女性幹部、他流試合で経験値上げ 「副業」は社外取締役

Watch シニアライター 木ノ内敏久

三菱ケミカルHDの市川氏は経営のスピード感を高めたいと話す
三菱ケミカルHDの市川氏は経営のスピード感を高めたいと話す

上場企業の女性幹部が業務の傍ら、他社の社外取締役を掛け持ちする事例が増えている。受け入れ先の企業は女性幹部の知見を生かすことができ、本人も取締役会での議論を通じて企業経営を学べる利点がある。女性の経営中枢部への登用が徐々に進むが、自社の取締役会メンバーに手が届くのは一握りにとどまる。外での経営経験はその閉塞感を打ち破るカギになる可能性がある。

取締役会の議論、刺激に

パナソニックの小川理子参与がマツダの社外取締役に就任したのは2019年6月のこと。同社の丸本明社長がパナソニックの津賀一宏社長(現会長)に直接申し入れ、パナソニックは快く送り出した。「元検事など様々なキャリアの人がマツダの社外取締役になっており、取締役会の議論は刺激になる」と小川氏は話す。

自動車業界では「CASE」と呼ばれる百年に一度の変革が訪れている。小川氏は「自分の専門を相手の土俵でどう発揮して改革にどう貢献するかが問われる。上場企業の取締役になった責任の重みをひしひしと感じる」と話す。

JT常勤監査役の永田亮子氏は6月、ホンダに社外取締役として招かれた。JTに1987年に入社し医薬、外食、飲料など様々なビジネスに携わったほか、CSR(企業の社会的責任)部門では人権などに取り組んだ。「サステナビリティー(持続可能性)や女性の視点から、思ったことを取締役会で申し上げていきたい」と意気込む。

「ホンダの戦略にワクワク」

ホンダはロケットビジネスへの参入、脱ガソリン車など中長期を見据えた成長戦略を矢継ぎ早に打ち出している。21年夏には経営のスピードアップを狙い、社外取締役が経営陣を監督する欧米流の機関設計である指名委員会等設置会社にも移行し、大変革時代を乗り切ろうとしている。

「ホンダの戦略にはワクワクする。執行部が思う存分やれるよう社外取締役として支えていきたい」。永田氏は自分の役割を見据える。

外での役員経験は自社の仕事にどう役立っているのか。

中堅化学の太陽ホールディングスで社外取締役を務めるNECの青山朝子氏は「取締役会でどんなことを議論しなければならないのかが身につく」と話す。NECのグローバル部門のCFO(チーフ・ファイナンシャル・オフィサー)として海外子会社の役員をいくつか兼ねており「現地の役員のKPI(業績評価指標)や報酬設定などで太陽ホールディングスでの経験が役立っている」(青山氏)。

三菱ケミカルホールディングス(HD)執行役員の市川奈緒子氏は大手アパレルのTSIホールディングスで社外取締役を務める。単一業種で意思決定が速いアパレル業界のスピード経営を学んだ。「三菱ケミカルは議論に時間がかかる。成長のための適切なリスクマネジメントを後輩たちに教えていきたい」(市川氏)。

永田氏はJTでは常勤監査役だ。監査役は経営陣の業務執行の監視が主たる役目で、取締役とは求められる役割や権限が違う。しかし「外で取締役としての経験を積むことで監査のクオリティー(品質)が上がる」とみる。

女性参画進まず

他社に招へいされる大企業の女性幹部は東証1部クラスで十数人はいるとみられる。企業統治助言会社プロネッド(東京・港)の酒井功社長は「女性本人は経営経験値を高められる。迎える会社も優秀な女性人材の知見を取り込めて一石二鳥だ」と指摘する。実際、同社には上場企業の女性幹部の紹介を求める依頼がここ1、2年急激に増えているという。

ダイバーシティ(多様性)の観点で女性登用は関心を呼ぶテーマだが、こと取締役会レベルで見ると女性参画はそれほど進んでいない。

プロネッドが7月1日時点で東証1部上場の約2200社を調べたところ、女性の社外取締役は前年同期に比べ3割増えたが、社内取締役は2割増にとどまった。1986年の男女雇用機会均等法施行から35年。上級幹部である執行役員クラスの女性は珍しくなくなってきたが、その上の取締役のポストに手がかかる女性はまだ少ない。

「狭き門」の取締役会

理由の一つは取締役会が「狭き門」になっていることだ。ガバナンス改革で社外取締役の起用が叫ばれ「公認会計士や弁護士など士業や大学教授の女性の登用は増えたが、生え抜きの女性にまで経営者の関心が向かなかった」と日興リサーチセンターの寺山恵氏はみる。

東証1部上場企業では社外取締役が取締役会の3分の1を占める企業が増え、社内取締役に割ける席が減ってきている。取締役会の人員は平均9人弱。社内取締役の枠は5、6人しかない。「社内からは社長、CFOの他には各部門の代表が入るのが普通で、女性登用の門はさらに狭まる」(プロネッドの酒井社長)。だからこそ会社外での「他流試合」が経営者としての経験値を上げる機会になる。

三井住友フィナンシャルグループ(FG)の工藤禎子氏も「外」で経営の経験値を高めた一人だ。3年前にトヨタ自動車の社外取締役に招かれ、21年6月の三井住友FGの株主総会で晴れてメガバンク初の生え抜き女性取締役に選任された。1987年に当時の住友銀行に入社し、ファイナンス営業や国際部門などを渡り歩いてきた。

三井住友FGは「女性総合職のフロントランナーである工藤氏の起用は取締役会メンバーに多様性を持たせる観点からも有意義だ」と起用の理由を説明する。工藤氏も「取締役として多様な目をもって貢献していきたい」と話す。工藤氏のような事例が女性幹部の人材育成策の一つのモデルケースになりそうだ。

部長級相手にメンター

外資系人材コンサルティング大手ハイドリック・アンド・ストラグルズ(東京・港)の渡辺紀子パートナーは「他流試合で得た知見は自社で役に立つ時が必ずくる。それをバネにしてさらに『上』を目指して欲しい」と女性幹部にエールを送る。

また、NECの青山氏は太陽ホールディングスの経理部長(女性)のメンターとして四半期に一度、悩みを聞いたり将来のキャリア形成の相談を受けたりしている。「現役のビジネスウーマンが他社の取締役会に入る利点の一つには、女性の活用が進んでいない企業で女性たちのメンターや身近なロールモデルになれることもある」と青山氏。

ただ、経営幹部の兼業・副業を認めない大手企業は少なくない。1部上場の消費財関連企業に務めるある女性幹部は「他社から『社外取締役に』と声をかけられたが、会社が認めてくれなかった」と嘆く。送り出す側の意識改革も今後は必要になってくる。

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[日経電子版 2021年11月18日 掲載]

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