多様性が競争力つくる 定年引き上げ2割が実施

スマートワーク経営調査

空調機器のメンテナンス技術の開発に取り組むダイキン工業の岩井雅志さん(右)
空調機器のメンテナンス技術の開発に取り組むダイキン工業の岩井雅志さん(右)

少子高齢化に歯止めがかからない日本。パーソル総合研究所と中央大学の共同調査によれば、2030年時点で国内の労働需要は労働供給を644万人上回る。企業の競争力を維持するには、多様な働き手の能力を生かす取り組みが不可欠だ。

人手不足解消の切り札の一つがシニア層だ。定年延長などでシニアの労働参加を増やせば163万人の労働力を上積みできる。外国人労働者の受け入れ(81万人)などを上回る。

21年4月の高年齢者雇用安定法の改正で、70歳まで従業員の就業機会を確保することが努力義務となった。日本企業の7~8割は現在60歳定年だが、人手確保の必要性と法規制への対応から、多くの企業が社員の現役期間の延長に動き出した。

21年のスマートワーク経営調査で、定年が61歳以上の企業の割合は19.7%。19年の調査時の比率の2倍以上になった。不動産運用のいちごなど3社は定年が70歳。ソフトの動作検査のSHIFTは19年に、定年を60歳から70歳に引き上げた。「年齢とパフォーマンスは無関係で、年齢だけで働く時期を制限するのは無意味と判断した」(同社)

総合ランキングの上位にもシニア活用で先行する企業が多く入った。

ダイキン工業は21年4月、65歳だった再雇用の年齢上限を70歳に引き上げた。従来も特殊な技術を持つエンジニアなどに限り65歳超の雇用を認めていたが、今後は働き手が希望する限り70歳まで働けるようにした。

大量採用のバブル期入社が50代後半にさしかかる同社。海外事業の成長も加速するなか、将来の技術者の不足に先手を打つ。再雇用の拡大に伴い60歳以上の従業員の比率は21年度の7%から、30年度には16%に上昇する見通しだ。

岩井雅志さん(65)は同社で約30年間、空調機器のメンテナンス技術の開発に携わってきた。20年には人工知能(AI)に詳しい20代の若手とタッグを組み、AIを活用した高精度の故障予知システムも開発した。「仕事のテーマは幅広く飽きることはない。若い世代との共同作業から新たな刺激もある」と話す。

再雇用者には上司と話し合って勤務日数や勤務時間を決める「個別設定型勤務」を導入するなど、体力や家族の事情に合わせた多様な働き方を認める。各部署でのシニアと若手の連携など、世代間融合にも力を入れる。

シニア活用の課題は賃金だ。働き手の現役期間が長くなれば採用抑制をしない限り総人件費は膨張する。すべてのシニアについて、現役時代と同じ処遇を維持するのは困難となる。調査でも61歳以上に定年を引き上げた企業の47%が、報酬は60歳までと比べて2~5割程度下がると答えた。

一方で極端に待遇が悪化すれば、モチベーションの低下は避けられない。三菱ケミカルホールディングスは22年4月、中核事業会社の三菱ケミカルの定年を60歳から65歳に引き上げる。これに先立ち、能力と経験に基づく「職能給」と成果などに基づく「職務給」で構成していた給与を、21年4月から職務給に一本化した。

成果や役割次第で60歳以降でも賃金が上がる。能力のあるシニアのやる気を引き出す狙いだ。将来的な定年の廃止も検討している。

SCSKは、再雇用する60歳以上のシニアの給与を、基本給と成果に応じて支給する「グレード別加算給」の2階建てにしている。加算給部分は最大500万円程度。基本給は現役時代より減るが、成果次第で現役時代と遜色ない支給水準になる。優秀なシニアの引き留めにつなげる。

日本では大多数の働き手が50代以降、キャリアも給与も下り坂に入る。増えるシニアを組織で活用しきれず、持てあます企業も少なくない。「生涯現役」時代が近づく中、シニアの持つ知見やスキルを引き出し、競争力につなげる戦略が求められている。

女性登用も賃金格差なお

シニアと並び、日本企業の人材戦略のカギを握るのが女性だ。多様化する社会に対応できる柔軟な発想を育み、成長力を確保するには、女性の管理職や経営層を育成することが重要だ。

2021年のスマートワーク経営調査では調査対象企業の執行役員に占める女性の比率は平均3.5%(20年は3.1%)、課長相当職(ライン)で8.5%(同8.4%)にとどまる。女性が1人以上、部長相当職以上(ライン)にいる企業の割合は59.5%(同56.6%)だった。

いずれの数値も確実に上昇しているが、海外との差は大きい。米英仏などの女性管理職比率は3~4割に達する。各国の社会進出の男女格差を測る世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数でも、日本は156カ国中120位(21年)に沈む。

女性登用の遅れと表裏一体の関係にあるのが男女の賃金格差だ。調査では女性の平均年収(45歳時点)は594.6万円で、男性より約247万円(29.4%)低い。女性は男性に比べ昇進スピードが遅く、給与水準が高い管理職の割合が低いことが影響している。

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背景には滅私奉公型の長時間労働が出世の条件となる日本の企業文化もある。女性でも家事や育児の負担が大きい社員は、労働時間の長さで評価されると不利だ。産休や育休でキャリアが中断されるため、会社が男性社員に比べて能力開発に消極的になる側面もある。この結果「女性は男性より能力が劣る」という偏見が増強される。

女性社員の状況を当事者として理解し、人事戦略や人材配置の決定に反映できる幹部を増やすことが、男女の待遇格差をなくす一里塚だ。

総合ランキングの上位企業はこの課題に率先して取り組んでいる。SOMPOホールディングスは20年から、グループの女性役員が将来の幹部候補の女性社員とオンラインで対話する「ラウンドテーブルミーティング」を始めた。

約90人の参加者から「自分に何が足りないか、何を努力すべきかを見つけられた」などの声が上がった。23年度末までにグループ全体の女性管理職比率を、20年度末の24%から30%以上に引き上げる目標の達成につなげる狙いがある。

KDDIは22年度にグループの中核を担う「経営基幹職」の女性を21年4月時点の175人から200人以上に増やす計画だ。経営基幹職には管理職だけでなく人事や渉外などの専門職も含まれ、女性のキャリア選択の幅を広げている。

経営幹部候補の育成研修でも参加者の20%以上を女性とし、コンサルタントによるコーチングなどを通じ、各人の希望や志向を重視したキャリア設計を支援する。

資生堂も21年1月時点で約35%の国内の女性管理職比率を将来的に50%に高める目標を掲げる。事業所内保育所の整備などに加え、出産後に職場復帰する女性社員の不安を軽減するセミナーなどを行っている。

欧州主要国はすでに企業に対して一定以上の女性役員比率を義務付ける「クオータ制(割当制)」を導入しており、ノルウェーなどには違反企業に対する罰則もある。欧州連合(EU)は21年3月、加盟国に男女の賃金格差を是正する法制整備を促す指令案も発表した。企業に格差の状況の開示や是正措置を求める内容で、女性の就業環境をさらに改善し、働く意欲を高める狙いだ。

日本も女性活躍推進法が一定規模以上の企業に、女性登用について数値目標を含む行動計画の策定を義務付ける。22年4月には対象となる事業者が拡大されるが、罰則はなく、対応は企業の自発性に委ねられている。

これ以上、諸外国に後れをとらないためには、女性登用に取り組む企業への助成制度や税制優遇なども検討課題だ。何よりも長時間労働の是正など、女性が評価されやすくなる働き方改革の継続が欠かせない。

(雇用エディター 松井基一)

[日経電子版 2021年11月04日 掲載]

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