
読者の方々の多くは「外資系企業は日系企業より給与が高い」というイメージを持っているのではないでしょうか。そのイメージはおおむね正しいです。英語と年収の関係の大きな要素を占める「外資系の年収」について、人材紹介会社のジェイエイシーリクルートメント(JAC)の黒沢敏浩プリンシパルアナリストが説明します。
転職時の年収と英語力が相関する背景には、英語力のレベルが大きく関係する「外資系」ならではの要素があります。外資系企業といっても、海外の方針や文化が浸透している外資色の濃い企業から、日本に長年定着している日本的な外資系企業までさまざまですが、ここでは一般的な視点でご説明します。
日系企業の高給ポジション、内部昇格が中心
企業によって異なりますが、JACの実績をもとに比較した外資系の中途採用時の平均年収は日系企業より約100万円高いことが分かります。これはあくまで平均値で、個別のケースで大きく分かれます。

外資系の年収が高い理由は4つ挙げられますが、今回は以下の2つについて説明します。
- 外資系は高給なポジションを外部から採用するケースが多い
- 採用の際、日系より外資系の方が高いポジションに就きやすい
日系企業は給与の高い上級管理職などのポジションは内部昇進が中心のため、社外に求人が出にくいです。一方、外資系企業の高い給与のポジションは比較的社外に求人を出すことが多くなります。
日系企業はポジションに空きが出た場合、基本的に社員を上のポジションに異動させ、それで不都合がある場合は別部署から横や斜めの玉突き異動を実施してポジションを埋めます。これに対し、外資系企業は該当するポジションの人材を社内外から探します。特に、短期の視点で考えた場合、即戦力としてベストの人材は同業他社で同じポジションを務めている人材であることが多く、結果的に社外から採用するケースが多くなります。最近のはやりの用語でいえば、「ジョブ型」の採用です。
さらに、多くの外資系企業は本国からの駐在赴任者(エクスパット)が日本法人のトップに就任しています。このトップの人材は本国からの派遣者であるため、数年で本国へ帰任するケースや、別の国へ赴任していくことも多いです。その際、後任として本国から来る新トップは新しい自分のチームを一から編成することも多いため、幹部候補などの高給ポジションがよく外部に求人として出てくることになります。当然、そのポジションに転職できる機会が増えるというわけです。
また、外資系企業では本国からの赴任者だけでなく、日本人のトップも同業他社へ転職することがよくあります。その際、属人的なやり方が互いに分かっている幹部たちも追随して転職することが多くあります。それにより、このケースでも高給な幹部ポジションの空席が外部に出てくることになり、そのポジションに転職できる機会が増えるのです。
外資系、企業横断の玉突き人事が多く
加えて、日本のマーケットが大きいとはいえ、外資系企業にとってはあくまで日本は海外ローカル拠点の一つです。日本の拠点がアジア地域本社の機能を持っていたり、本国に影響を与える機能があったりするケースもありますが、開発や企画などは海外の本社で行うため、基本的に本社勤務に比べて社内でのキャリアパスは限定されます。
このため、たとえ社内登用に熱心な方針の外資系企業でも入社後は選択肢に限りがあるため、自分が社内応募するのにちょうど良い昇進ポジションがあるとは限らず、結果的に他社へ転職を選ぶことが多くなり、高給ポジションの空きが多くなるのです。単純化して言えば、日本企業が社内で職種横断の玉突き人事をする代わりに、外資系では企業横断の玉突き人事が結果的になされるわけです。
海外の本国では圧倒的な採用ブランド力のある外資系企業でも、日本では無名ということがよくあります。これは「対日進出時は無名」というケースもあれば、あまり認知度を高める必要がないBtoB(法人向け)企業のように「進出から数十年たっても無名」ということもあります。
日本で転職希望者に対する知名度・人気がないため、逆に応募する候補者の立場からすれば、入社選考の競争倍率が相対的に低くなります。つまり、同じ入社難易度で、より高給なポジションに転職することが可能になり、いわゆる「掘り出し物」の良求人ということになります。余談になりますが、人材紹介会社が転職希望者の方々に外資系の求人を紹介するケースが多いのはこれが理由です。
英語と仕事の両立がカギ
外資系企業が日本で人材を採用する際、「良い人材がいない」と苦労するのは日本人のレベルが低いからではなく、「英語と仕事の両方が同時にできる人を安いコストで採用できない」という理由です。つまり、通常の日系企業が募集するケースであれば、大勢の「仕事ができる人」の中を勝ち抜かなければ採用されないのに対し、英語が必要な外資系の募集であれば、「英語と仕事が両方できる人」という狭い母集団の中で勝ち抜けばいいため、相対的に外資系は日系より内定を得やすいのです。また、希少なスキルを持ち、英語力もある人材であれば、高い給与を払ってでも確保するしかないということになり、給与も相対的に高くなるのです。
ここまで、なぜ外資系企業の給与が日系企業より高いのかに関する大枠の説明になります。次回は日系企業と同じポジションでも外資系の方が高年収になる理由と、給与支給の仕組みの違いなどについて説明します。
黒沢敏浩
ハイクラス・管理職の転職に強い人材紹介会社のジェイエイシーリクルートメント(JAC)でマーケット研究などを担当し、ホワイトカラー転職市場や給与の分析などで約20年の経験を持つ。人材サービス産業協議会の「外部労働市場における賃金相場情報提供に関する研究会」委員や日本人材マネジメント協会執行役員「人事(HRM)の投資対効果(ROI)」担当も務める。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。国家資格のキャリアコンサルタント。
[NIKKEI STYLE キャリア 2021年11月10日 掲載]