転職のリアル

高度人材に「年収2000万円」 DXバブルで争奪戦

アクセンチュアは顧客のデジタル改革に応じて人材を急増させている
アクセンチュアは顧客のデジタル改革に応じて人材を急増させている

都内在住の男性(36)は2021年6月に転職活動を始めた。勤めていたシステム会社の営業の仕事に大きな不満はなかったが、視野を広げたいとの思いが募り「気分転換くらいの軽い気持ちで応募した」。手始めにビジネス向けSNS(交流サイト)「リンクトイン」に登録した。

「ぜひ面談を受けてほしい」。驚いたことにすぐさま選考の案内が相次いだ。メールには米欧IT(情報技術)大手の名前がずらりと並ぶ。「検討中の会社より高い報酬を払います」と2000万円近い年収も示された。5社の面接を受けて3社から内定を得た。活動開始からわずか2カ月で転職先を決めた。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で低迷していた企業の中途採用活動が足元で活発になっている。転職支援サービス、リクルートエージェントの調査によると、エンジニアや営業職など代表的な職種の求人数は21年4~6月にコロナ前の水準を回復した。7~9月は20年1~3月比で15%増となった。

けん引役となっているのが、データ分析やデジタルマーケティング、IT営業などのDX(デジタルトランスフォーメーション)分野だ。同じ期間で比べるとIT・通信業界の21年7~9月の求人数は21%伸び、他業種よりも回復が顕著だった。

コロナ後を見据えて事業改革を急ぐ企業にとってDXは成長戦略のカギを握るが、人材不足は深刻だ。経済産業省によると国内のIT人材は18年時点で103万人にとどまり、需要が高いペースで伸び続ければ30年には最大79万人不足すると試算する。

IT人材のヘッドハンティングを手掛けるレカトコンサルティングの中山元氏は「需要に対して求職者が少ない。体力のある大手企業同士で人材獲得のために報酬を競り上げる『DXバブル』の様相だ」と指摘する。企業が提示する報酬水準は2000万円を超えるケースも出てきているという。

IT市場の活況は指南役となるコンサルティング業界にも波及する。アクセンチュアは中途採用を中心にコンサルタントなどの陣容を急拡大させる。日本の社員数は1万8000人超と過去7年間で3.5倍に増員した。「会社の仕組みを根底からデジタルに変える大がかりな案件が増えた。積極的に人材を採ってきたが、顧客ニーズを満たせない」と江川昌史社長は明かす。

人材戦略のカギを握るのは多様性だ。DXといってもシステム構築からマーケティングまで範囲は極めて広い。江川氏は「100種類くらいのスキルを持った人材を集められるか。コンサルティング会社同士も生き残りをかけた戦いだ」と強調する。

ただ、高い報酬や待遇と引き換えに転職した個人にとって競争は激しい。外資系企業の多くでは会社が求める水準を達成できなければ、報酬も下がりやすい。

21年7月に外資系IT大手に転じた女性(30)は大手総合商社の安定した地位を思い切って捨てた。「AI(人工知能)やコンサルティングなどで最先端のスキルを身につけたい」と自らを鼓舞するが、「クビにされるリスクは怖い」と不安もつきまとう。

DXバブルをキャリアアップの追い風にできるか、個人の選択の吉凶はまだ見えない。

[日経電子版 2022年01月25日 掲載]

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