
【ワシントン=長沼亜紀】労働市場の逼迫度が増している米国で、人手不足にあえぐ企業が人材採用戦術を変えているーー。米調査会社コンファレンス・ボードと労働市場分析会社エムシ・バーニング・グラスが8日公表したリポートでこんな内容を分析している。
オンライン求人広告データを分析したリポート「労働力不足との闘い方」によると、応募者をひき付けるため、入社・契約ボーナス(賞与)を提供する職の広告が新型コロナウイルス感染が本格化する前の2020年3月と比べ21年10月には2倍以上増えた。また賃金を明示する広告の割合が、コロナ危機前の8%から10月には13%以上に増え、給与情報の透明性を高める動きも強まっている。特にブルーカラーや低賃金の職種の広告でこれらの傾向が強いという。

幅広い人材から採用につなげようと、応募要件の引き下げも起きている。販売、事務支援、ブルーカラーなどもともと大卒資格を必要としない職種で、要件に大卒資格を求める広告がコロナ危機前の18%から10月は15%に低下した。一方、教育・経験の少ない労働者を採用するために「職場内訓練(OJT=オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」の提供を掲げる広告も増加傾向にある。
分析には、エムシ・バーニング・グラスが、求人掲示板、新聞、企業サイトなど4万近いオンライン・サイトに掲載された求人票を毎日集計して作成したデータベースを利用した。
リポートは、経済再開に伴う労働需要の急増と、労働者側の賃金・勤務地などに関する期待の変化を受け、企業は歴史的な需給のミスマッチに直面していると指摘。その上で「『理想的な新入社員』の定義を見直す機会だ」として、訓練の提供や柔軟な働き方の容認など、変化に適応する必要があると強調した。
[日経電子版 2021年12月09日 掲載]