三菱ケミカル、ジョブ型じわり浸透 導入から1年

三菱ケミカルは2020年10月、ジョブ型雇用の導入など人事制度の大改革を実施した。まず管理職を対象に導入した制度を、21年度から一般社員にも適用し、職務内容で処遇するジョブ型の要素を取り入れた。年功よりも職務で処遇する人事制度を整え、社員の働き方の自主性を高める狙いだ。そこに新型コロナウイルス禍が重なった。テレワーク普及で勤務地に縛られない働き方も社内に広がるなど副次的な効果も表れている。

三菱ケミカルのキャリアワークショップ
三菱ケミカルのキャリアワークショップ

「研究開発の現場にいた人が営業に行ったり、営業から共通部門に異動したケースなど様々な事例が生まれている」(労制人事部の杉浦史朗チームリーダー)。今回の改革の一環として、三菱ケミカルでは社内異動についても原則、公募制に転換した。制度改革からこれまでに、社内公募制に応募した社員は1100人近くに達し、730人程度の社員のマッチングが成立したという。

ジョブ型で社員に自主性

21年4月から導入した人事制度では、異動の社内公募制への転換に加え、事前に定義した職務に対する成果で賃金水準や賞与を決めるというジョブ型の基準を採用した。成果は上司が複数回の面談で評価する。従来は経験や勤続年数の要素と、職務内容の要素を同じ重みで評価してきたが、今回の改革で年功要素をなくした。

狙いは社員の働き方やキャリアに対する自主性を高めることだ。こうした改革が必要となった背景にあるのが、三菱ケミカルを取り巻く事業環境と、働き手の考え方の2つの変化だ。海外勢などとの競争が激化して、従来のビジネスモデルが成立しなくなったなかで、多様な人材から生まれるイノベーションの必要性が増している。また、働き手側でも転職や中途採用者が増加するなど、これまでのような新卒で入社した社員が定年まで勤めあげるモデルが成り立たなくなっている。

和賀昌之社長は「キャリアというのは人に与えられるものではない。自分のなかで考え、どう具現化するかというのを会社という器を使って、考えることだ」と説き、社員の自発的な行動を促す。そのうえで今回の新たな人事制度について、「考えた人にはキャリアパスの選択肢をいくつか渡す」と語り、本人次第で活躍の場は増えるとする。

新制度の導入には三菱ケミカル特有の理由もある。同社は三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンが17年に統合して発足した。その後吸収した日本化成と日本合成化学工業を含め5社が母体となっている。

そのため、「会社全体でどこにどんな人がいるのか網羅的に把握できている人がいないなかで、これまでは人材を配置してきた」(杉浦氏)状況だった。新たな人事制度は、人事異動の透明性や公平性を確保しながら、異なるバックグラウンドを持つ社員たちが適材適所で働ける環境を整える意味合いもある。

リモートで赴任先の仕事

新人事制度は新型コロナウイルス禍で普及したテレワークと組み合わさり、単身赴任の回避といった働き方の変化にもつながっている。育児や介護などの事情で家族が居住する地域から、赴任先の仕事にリモートで取り組むという事例も出てきているという。

労制人事部の久保田祥チームリーダーは「所属は東京本社でも、家族が居住する地方からリモートで東京の仕事をする例が最近、多く見受けられる」と話す。事前に公募をかける前に、仕事内容がリモートワーク可能かを提示し、そこに応募する地方の社員が増えているという。

こうした多様な働き方を認めることで、これまでは育児や介護などのためにキャリアアップを諦めざるを得なかった社員のモチベーションの向上や、離職を防ぐことにもつながる。同社は新型コロナが収束しても、この取り組みを継続していく考えだ。

三菱ケミカルでは、ほかにも管理職社員を対象とした転勤回避権の導入や、福利厚生制度の刷新などに踏み切っている。新制度に対する社員の評価について和賀社長は「おおむね悪くない」と話す。一方で社内からは「今まで会社がある程度、キャリアを提案してきてくれたのに、それがなくなった。自分はどうしたらいいのか不安だという声も出てきている」(杉浦氏)。

三菱ケミカルの和賀社長
三菱ケミカルの和賀社長

和賀社長は「新しい制度を会社のなかに埋め込むのは、例え話でいうと、臓器移植みたいなものだ」と話す。「まずは拒絶反応から始まる。それに対してきちんと説明していく責任がある」と力を込める。

対応策として三菱ケミカルでは、部下と上司とのコミュニケーションの機会を増やしている。これまで面談の機会は目標設定と中間面談のみだった。その際にキャリアについても話して、期末評価し、面談の回数は年に3、4回くらいだった。だが最近では頻度を増やして、最低でも年5回は面談を実施しており、キャリアプランなどについてもより綿密に話し合う機会を設けている。

だが三菱ケミカルはさらなる変革を迫られている。親会社の三菱ケミカルホールディングスが21年12月、23年度をめどに石油化学と炭素事業を分離する方針を発表した。世界的な二酸化炭素(CO2)排出量の削減という圧力が決断を促した格好だ。

両事業は三菱ケミカルが手がけている。両事業分離に伴う人事関連の対応策については「今検討中で、決まったことはなにもない」(同社)という。大きく人事制度を変えた三菱ケミカルだが、今後も事業ポートフォリオの組み替えなども視野に入れながら逐次、制度の見直しをしていく考えだ。(黒瀬泰斗)

[日経電子版 2022年01月05日 掲載]

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