
ファーストリテイリングは中途採用の年収を最大10億円に引き上げる。柳井正会長兼社長の年収4億円を上回る。日本企業の中途採用の平均年収の200倍超にあたり、国内では最高水準とみられる。衣料品は米アマゾン・ドット・コムなどIT(情報技術)大手との競争が激しくなっている。世界からデジタル人材を集めて衣料品の製造・販売が中心の収益構造を変え、新たな事業モデルを構築する。
柳井会長が日本経済新聞の取材で明らかにした。2022年から中途採用の年収を最大10億円にする。ファストリの本部に所属し、デジタル化や電子商取引(EC)、サプライチェーン(供給網)に精通した人材を募集する。これまでは中途採用の報酬について明確な基準はなかった。高額な報酬を示すことで優秀な人材を集める意思を明確にする。

柳井会長は「コンサルタントや大企業出身者ではなく、新たな価値を生んだり、事業を白紙から考えたりできる人を求める」と指摘。採用数に上限は設けず、「自分より優秀で天才的な人が対象だ。いい人材がいれば100~200人でも採用したい」と語る。
ファストリの21年8月末の従業員数はグループ全体で約5万6000人。「ユニクロ」などの従業員を除いた本部の社員は約1600人おり、大半が中途採用だ。平均年収は約960万円のため、最大10億円の年収はこれまでにない待遇となる。
衣料品は新型コロナウイルス禍でインターネットを通じた販売が急増している。米グーグルもネット通販大手と組んでEC分野を強化するなど、IT系を中心に異業種がアパレルの産業構造を変えようとしている。
柳井会長は「将来の競合は『ZARA』よりGAFA(グーグル・米アップル・旧米フェイスブック〈現メタ〉・アマゾン)になる」と強調する。デジタル人材を核に衣料品の収益モデルを変え、IT大手に対抗する。
日本企業の給与は終身雇用と一体で運用され、年功色が強い。アパレル国内首位のファストリが中途採用の年収を大幅に引き上げることで日本企業の給与体系にも影響を与える可能性がある。
転職サイトを運営するマイナビによると、転職した後の初年度の年収は昨年11月で平均453万円だった。アパレルを含む「流通・小売・フード」業種は406万円と全体より低い。
デロイトトーマツグループの20年度の調査によれば、日本の最高経営責任者(CEO)の報酬総額の平均は1億2千万円。米国は15億8千万円で、日米の格差は前年の12倍から13倍に拡大した。欧州でも英国のCEOは3億3千万円の年収がある。10億円の年収は欧米の経営トップと並ぶ水準となる。
[日経電子版 2022年01月16日 掲載]