次世代リーダーの転職学

若手→経営人材に非連続ジャンプ! 5つの条件と資質

経営者JP社長 井上和幸

1段階ずつ出世のステップを上る必要はなくなりつつある(写真はイメージ)=PIXTA
1段階ずつ出世のステップを上る必要はなくなりつつある(写真はイメージ)=PIXTA

様々な業界で変革やガバナンス強化の動きが加速しています。そのような中で、幅広いセクターで経営を担ってほしい人材のニーズが高まっているのをご存じでしょうか。「そうは言っても、社長経験や役員経験がないと無理でしょう?」。いえいえ、そうとは限らないのです。社長経験を有せずとも、経営ポジションにトライできる可能性を紹介しましょう。

可能性を秘めた若手を後継に

この連載でも過去にご紹介した通り、現在、後継者ニーズは非常に高く、様々な方法で事業承継を進めようという動きがあります(参考記事「コロナ禍で事業承継待ったなし4つの後継者採用法」 )。

事業承継での後継者というと、「経営経験を持つプロ経営者やエグゼクティブだけが候補者になるのでしょう?」。そう思っている人がほとんどかと思います。しかし、その後継を若い世代に託したいという動きが増えているのです。

M&A(合併・買収)で取得した会社の企業価値を高めた上で、売却し収益を上げる事業投資会社。その投資会社においても、最近は独立系や新設の一群を中心に、買収規模がさほど大きくない(二けた億円レベル)程度の投資先企業に関して、シニア世代ではなく、経営職経験はまだない次世代経営候補者に経営を託したいという動きがあります。

当社がつい最近支援した案件でもそういうことがありました。投資先企業(個人向けビジネスをチェーン展開)の従業員の中心世代なども考慮した上で、最終候補者としてリストアップ。最終的に残った数人の中から選ばれたのは、同業界での経営経験・人脈を持つシニア候補者ではなく、伸びしろを感じさせる若手の次世代経営候補者でした。経験豊富なベテランではなく、情熱を持った若手に、後継社長の座を託したのです。

こうした候補者にリストアップされるには、どうしたらよいでしょう。私たちは常に、肩書に関係なく、次に挙げる5条件にマッチした人たちに注目しています。

(1)事業推進のために俯瞰(ふかん)したところから、自分が携わっている事業を見ている

(2)どうすれば事業がうまくいくかについて、常に考えを巡らせていて、仮説に基づく試行錯誤を繰り返し続けている

(3)チームで勝とうという思考とマインドが強く、同僚や部下たちを大切にしている 

(4)自分なりの持論を持ち、質問に対して明快に回答できる

(5)責任を負う覚悟、自責がある。それがゆえに決断力がある

こうした人たちの中から、これまでの経験業界や職務専門性などを勘案した上で、「このような経営陣のお話があるのですが」と声を掛けるのです。

若手で経営幹部にジャンプする王道 スタートアップのCxOへ転身

自らがオーナーとなり、自身で後継経営者になる道もあります。個人のM&Aを仲介するマッチングサイトも増えてきました。

経営を目指す人は、こうした手立てで経営者になってみることも、これからはありでしょう。これまで企業に所属して雇われてきた人が、規模を問わず、雇う側になってみると、それまで当たり前だと思っていたことが、いかにそうではないかということに直面します。

経営とは何か、経営者とはどのような責任やプレッシャーを負うものなのか。百聞は一見にしかず。しかし、そこに1人でも雇っている人がいるならば、大きな責任がありますから、資金が手当てできたとしても、安易な気持ちで個人M&Aなどしては、絶対にいけませんよ。

成長過程のスタートアップ企業が創業メンバー以外のCxO(経営幹部)を外部採用で求めることは、もはや当たり前となりました。当社でも常時、COO、CFO、CMO、CHRO、CTOといった主要経営陣各職の依頼が寄せられており、これらをお任せできる候補者を日々サーチし、お会いしています。

もともとこうしたベンチャーは創業者が20代から30代のケースが多く、同世代を経営陣に求める傾向は1990年代から現在に至るまで、長らく一貫してあります。若くして経営職に就く王道的選択肢とも言えるでしょう。

創業メンバーとして参画することで、それまでいち現場メンバーであったところから、当初は実力はともかくも、一気に取締役になる。それから経営すること、事業や部門を率いることの苦労に直面し続けて、徹底的に現実にもまれることによって、自社も自身も急成長で「本物の経営幹部」となる。こうしたチャンスを得たいなら、周囲で「何かやってくれそう」な友人・知人のネットワークを作るべく、交友関係を広げるのもよいでしょう。

知り合いでの縁からであれ、我々のようなエージェント経由での紹介であれ、ベンチャー経営陣を目指す人には、次に挙げるような資質が欠かせません。

(1)未来の不確実性に対する耐性がある(「曖昧耐性」などと呼びます)

(2)ユーティリティープレーヤーが務まる(専門性は必要ですが、状況に応じて経験のない役割も積極的に負える必要があります)

(3)これまで経験が少なくとも、あるいは未経験であっても、多人数の人を抱える(部下を持つ)覚悟と喜びを持てる

(4)基本的には推進型志向(全体の中のごく一部だけ、用心型・リスク察知型人材が必要ですが、8割・9割は攻め型であることが望ましい)

(5)業務や環境の急激な変化への耐性がある、逆にそれを楽しめる

いかがでしょう。あなたは、ベンチャー向きですか、あるいはそうではないでしょうか。

社外取締役、監査役、顧問・アドバイザーに若手副業者を登用

上場企業ではコーポレートガバナンスコードの改訂により、独立社外取締役の選任規定が、2018年に2人以上となり、2021年にはプライム市場に上場する企業について取締役会における比率が3分の1以上に引き上げられました。今や上場企業およびそれに準ずる規模やステージの企業では、社外取締役を置くことは必須のものとなっています。

この社外取締役や監査役について、従来は大手企業の役員出身者や有識者を招くことが多かったのですが(言葉を選ばずにいえば、IR<投資家向け広報>上の見栄え、ブランド感、ステータス重視の選任)、変化が生まれつつあります。スキルマトリックスの導入などにも背中を押される格好で、実際にどのような側面の力や経験、専門性を持つ人なのかがチェックされるようになり始めました。

企業が顧問・アドバイザーを求めるケースも、ここへ来て非常に多くなっています。デジタルトランスフォーメーション(DX)推進など、既存の社員ではその知見・専門性や経験を保有していないプロジェクトについて、専門性を持つ外部人材にサポートしてもらうためです。

もともとは独立自営業者やフリーランサーに依頼する市場でしたが、ここのところ広がっている副業・複業解禁の流れの中で、現職者への依頼も増え始めました。ニュースになったところではヤフーでの副業人材100人採用やサイボウズでの募集、また神戸市や静岡県、愛媛県、渋谷区など各地の行政が副業人材を募集し話題になりました。この副業活用は今後も裾野を広げ、さらに増えていくでしょう。

こうした動きとダイバーシティー(多様性)重視の流れもあり、社外取締役や監査役、顧問・アドバイザーについても経験や世代のバラエティーをどんどん広げていく流れにあります。若手世代の情報力や感性、テクノロジーなどの技術知見を、自社の経営に貸してほしいというニーズは継続的に拡大していくでしょう。

こうした機会をつかんでいくには、日ごろから自らの「特化科目」を明らかにして、まずは一点突破的な専門性を磨き込んでいくことに尽きます。周囲の人たちよりも、頭一つだけでよいので、突出した得意科目を持つことが、副業・複業解禁時代でチャンスをつかむ武器となります。

これまでのように組織ピラミッドの階段を一つひとつ上ることだけが、経営職への道ではなくなっています。あなたがこれまでリーダーとして職務にしっかり向き合ってきた経営職希望者であれば、このタイミングで非連続ジャンプを狙うことは悪くない選択といえるでしょう。

井上和幸

経営者JP社長兼CEO。早大卒、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、リクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。「社長になる人の条件」(日本実業出版社)、「ずるいマネジメント」(SBクリエイティブ)など著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年10月29日 掲載]

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