
中外製薬はデジタルトランスフォーメーション(DX)の導入を進め、業務変革を目指している。2021年に示した同社の成長戦略でもDXは重要な柱と位置づける。デジタル・IT統轄部門長の志済聡子執行役員に今後の戦略について聞いた。
――DX部門の人員数は増えたのでしょうか。
「デジタル・IT統轄部門の社員数は非開示だが、主にデジタルの基幹戦略をになう部署の社員数は(新設時と比べ)約2倍に増えた。過半数を中途採用者が占める。3桁は超えていない」
内製化でノウハウ流出防止
―――DX人材を内製化する理由は。
「1つは内部のノウハウ流出を防ぐためだ。DXはビジネス変革なので業務内容の理解が欠かせない。外部にデータ解析を依頼するにも、こちらにある程度知識がないとうまく依頼することが難しい。相手に業務内容を理解してもらえていないと思っていたような答えが出てこないこともある。一方で知財の問題もあり全ての情報を伝えることも難しい」
―――中途採用を続けているのでしょうか。
「引き続きデジタル人材の強化が必要と考えており、中途採用と育成に力を入れている。『構文解析エキスパート』もこれまでに何人か採用したが応募があればまた採用したい。AIを使ってやりたいことを吸い上げ、最適な人材を配置できる『AIコーディネーター』も探している」
キャリアパスを発信
―――人材獲得のため工夫している点は。
「広報活動に力を入れている。中外にきたら自分の力をどのように発揮できるかイメージできるよう、社員らがどこの部署でどのような業務をして活躍しているのか、キャリアパスを発信するように工夫している」

「例えばDX人材に親和性が高い『note』を活用して情報を発信している。社員の声や座談会も紹介し、ユーチューブも活用している」
―――人事制度も工夫しているのでしょうか。
「20年4月に新人事制度を導入し、ジョブ型の人事制度に変わった。業務内容によって報酬と待遇が変わる仕組みなので中途採用の人も働きやすくなったといえる。『適所適財』を推進している」
――社内での人材育成にも力を入れています。
「社内人材育成制度『中外デジタルアカデミー(CDA)』を21年から始めた。4、7、11月の年間3回実施する予定だ。これまでデジタルプロジェクトにあまり関わってこなかった人の強化を狙う。職種共通や職種別専門講座で構成されるOff-JT(職場外訓練)と実践的な職場内訓練(OJT)まで含めたプログラムを提供する。その後もOJTを通じ力を付ける仕組みにしている。年100人程度を育成中だ」
「『デジタル・イノベーション・ラボ(DIL)』では、全社員から『ビジネス×デジタル』の観点業務改善や新たな価値創造を実現させるアイデアを募集する。3回開催した。『取り組みを通じ、課題に対して自ら変革を起こしていく意欲が向上したか』との問いに約9割が『意欲が向上した』と回答した」
成長戦略の柱にDX
中外製薬は2021年2月に成長戦略「TOPI2030」を公表し、ヘルスケア領域でトップイノベーターになることを目標に掲げた。30年以降は毎年、自社製品を1つ以上上市する。
成長戦略のキードライバーの1つがデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。DXによる業務変革で生まれた資金は、製薬企業で最も重要な一丁目一番地となる創薬に投入する。特に初期の研究開発に集中させていく「REDシフト」を掲げている。
社外のDX人材は即戦力として中途採用に力を入れる。SNSを活用したり、社外向けイベントをしたりするなどDXに力を入れていることを積極的に発信している。
ただ、中外製薬はDXを積極的に進め、データサイエンティストを求めていること、同分野で興味深い取り組みを実施していることなどはあまり知られていないことに危機感を持つ。
「世のデータサイエンティストの方々のアンテナに引っかからない可能性があるので積極的な発信をしている」(志済氏)
国内製薬で時価総額トップの中外製薬がDXをうまく活用し、飛躍できるか同業他社も注視している。
(満武里奈)
[日経電子版 2021年11月15日 掲載]