セカンドキャリア、壁は3つのmust まず収入の目安を

sfidaM代表 小沢松彦氏

「must」に固執し過ぎると、キャリア形成の機会を狭めてしまう(写真はイメージ=PIXTA)
「must」に固執し過ぎると、キャリア形成の機会を狭めてしまう(写真はイメージ=PIXTA)

誰であろうと、年齢とともにキャリア形成を考える時がやってきます。その際にどうしても気になるのは収入のことでしょう。中小企業のバリュー開発・社員教育などを手掛けるsfidaM(スフィーダム、千葉県浦安市)代表の小沢松彦氏が「must=私はこうでなければならない」という観点をベースにアドバイスします。

キャリア形成、3つの「must」に縛られる

私は博報堂を退社した後、セカンドキャリア支援組織「知命塾」の立ち上げに参加しました。セカンドキャリアに挑戦しようとする数多くのビジネスマンと出会い、相談を受け、悩みを聞いてきました。そこで見えてきたのは多くの方が3つのmustに縛られているということです。 そして、この3つのmustに固執し過ぎる余りに、自ら機会を狭めていました。希望する条件が全て整うに越したことはありませんが、なかなかそうはいかないのが現実です。

3つのmustのうち、第1はやはりお金のmust。年収は○万円以上必要だというものです。第2は場所のmust。自宅から△分以内で通える所とか、◇駅周辺とかです。第3のmustは見栄(みえ)や世間体です。これが意外に強固な場合が少なくありません。

お金、場所、見栄。この3つのmustとどう折り合いを付けていくかが大事なポイントです。今回は第1のmust。お金のmustを考えていきます。

「人生100年時代」。人生は長くなっていますし、日々の生活費だけでなく、将来の医療費への備えなどを考えれば、収入を気にするのはもちろん大事です。しかし、セカンドキャリアを考える際、「今まで○万円もらっていたのだから」と発想してしまうことは避けた方がよいでしょう。

サラリーマンの場合、時を重ねて収入が上がっていくにつれ、知らない間に生活も肥大化しているものです。若い頃はもっとシンプルに生活していたはずです。セカンドキャリアを考える際、いったん思い切って今の生活を見直してみましょう。

ノートでもエクセル表でも構いません。住宅費、光熱費、交際費、趣味・娯楽費、医療費、通信費など大まかな必要経費を書き出します。項目を書き出したら(図表参照)、生活していくために必要な項目に優先順位を付けていきましょう。生きるために必要なことですから、衣食住や教育、医療などが中心になってきます。

趣味や娯楽は生活必需ではありませんから、優先順位外です。ゴルフなどのスポーツもいったん諦めてください。交通の便に恵まれた都会であれば、車も必要ないでしょう。一方、現代では通信費はある程度必要になりそうです。

セカンドキャリアの収入設定 現実的な縮小生活費がベース

優先順位が付いた項目に最低限必要な費用を割り振っていきます。住宅費は固定的かもしれません。食費はどこまで切り詰められるでしょうか。酒代は大きく削れそうです。通信費も最低料金に乗り換えましょう。さて、このようにして「最低必要な項目」に絞り、そこに「最低必要な金額」を割り振ることで、「本当にギリギリの生活費」が見えてきます。

次のステップはこの最低金額に少し潤いを与えることです。試算した最低金額では、恐らく今までの生活から落差があり過ぎて、一気に心が沈んでいまいそうです。そこで、ゴルフは諦めるけれど、市営のスポーツセンターに通うのはありにしよう。月2回の外食はありにしよう。心を豊かにしてくれる読書だけは続けよう。ただし、なるべく古本でなどと多少の遊びを作ってみるのです。この遊びの幅をどれくらい持たせるかは自由ですが、あまり大きすぎるとシミュレーションの意味がありません。

こうして算出した「現実性のある縮小生活費」をベースにして、セカンドキャリアでの収入を設定するのです。もちろん、これはシミュレーションですから、実際には試算金額より良い条件に出合えることもあるでしょう。その時は心に一気に余裕が生まれます。その際はシミュレーションと現実の収入の差を少しでも貯蓄に回す考えも生まれるかもしれませんね。

私自身、30年勤めた会社を辞めた際はサラリーマンとして比較的高い収入を得ていました。しかし、退社してから事業がある程度軌道に乗るまでは生活を大きく変えました。退社前の最後のゴルフコンペの後、キャディーバッグを閉じてから再び開けるまでに3年。ゴルフクラブのグリップやシューズのゴムの部分はすっかり溶けていました。ランチも東京都心では1000円ぐらいかかるのが当たり前でしたが、家内の弁当に切り替えました。

契約していたケーブテレビ(CATV)も解約。こうして、いったん身を縮めることで、自分の価値観も変わってきます。セカンドキャリアは今までの延長とは限りません。むしろ、今までは今まで。これからは新たに生活や人生をつくっていくのだと考えれば、いったんそれまでの自分をリセットしておくことは無駄にはなりません。

まずはお金のmustを見詰め直すことから始めてみてはいかがでしょうか。それも、できればセカンドキャリアに踏み出すことを決めてからではなく、時間のあるうちに前もってシミュレーションをしておく方がよいでしょう。何事もギリギリになって必要に迫られてからですと、視野が狭くなりますから。

小沢松彦
 1962年名古屋市生まれ。85年早稲田大学卒業後、博報堂入社。営業部長や広報部長などを歴任し、2014年に早期退職。セカンドキャリア支援の一般社団法人、社会人材学舎の起業に参加し、後に自身で主に中小企業のバリュー開発・社員教育を手掛ける会社「sfidaM(スフィーダム)」、企業戦略の伴走支援ユニット「Halumni(ハルムナイ)」を設立。現在は経済同友会と兼業。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年10月06日 掲載]

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