運転手からエンジニアに、DXで人材移動

NTT・KDDIなど、未経験300人採用

アウトソーシングテクノロジーは資格を取得させたIT人材を派遣する
アウトソーシングテクノロジーは資格を取得させたIT人材を派遣する

デジタル技術による産業構造の転換を受け、労働市場に変化が起きている。トラック運転手や小売店の販売員など異業種からIT(情報技術)分野に人材が移り始めた。NTTとKDDIは協力してIT未経験者を再教育し、全体で約300人を採用する計画だ。成長産業に働き手をシフトするにはリスキリング(学び直し)の仕組みづくりが課題となる。

「運転手は給与は良いが時間を切り売りする仕事だった。収入の伸び代を考えて転職した」。中部地方に住む26歳の男性は5月から大手電力のシステム子会社で派遣エンジニアとして働く。現在はシステムの設計やサーバーの構築を担当。未経験の転職に「想像していたより100倍難しい仕事だ」と話し、先輩社員から指導を受けながら自己研さんを続ける。

男性は20歳からドライバーの仕事に従事し、食品や日用品を配送していた。収入の伸びが頭打ちとなり、転職を決意。プログラミング学校で2カ月プログラミング言語「Java」などを学び、3月に人材派遣のアウトソーシングテクノロジー(東京・千代田)に入社した。ネットワークエンジニアの登竜門とされる米シスコシステムズの認定資格「CCNA」を取得し、エンジニアとしてキャリアを歩み始めた。

アウトソーシングテクノロジーはIT未経験者にウェブ開発やネットワーク構築の手法などを教育して顧客企業へ送り出している。スーパーの従業員や幼稚園の教諭などの異業種から転職を目指す人が増え、4月から3000人規模で未経験者を採用している。

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の広がりで労働市場が変化している。日本総合研究所が2025年ごろの雇用者数を予測したところ、自動車の運転手は15年比で11万人減る見通し。販売店員が10万人減、ビル清掃員が9万人減と続く。一方でシステムコンサルタントは38万人増、ソフトウエア開発者は14万人増だった。

未経験者を積極採用する企業も出てきた。NTTとKDDIはIT業界に就職したい50代未満を対象に、マイクロソフトの「MSオフィススペシャリスト」など基礎的なITスキルを教えるプログラムを開いた。ホームページで参加者を募り、研修や資格試験などを実施。就職氷河期世代で、不本意なキャリアを歩んでいる人や新型コロナウイルス禍で失業した人の転身を支援する。

NTTとKDDI、他のIT企業で受講者のうち約300人をシステムエンジニアなどの職種で順次採用している。「基礎的なスキルでも需要は高い。経験不足を補うため、入社後の育成プランが重要だ」(NTT)

ソフトウエア品質管理のSHIFT(シフト)は21年8月期に581人の未経験者を採用した。入社後3週間は業務に必要な基礎知識を学び、最初は手順書に従ってソフトが正しく作動するか確認する業務を担う。社内検定試験に受かると、等級と給与が上昇する仕組みで、仕事の質と働きがいを両立させる。

IT人材は慢性的に不足しており、企業の採用意欲は高い。パーソルキャリア(東京・千代田)によると、7月のIT・通信技術職の中途採用求人倍率(求人数を転職希望者数で割った数値)は9.17倍と全体平均(2.15倍)を大幅に上回った。ただ即戦力を求める企業は根強く、エン・ジャパンでは未経験者を受け入れる案件は全体の3割弱にとどまる。

異業種への転身を増やすには課題も多い。日本総研の安井洋輔主任研究員は「日本は学び直しの教育が進んでいない」と指摘する。17年の経済協力開発機構(OECD)のリポートによると、日本の大学などで教育を受けている25~64歳の割合は2.4%と、英国(15.8%)や米国(14.3%)と比べて低い。

海外ではジョブディスクリプション(職務記述書)で業務に必要な学位が定められており、転職のために大学で再教育を受けることは珍しくない。日本は働きながら勤務時間外に独学で学ぶことが一般的で、都内の金融機関で働く男性は「収入のことを考えると仕事をやめて学び直すというのは勇気がいる」と話す。

政府の支援制度もミスマッチがある。厚生労働省の「専門実践教育訓練」制度は個人の学習費用を支援するが、対象講座の大半が医療や介護分野だ。10月時点で人工知能(AI)やデータサイエンスなど先端分野は全体の数%にとどまる。

リスキリング、世界で競う

海外では官民で学び直しを推進する。米バイデン政権は3月に公表した雇用計画で労働力開発に1000億ドル(約11兆円)を投じる方針を示した。失業者を再教育して再生可能エネルギーなど成長分野に雇用を移す。民間ではアマゾン・ドット・コムが倉庫で働く従業員などを対象に専門講座を開き、クラウドサービスのAWSのエンジニアなどへの転換を促す。

欧州では21年から「デジタル・ヨーロッパ・プログラム」が始まった。5億8000万ユーロ(約760億円)を投じて職業訓練を実施する。リクルートワークス研究所の石原直子氏は「欧州はデジタル化に伴う失業への危機感が強い」と話す。

岸田政権は衆院選で学び直しの充実を公約に掲げた。人材移動を円滑に促すには再教育とセットにした施策が不可欠だ。

(DXエディター 杜師康佑、野元翔平)

[日経電子版 2021年11月04日 掲載]

ピックアップ

注目企業

転職成功アンケートご協力のお願い
日経転職版を通じて転職が決まった方に、アンケートのご協力をお願いいたします。