次世代リーダーの転職学

さらば、"昭和型オジサン企業" 30歳からの越境転職

ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行

年配社員を優先して、DXを遅らせている企業は珍しくない(写真はイメージ)=PIXTA
年配社員を優先して、DXを遅らせている企業は珍しくない(写真はイメージ)=PIXTA

「勤務先企業は有名企業だが、未来がない。想像以上に閉塞した仕事環境から脱出したい」。名だたる大企業に就職したにもかかわらず、職場で感じる違和感と将来への不安に耐え切れず転職を考える20代後半から30代前半が増えています。度重なるリストラや早期退職、M&A(合併・買収)や事業撤退など、時代に合わせた適応戦略の壁に突き当たった企業から、今後の時代を支える新たな主力産業へ、異業種への転職に踏み切る越境転職者たちに迫りました。

「この職場に居続けると、魂を削られる」という恐怖

建設関連の資材を扱う専門商社に新卒で入社し、勤続15年目を迎えるAさん(36歳)。同世代の会社員と比べて、年収や福利厚生などの条件に恵まれていることは自覚しながらも、将来に対しての不安が日増しに大きくなる実態を打ち明けてくれました。

「会社ではいまだにファクスでの受発注が当たり前で、会社から貸与される携帯電話はガラケーです。業務の効率化のためにクラウドサービスを使いたいと申し出ても、50代以上の社員や60代以上の幹部がどうせ使いこなせないからという理由で認められることはありません」

「もちろん会議に出たら、資料は紙の山です。こんな状況なので、中途採用で若手の営業社員を採用しても、高齢者集団の非効率な仕事ぶりに驚いて、『「ここはヤバイ』と察知してあっという間に転職してしまいます。結局、さらに高齢化が固定化するという悪循環を繰り返しています」

「建設需要が大きく、業績自体は安定しているのですが、大学時代の同期と会って今どきの仕事のやり方を聞いたりすると、どんどん時代に取り残されていくんじゃないかと恐怖を感じます」

社内が高齢化すると、仕事環境やビジネスツールの整備なども旧態依然の状況が温存されがちです。テクノロジーを活用した効率的な働き方と乖(かい)離していく現象は、業界を問わず根強く存在しているようです。社内の年齢構成が高齢化していくことで、別の問題も生まれます。

食品加工メーカー勤務のBさん(29歳)は、こんな悩みを吐露してくれました。

「45歳以上の世代が詰まっているので、昇進できる見込みがない。40歳近くなっても、部下なしの係長という先輩がたくさんいます。自分の10年後を見ているようでとても息苦しい。数少ないながらも毎年、新卒を採用しているのですが、定着しない。30歳近いのに、部署では一番下の若手です」

職場の年齢構成、企業業績の現在・過去・未来、評価制度の透明性などによっては、Bさんのように「このまま頑張っても報われる見込みが立たない」という閉塞感にさいなまれることもあります。

独自の創意工夫が必要とされない仕事、型通りのやり方しか認められないミッションでは、「自分が任されているのは、誰がやっても同じ仕事ではないのか?」という疑問が生まれ、モチベーションが削られてしまうという人が生まれやすくなります。

歴史・知名度があり、規模が大きい企業でも、こうしたことは珍しくありません。、そもそも優良企業だと思って入社したはずなのに、30歳前後になるとメッキがはがれて、閉塞感を感じる従業員が増える会社には、いくつかの共通点があります。

若手社員が閉塞感を感じる企業 5つの特徴

1)集団としての同質性が高い

プロパー社員が多く、学歴や考え方、価値観、行動パターンの同質性が高い。体育会系的な因子が強い。男性中心で保守的な傾向がある。

2)古い価値観にこだわり、新しい価値観を拒絶しがち

伝統や歴史が価値観の根底にあるため、従来の考え方や価値観を変えにくい。行動変容を迫られるような新しい習慣や概念を遠ざける傾向がある。

3)過去の成功体験に固執し、既得権を手放さない

「これまでそうやって成功してきた」「過去失敗したことには手を出さない」――。既得権にしがみつき、新陳代謝を好まない。

4)階層序列の意識が強く、上に弱く下に強い

年齢や役職、学歴など、スペックをもとにした関係性の序列に敏感。基本的に強い者に弱く、弱い者に強い。

5)よそ者や新参者を認めず、排他的な態度をとる

「同じ釜の飯」の仲間を重視する反動で、外部の人間や新参者に厳しく、受け入れるまでには時間を要する。

高度成長期には適していた組織のあり方、時代的に許容されてきた価値観はもはや過去の遺物です。いつの間にか時代とずれが生まれてしまっているのに、手つかずで修正されないまま現在に至ってしまったこれらの企業は、あえて言えば“昭和型オジサン企業”と呼べるかもしれません。

いくら会社の知名度が高くても、歴史や認知度がある事業や商品でも、そこで働く人々の心理的な充足感が担保されなければ、今後の成長に期待できなくなるのは当然の帰結です。

自分が身動きできなくなる前に脱出したい

「35歳を超えると、住宅ローンや教育の問題など、自分以外の家族の環境問題も増え始めるようで、40歳に近づいてしまうと身動きができなくなる先輩がたくさんいます。今年30歳になる自分は、脱出するとしたら、今がラストチャンスかもしれないと考えています」(Bさん)。

まさにこの言葉の通り、“昭和型オジサン企業”から自分の意思で脱出していく若手は、20代後半から30代前半に多く分布しています。

このパターンで転職する人の特徴は、業種や職種などのこれまでの経験を捨てて、異業種や異職種など、越境転職者が多いことにあります。働く価値観や組織文化は、企業固有のものではありますが、業界特性や職種特性が影響することも多いので、閉塞感を感じる因子を遠ざけたい場合は、業界を変えたり仕事そのものを変えたりする人が増えるのは、当然の結果なのかもしれません。

ちなみにリクルートキャリアの「転職決定者分析」(2021年1月)によると、異業種に転職する人は、全転職者の約7割を占めるということです。転職市場全体としてみても、異業種への転職は決して珍しいことではなくなりつつあるというのが現実です。

たとえ30歳以上の転職であっても、異業種への転職は必ずしも難度の高いものではありません。「ポータブルスキル」といわれる、業界を超えて通用するスキルや経験があれば、異業種でも十分に能力をアピールすることが可能です。

ただし、30代になると、マネジメント経験を求められるケースは増えてきます。人材の育成や任された組織で生み出した業績など、マネジャーとしての具体的な実績や経験を整理してアピールできると、有効な武器になりえます。

異業種の転職で、比較的人気が高い業界は、やはり成長産業として注目されることが多いIT(情報技術)・ウェブ関連の業界です。特に成長が著しいBtoB(企業対企業)のクラウドサービスをはじめ、こういった分野では求人の総量が激増しています。

高齢化先進国として、IT活用と連動して今後さらに成長が予測される医療・福祉業界も注目度が高まっています。未経験から始められる仕事も多くあり、厚生労働省「雇用動向調査(2020年上半期)」によれば、新たな入職者が約76万人と、国内最多の業界となっています。

職種の観点で人気が集まっているのは、次の3つです。

1)マーケティング

売り上げや収益に直結するマーケティング職は、データ分析力や企画立案力が強みの人にとっては需要が多く、付加価値もますます高まっている職種です。経営企画的な職務のほかにも、デジタル領域での科学的な集客・プロモーションなど、多様で裾野も幅広い職域ですが、異業種への転職がしやすい汎用的な職種の1つです。

2)法人向け企画営業

コミュニケーション力、交渉力、顧客管理力、社内調整力など、営業で身に付けたスキルは最も多くの業界で必要とされるスキルです。有形物の営業をはじめ、無形の商品サービス、売り切り型の商品、サブスクリプションモデルの販売など、商品・サービスは多様ですが、自らの企画提案力をうまくPRできると、異業種への転職の可能性が大きい職種といえるでしょう。

3)ITエンジニア

デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、ITエンジニアはまだまだ不足しています。これから技術を学んでいく覚悟があり、学びに手間をかけられるのであれば、無限の成長可能性が期待できる仕事と言っても過言ではありません。システム開発やソフトウェアの保守・運用が主業務である従来型のIT企業だけではなく、建築、教育、医療、金融、物流など、あらゆる業種でエンジニアが必要とされています。

今すぐ転職はできないと考えている人に伝えておきたいことは、「転職する」ということと、「転職活動をする」ということは、全くの別物だということです。転職活動をしても、内定がもらえるかどうかはわかりません。もし内定が出たとしても、受けるかどうかは自分に決定権のあることです。少なくとも、中途採用市場において、自分にどんな選択肢や可能性があるのか、実際にどんな企業があり、風土や価値観が合う企業があるのかどうかは、活動してみなければわかりません。

「いつかは転職することになるだろう」と考えているのであれば、現実に転職するかどうかは横に置いて、早めに転職活動だけでも始めておくことをお勧めします。ぜひ、今回お伝えした情報を参考に、今後のキャリアづくりをじっくり検討してみてほしいと思います。

黒田真行
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年10月15日 掲載]

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