次世代リーダーの転職学

早期退職して転職 学び直しで求められるスキル獲得

エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子

新たな学びを得る「リスキリング」に取り組む人が増えつつある(写真はイメージ) =PIXTA
新たな学びを得る「リスキリング」に取り組む人が増えつつある(写真はイメージ) =PIXTA

早期・希望退職制度を巡る状況が様変わりし始めました。募集する企業が増えたのに加え、働き手に新たな選択肢を示す形での募集に踏み切る企業も現れています。今回は早期退職の後に、どんなスキルでセカンドキャリアを歩めばよいのかを、考えてみたいと思います。

東京商工リサーチが行った調査によると、2020年に早期・希望退職募集を開示した上場企業は93社。新型コロナウイルス禍の影響もあり、前年の35社から2.6倍に急増したそうです。

つい先日、こんなニュースも報じられました。「パナソニックが7~8月に募集した早期退職に、1000人超が応募」。同社の目的は「人員削減」ではなく、来春の組織変革にあたって年収減となる人もいる可能性を踏まえ、「社員に選択肢を示した」といいます。

早期・希望退職制度と聞くと、「業績悪化に伴う一斉リストラ」をイメージする人も多いかと思います。しかし近年では、業績堅調な企業であっても、これらのプログラムを発動する、あるいは「常設」する企業が増えています。

中長期視点で早期退職・希望退職の制度を設ける企業が増加

それは、中長期視点での人材戦略にもとづくものといえます。近い将来、リストラ対象となり得る40代後半以降の社員に対し、パナソニックも語っているように、早い時期から「選択肢を提示する」わけです。

「会社を出てセカンドキャリアに踏み出すなら、早いほうが可能性が広いだろう」と、退職金を割り増しして新しい道へ送り出す。それを会社側の「親心」と考える向きもあります。

では、40代後半以降、早期退職を選択した人たちは、どんなスキルで勝負し、セカンドキャリアへ踏み出しているのでしょうか。

もちろん前職の経験・スキルをそのまま生かせる仕事に再就職できる人もいます。しかし、今は産業構造やビジネス環境が大きく変化している時代。これまで培った経験・スキルが通用しなくなっている人も多数いらっしゃいます。

そうした人たちは「学び直し」によって新たなスキルを身に付け、今ニーズがある仕事に転職する動きが見られます。それを支援する企業も登場してきています。

それぞれの動きについて、詳しくお伝えします。

「大手企業の管理職」は経験内容次第で転職活動に明暗

転職エージェントである私のもとにも、「早期退職制度を利用する予定」という人たちからの相談が増えてきました。

「あと10年、今の会社にいても、ある程度の安定は担保できる。しかし、思うような仕事ができるかというとそんな環境ではない。やりたい仕事ができる場所、自分が必要とされる場所で働きたい」といった相談です。

私が手がける採用案件は主に管理職以上ですので、相談を受ける人たちも管理職層が中心です。ただ、希望の転職を実現できるかどうかは、人によって明暗が分かれます。

管理職の人たちの多くは「マネジメント経験を生かす」ことを考えるかと思います。しかし、大手企業の大規模組織の中で、中間管理職だけを務めてきた人の転職は厳しいのが現実です。

「特定の専門分野×マネジメント経験」があれば、中小ベンチャーなどに転職できるチャンスもあります。でも、中小企業では「自ら手を動かす」ことも求められるので、直近で「管理」しかやっていない人は苦戦を強いられることになります。

では、大手企業の管理職でも、転職に成功しているのはどんな人か。それは、グループ会社や出向先企業などで、経営企画・事業企画・人材戦略なども含む、全般的なマネジメントを手がけた経験を持つ方。あるいは、新しい事業や仕組みを一から立ち上げた経験を持つ人です。

実際、早期退職プログラムを利用した人の転職成功事例を挙げてみましょう。大手商社で投資先企業の経営管理・事業企画・業務企画などを経験したAさん(40代後半)は、技術系ベンチャー企業にCOO(最高執行責任者)として迎えられました。所属していたのは大手企業でも、投資先の子会社で小規模ながら経営全般のマネジメントを経験したことが評価されたのです。

メーカーで営業部長を務めてきたBさん(40代後半)は、新規株式公開(IPO)を目指すテック系ベンチャー企業の営業部長に採用されました。Bさんの場合、ジョイントベンチャーで営業部隊をゼロから立ち上げた経験が生かされました。

もし皆さんが、「早期退職」を近い将来の「自分事」として捉えているのであれば、今の会社で、上記のような経験を積むチャンスを探ってみてください。子会社への出向、ベンチャー企業とのオープンイノベーションやアライアンス推進などの機会は、社内の動きにアンテナを張っておけば見つかるものだと思います。

機会がなければ、自ら手を挙げて新しいプロジェクトを起案し、プロジェクトリーダーを務めるのもいいでしょう。その経験は、セカンドキャリアへ踏み出す際、転職市場での価値アップにつながります。

ほかにも、大手企業の早期退職後の再就職にあたり、成功させている人に共通のポイントがあります。それは「覚悟」「潔さ」です。

大手企業時代の年収や待遇にこだわる方、あるいは中小企業を見下しているような方は、なかなか次が決まりません。「年収を下げてもいい」「企業規模は問わない」など、変化に対する覚悟を決めることで、チャンスが巡ってきたとき、迷わずつかみ取ることができます。

企業での導入が進む「リスキル」支援

大手企業で何十年も勤め上げてきた人は、自身の経験・スキルにそれなりの自負を持っているのだと思います。しかし、「これからの時代は通用しない」と、謙虚に受け止める姿勢も大切です。実際、早期退職を検討している人たちには、ビジネススクールに通う、資格取得に向けて勉強するなど、「学び直し」の行動を起こしている方が少なくありません。

一方、企業側も、従業員に対して新しいスキルを身に付けさせ、人材価値を向上させる取り組みに力を入れ始めています。これは「リスキリング(リスキル)」といわれ、今後、広がっていきそうです。近年、企業がリスキルに取り組む目的には、次のようなものがあります。

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進したいが、デジタル人材を採用できない。自社社員を教育することで、これからの時代に適合する、デジタルリテラシーを持った人材を育成する
  • 働く個人の間で「会社に依存せず、独自でキャリア構築する」という意識が高まっている中、新たなスキルを身に付けられるプログラムや機会を従業員に提供することで、自社に対するエンゲージメント(愛着、共感)を高めたい

このような背景から、従業員が受講できるオンライン学習サービスなどを導入する企業も増えています。自社にこうしたリスキルの制度があるなら、それを積極的に活用してはいかがでしょうか。

ニーズが高まる職種への就業・スキル習得を支援する企業も

では、早期退職後、これまでの経験をそのまま生かす再就職先が見つからない人はどうすればいいでしょうか。過去には、小売り・飲食・宿泊・サービスなど、人員が必要な労働集約型の業界が受け皿の一つになっていましたが、コロナ禍ではそのニーズが減りました。コロナ禍が落ち着けば、ある程度の需要は戻るでしょうが、どの業界でもDXが進む中、以前ほどの人員は必要とされなくなる可能性もあります。

一方、ニーズが高まっている分野もあります。以前の記事「猛烈営業マンはもう限界 科学的に捉え、創造型仕事に」でも触れた「インサイドセールス」「カスタマーサクセス」などです。

「インサイドセールス」とは、見込み客に対して電話、電子メール、ダイレクトメール(DM)、チャットなどでコミュニケーションを取り、ニーズを探りつつ関係を構築する営業職のことです。「カスタマーサクセス」は、契約した顧客が商品・サービスをより効果的に活用して目的を達成できるように支援する仕事です。

サブスクリプション型やSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型のビジネスを手がけるベンチャー企業では、これらのニーズが逼迫(ひっぱく)。若手層の採用に苦戦し、採用対象年齢を広げる動きが見られます。

「若手が採用できないからミドルやシニア」という考えだけでなく、ミドル・シニア層が培ってきたコミュニケーション力、顧客ニーズをつかむ力、顧客との関係構築力に期待を寄せる企業も見られます。

こうした新しい職種への転換を支援する企業も出てきました。

例えば、シェアエックスという会社ではインサイドセールス、カスタマーサクセスなど、オンライン上で行う「リモートセールス」のスキル習得・就業を支援しています。未経験者はこれらの仕事に就き、報酬を受け取りながら、実務経験を通じてスキルを習得できる仕組みです。

「いずれは早期退職が現実的。だが、これまでの経験・スキルを生かせる仕事はないのでは」と不安を抱いている皆さんは、今後ニーズが高まる仕事に目を向け、それに必要なスキルを学び始めてはいかがでしょうか。今はオンラインセミナーも充実しているので、ぜひ新たな可能性を探ってみてください。

森本千賀子

morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「マンガでわかる 成功する転職」(池田書店)、「トップコンサルタントが教える 無敵の転職」(新星出版社)ほか、著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年10月22日 掲載]

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