆる「FIRE」も実現しました。
――40歳で異業種の外資系企業へ転職することに不安はありませんでしたか。
僕は未知の領域に飛び込んでいくことに対してストレスを感じず、ワクワクできる方です。それに、業界に関わる知識や物事を進めていく上での「作法」は新しく学ぶ必要があるけれど、マーケティング職で培ったデータを分析する力や、経営企画職で鍛えたさまざまな部門の人を巻き込む力は、異業種でもそのまま通用すると確信していました。勤務先からもそれを期待されて入社したわけですから。

年収は一般的に業界や職種にひも付いているといわれます。僕は転職するときに年収だけを基準にするのは危険だと思いますが、もし年収を上げたいという気持ちがあって、異業種に領域を移せばその目的が達成されるのであれば、どうすべきか。まずは面接対策として、自分が今やっている仕事内容をとことん深掘りして言語化してみるといいでしょう。
「どんな仕事を経験してきましたか」と聞くと、「営業です」「システムエンジニアです」といったように、職種や部署でしか語れない人がよくいますが、これではいけません。何のために、どんなことで、どのように行動することで成果を出してきたのか。自分を深掘りして具体的に説明できるようになれば、「次にどんなことをしたら、よりレベルアップできそうか」「他の領域で自分のスキルを生かせそうか」ということについてもロジカル(論理的)に説明できるようになります。
――40代に差し掛かってくると、「もう大きなキャリアチェンジの機会なんてやってこない」と弱気になってしまう人もいるようです。
そういう気持ちになるのは理解できます。35歳を超えると転職は難しくなるという通説が気になったり、仕事をする中での自分の成長速度にも行き詰まりを感じたり。「能力をもっと発揮できる場所があるのではないか」と感じつつ、「今いる場所で我慢し続けるのが現実的だろう」と自分を抑えつけてしまいがちな時期です。だからこそ、僕は「40歳からでも挑戦できます」と身をもって示したいと考えています。経験を本にして伝えているのも、そういう思いからです。

振り返ってみると、僕のキャリアで一貫していたのは、自分の気持ちに蓋をしないこと。「モチベーションが上がらない」「取り組んでいる業務が苦痛だ」と感じたら、我慢するのではなく、その要因を探り、別の場所へ自分を持っていくためには何をすればいいかを考えましょう。キャリアアップも年収増もその結果としてついてくるはずです。
(ライター 加藤藍子)
寺沢伸洋(てらさわ・のぶひろ)
1976年大阪府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、日系メーカーで17年間勤務。経理、営業、マーケティング、経営企画などさまざまな部門を経験し、半年間の英国留学後、GAFAのうちの1社に転職。2021年9月末で退職。著書に『40歳でGAFAの部長に転職した僕が20代で学んだ思考法』『GAFA部長が教える 自分の強みを引き出す4分割ノート術』ほか。
[NIKKEI STYLE キャリア 2021年10月20日 掲載]