在宅勤務1日3時間から NTTコム、仕事ぶりデータ化

ニューワーカーの夜明け

NTTコミュニケーションズの大石さんは自宅から顧客企業に英語で自社製品を売り込む
NTTコミュニケーションズの大石さんは自宅から顧客企業に英語で自社製品を売り込む

「新しいデータセンターを活用しませんか」。NTTコミュニケーションズの大石優子さん(40)は自宅から顧客企業に英語で自社製品を売り込む。法人営業の担当課長を務め、外資系企業の日本でのIT(情報技術)基盤整備の窓口として、ネットワークやセキュリティー構築を提案する。部下の仕事の進捗管理や悩み相談にも乗る。

大石さんは2021年4月からフルタイムのテレワークで働く。勤務日の9割が在宅だ。平日は午前9時までに子どもを保育園に送ってから始業し、午後5時半には終業する。仕事の合間に夕食の準備など家事をこなし、通院や保育園の行事に参加することもある。「テレワークでなければ営業職や管理職を諦めていた」と振り返る。

NTTコムは02年にテレワークを取り入れた先進企業だ。現在は約1万8000人いるグループ従業員のうち、8割がテレワークを実施する。コロナ禍で大きく変容した働き方への対応を急ぐ。

20年10月に「コアタイムなしスーパーフレックス勤務」を導入。社員に求める成果や月の労働時間は変わらないが、1日の勤務時間を午前7時~午後10時の間に最低3時間働けば良いようにした。従来は午前10時~午後3時15分の間は必ず勤務しなければいけなかったが、勤務実態と合わないとの社員の要望から切り替えた。

柔軟な勤務体系は働き手の自由度が増す一方、会社側は働き方の実態が見えず業務の成果を担保できない可能性がある。そこでチーム単位で残業時間や休暇取得数、業績などを社内のイントラネットで公開した。働き方と成果をデータとして見える化することで、従業員が自発的に業務効率を高めることを目指す。

その結果、始業時刻が早まったため平均勤務時間が15分増えたが、片道平均1時間の通勤が無くなり、従業員が自由に使えるトータルの時間が増えた。積み重ねたキャリアが子育て期間中に寸断されることを防ぎ、コロナ前は約140人いた時短勤務者は3割減った。社内調査でも62%の社員が「キャリア形成が可能になった」と答えた。

「生産性高く働ける」の回答も54%にのぼり、コロナ収束後もテレワークを基本とする。NTTはグループ全体で22年度以降に転勤・単身赴任制度を廃止するなど働き方をさらに進化させる。

国内でのコロナの感染拡大から約2年、テレワークはめずらしくなくなった。21年8月時点のパーソル総合研究所の調査では、従業員1万人以上の企業でテレワーク実施率は45.5%と20年3月から23.5ポイント上昇した。

課題だったコミュニケーション不足に対しても解を見いだしつつある。社員に対して「在宅を強く推奨」してきたヤフーは緊急事態宣言が解除された21年10月、「必要に応じて出社してもよい」と指針を切り替えた。

東京本社の一部フロアを改装し、一人で作業に集中できるスペースや、チームでの議論や後輩の指導に適したスペースなどで構成する「実験オフィス」を新設した。21年10月に全国でサテライトオフィスを導入し、成果を上げやすい職場環境の整備を進める。

経営支援本部の加茂隆さん(48)は完全在宅勤務から週1~2日の出社に切り替えた。自宅では資料作成などの作業に集中し、会社では同僚との対話やアイデア会議にあてる。「直接対面しなければ、相手の熱量や表情などを感じ取れない」と話し、部下の仕事の進捗管理が円滑になった。

テレワークで増えた自由時間を社員の経験やスキルの向上に充てる動きも出てきた。サッポロビールは21年1月、社員の副業を解禁した。これまでは本業がおろそかになるとの懸念から様子見だったが、時間に余裕ができ、キャリア形成に目を向ける社員が増えたため導入を決めた。現在は40人が実践する。

人事部の武藤大介さん(46)は人材育成支援のエール(東京・品川)で週に1回サポーターとして働く。エールは社外の人に仕事の相談をすることで自分の感情や業務が整理できるサービスを提供する。武藤さんは1人30分間、聞き役となり必要に応じて助言する。

サッポロは社員の成長を促すため、上司と約30分の個人面談「1on1(ワン・オン・ワン)ミーティング」を月に1回実施している。武藤さんの本業は人事制度の設計であり、副業で得た経験を社内制度の改善に生かしている。自らキャリアコンサルタントの資格取得を目指し始めるなど副業によるキャリア形成と社内に還元するサイクルが回り始めている。

労働時間の管理が壁に

働き方の多様化は日本の硬直的な労働時間管理との齟齬も生じさせている。1947年施行の労働基準法は工場労働がモデルで、働いた時間に応じて賃金が決まる「時間給」が原則だ。企業は働き手の実労働時間を把握する義務があるが、在宅勤務や副業者の労務管理は難しい。政府はテレワークや副業の指針を改定。在宅時は働き手の自己申告による労働時間管理も認めるなどしたが、時間給の大枠は変わらない。

そこであらかじめ労使で定めた「みなし労働時間」に基づき賃金を決める裁量労働制の拡大を求める声があがっている。現在は一部専門職などで認められているが、職種を問わず在宅勤務で利用できれば、労働時間把握の負担が軽減される。

裁量労働の拡大に伴う長時間労働の懸念もあるが、厚労省が2021年6月発表した調査では、裁量労働とそうでない人の労働時間の差は1日平均21分だった。成果が時間に比例する時間給は現代の大半の知識労働になじまない。新たな働き方に対応した時間管理の仕組みが求められている。

(京塚環、雇用エディター 松井基一)

[日経電子版 2022年01月02日 掲載]

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