
若年層で転職の希望者が増えている。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年以降に増加傾向が強まり、25~34歳の5人に1人が転職の希望者になった。産業構造の変化に加えコロナ禍で働き方の見直しが加速し、キャリアを考え直す人が増えた。経済活動の再開にあわせて、実際に転職に踏み切る人も増えるとの見方が出ている。
総務省の労働力調査によると、25~34歳の転職希望者は21年7~9月で237万人だった。就業者全体に占める比率は21.5%と、ともに他の年齢階層と比べて最も高かった。13~19年の転職希望者の比率は17~18%程度だった。コロナ禍後に増えている。
雇用の形態別にみると転職の意向が強く出ているのは正社員だ。
労働政策研究・研修機構の高橋康二主任研究員によると、コロナ禍で正社員の転職希望率が上がった一方、非正規社員の希望率は低下傾向にある。同機構の調査を分析すると「年齢が若い正社員ほど転職希望が強まっている」傾向があり、「働く時間が減り、もっとスキルを付けたいと考える人が増えた」という。
リクルートの藤井薫HR統括編集長はテレワークの普及や残業の減少で働く時間と場所の自由度が増して「キャリアを見直した人が非常に多い」と指摘。時間や場所、業務内容などを選択し、自身が描く人生を実現できるかを重視して会社を選ぶ傾向があるとみる。
同社がコロナ感染の拡大後に実施した調査では、若年層ほど育休の取りやすさやプライベート時間の確保を重視する傾向があった。一方で長期にわたる雇用保障を求める傾向は若年層ほど弱かった。藤井氏は「働き方を決める主権が従来の企業側から働く個人側に移行している」と労働市場の変化を読み取る。
離職の希望者が増えるなか、実際の転職者の人数自体は増えていない。だがコロナ禍後の経済活動の正常化が本格的に進めば、転職がより活発になる可能性がある。
第一生命経済研究所の主任エコノミストの星野卓也氏は経済正常化時の転職者数はコロナ禍前の19年を5%程度上回り、年間370万人規模になると試算する。
星野氏は他の産業や別の企業へ労働者がシフトする労働移動について、人手不足などの現状も踏まえると「底流ではじわじわと増加する圧力がかかっていく」と話す。年功序列型の賃金制度をはじめ「労働移動のハードルになっている制度や慣習を取り除くことが成長産業への人の移動を促し、日本の成長力底上げにつながる」と指摘する。
[日経電子版 2021年12月18日 掲載]