SDGsやダイバーシティ......女性リーダー、新領域で輝け

パソナ日本創生大学校が各企業の女性幹部候補生向けに行う研修。野菜や土に触れるフィールドワークを通じて、持続可能な農業についても学ぶ(兵庫県淡路市)
パソナ日本創生大学校が各企業の女性幹部候補生向けに行う研修。野菜や土に触れるフィールドワークを通じて、持続可能な農業についても学ぶ(兵庫県淡路市)

コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂などを背景に、女性役員登用の動きが活発になっている。とはいえ、男性中心に作られた組織の枠組みにただ女性を加えただけでは、十分に力を発揮できない。今後の経営に不可欠である「新たな領域」で、女性をリーダーとして育てる取り組みが進んでいる。

教室は畑 自ら活躍の場を作れる人材を

パソナ日本創生大学校(兵庫県淡路市)が2021年10月に始めた企業向け女性幹部候補育成プログラム。5日間の淡路島合宿中、ある日の教室は畑だった。土の消滅など今起きている変化や、化学肥料の健康への影響などを学び、各自の仕事との関わりについて意見を交わす。参加者らは畑を歩き、草や土を触りながら様々なことを考える。

参加者の1人、新生銀行グループ経営企画部(取材当時、現グループ海外事業統括部)シニアマネージャーの村田久美さんは「個人的に関心がある教育格差の問題は、自分の業務に関係ないと思っていた。だが社会課題はすべてビジネスと結びついていると気づき、新たな事業プランを提案する勇気が持てた」と言う。

三井住友海上火災保険滋賀支店大津支社課長の山本由紀さんは「今後への迷いがあったが、仲間に出会えたことでキャリアを積み上げる覚悟ができた。共に成長していきたい」と話す。

パソナ日本創生大学校の研修では、フィールドワークや新事業創出の考え方などに多くの時間を充てる(兵庫県淡路市)
パソナ日本創生大学校の研修では、フィールドワークや新事業創出の考え方などに多くの時間を充てる(兵庫県淡路市)

プログラムは3カ月間で、毎月5日間の合宿と6回のオンライン講座を行う。今回は18社から18人の女性が参加した。研修を通じてパソナグループが意識したのは「新しい視点や働き方、考え方を経営に取り込めるような人材を育成すること」だ。

そのためにSDGs(持続可能な開発目標)を体験から学ぶフィールドワークや新事業創出の考え方などに多くの時間を充てる。「育児と仕事の両立」を経営課題として身近に感じてもらうため、子連れでの研修参加も可能にした。

研修のアドバイザーであるパソナグループの石川博紳顧問には苦い経験がある。別の会社で人事担当だった10年前、海外の大学と組んで幹部候補者向けの研修プログラムを実施した。参加者には女性もいたが、優秀だったにもかかわらず、その後会社を辞めた。「当時は力をつけた女性を受け入れる器が会社になかった。『ポストを考えるから少し待って』と言っている間に女性は外資系企業などに飛び出した」

旧来の男性中心の組織はそのままに、形だけ女性をあてはめようとしてもうまくはいかない。むしろ、自ら新たな活躍の場を企業の中に作れる人材を育てることが重要だと考える。

サステナブル分野などで女性役員の引き合い強く

SOMPOホールディングスの下川亮子執行役は新しくできたグループCSuOに就任した
SOMPOホールディングスの下川亮子執行役は新しくできたグループCSuOに就任した

実際、企業は今、SDGsやウェルビーイング(多様な人々の幸福)といった新しい経営課題に向き合っている。女性取締役などを企業に紹介するWaris(東京・千代田)でも、サステナブル(持続可能)分野などの人材の引き合いが強いという。田中美和共同代表は「これらの分野はCSR(企業の社会的責任)や広報担当など女性の多い領域から輩出されるケースが多く、女性にチャンスが開かれている」と話す。

SOMPOホールディングスは21年8月にサステナビリティ担当(CSuO)を設置し、下川亮子執行役が就任した。ゴールドマン・サックス証券や日本マクドナルドなどでのキャリアを経て、16年にSOMPOホールディングス子会社に入社した。下川さんは「グローバル市場を狙うならいち早く取り組むべき課題。非財務分野の価値を見える化して企業価値につなげていきたい」と話す。

駐日大使との面談通じ、人脈拡大

こうした領域を女性活躍の舞台とするため、情報交換や人脈づくりの新たな場を設ける動きも出ている。

女性活躍推進を支援するNPO法人J-Win(東京・千代田)は、20年から会員企業の女性役員に駐日女性大使がメンターとなって助言や指導をする事業を進める。定期的な面談を通じて国際的な視野を養い、各国の女性役員らとのネットワーク作りにつなげる。

ロールモデルの少なさは、女性がキャリアアップを目指す上で大きなハンディだ。SDGsやダイバーシティなどの領域で先行する海外との人脈づくりが、今後に役立つ。

金融庁と東京証券取引所は21年にコーポレートガバナンス・コードを改訂し、取締役会にジェンダーや国際性、職歴などの多様性を求めている。経団連も30年までに役員の女性比率を30%以上に引き上げることを目指す。

ただ、実際の歩みは極めて遅い。日本の場合、企業の女性役員比率は1割程度。海外では欧州を中心に3割を超える国も少なくない。内閣府の調べでは、東証1部上場でも約3分の1の732社で女性役員が不在だ。

競争から共生の時代。女性自身が新たな領域でのリーダーを目指すとともに、企業側も組織のあり方を問い直すことが必要だ。21世紀職業財団の座間美都子事業推進部長は「外部から求められてやるのではなく、企業を継続的に発展させるために組織を変え、ダイバーシティを強みにするというトップの覚悟が求められる」と話す。

企業風土の見直しも

人事シートの記入項目として、資格取得などのほかに「アルコールは飲めるか」「ゴルフはできるか」といった内容を記入させる企業は今もある。昇進にどう影響するのか定かではないが、ある女性管理職は「毎年記入するたび『そろそろゴルフをやらないと先はないのかな』と考えてしまう」という。

伝統的な男性中心の企業コミュニティー、いわゆる「オールド・ボーイズ・ネットワーク」は平日の酒席と週末のゴルフで形成されるといわれる。組織の多様性を推進し、イノベーション創出につなげるためには、こうした企業風土の見直しも欠かせない。

(編集委員 中村奈都子)

[日経電子版 2022年01月10日 掲載]

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