スバル、働きがい改善へ1万人データ化 販売500店で

販売店の人事評価をプロセス重視に転換する(東京都立川市の店舗)
販売店の人事評価をプロセス重視に転換する(東京都立川市の店舗)

従業員の仕事への意欲や満足度をデータ化して、働きがいを改善する取り組みが広がり始めた。SUBARU(スバル)は国内のほぼ全ての販売店で働く約1万人を対象に調査を実施。指導や研修に生かし、半年で9割の店舗が改善した。働きがいを重視する経営は米国が先行していた。労働人口が減る日本でも生産性の向上や人材定着の手段として注目を集める。

「職場に満足しているか」「上司とのコミュニケーションはとれているか」。スバルは国内販売店の大半の約500店舗で仕事や組織への愛着心「エンゲージメント」に関するオンラインアンケートを始めた。約130の質問に対して5段階で回答し、結果は店舗ごとに集計される。データは従業員から同意を得た上で匿名化して活用する。

調査と合わせて店長など管理職を対象に研修を実施する。まずエンゲージメントがなぜ重要なのかを教える。電動化や自動運転など「CASE」の到来や人口減少など経営環境が大きく変わるなか、意識改革を促す。

研修では会社の方針や取り組みを理解してもらい、組織の連帯感や働きがいを高める具体的な施策を探る。エンゲージメントを向上するには全員が課題に向き合って議論することが重要という。車の販売店ではめずらしい完全週休2日制を導入する店舗が出てくるなど職場改革が進み、5月に実施した調査では9割の販売店が半年前と比べて働きがいが改善した。

スバルが販売現場の働きがい改善に取り組むのは、従来の目標管理型のマネジメントでは十分な成果を生み出せないと見ているためだ。昨年にはディーラーごとに提示していた販売目標を廃止。成果からプロセス重視へ人事評価制度の転換を進める。佐藤洋一常務執行役員は「スバルブランドは『安心と愉(たの)しさ』。販売員がノルマ達成にあくせくするのでは、その価値を伝えられない」と説明する。

働きがいは海外ではエンゲージメントと呼ばれ、2000年代以降、欧米で生産性を高める要素として注目されるようになった。生産性は一般に生産量を労働時間で割って求める。日本は分母である労働時間の削減は進んだが、分子に関わる働きがい改革が遅れている。オランダのイフェクトリーの調査では、日本で働きがいを感じている人は9%にとどまり、調査対象57カ国・地域中最低だった。上意下達の硬直的な組織や働き手の自律の低さが背景にある。

働きがいは労働時間に比べて定量化が難しいため、「エンゲージメントサーベイ」と呼ぶサービスの利用が広がり始めた。様々な質問を通して従業員の働きがいを数値化して、回答者の属性別や時系列で分析する。

人事コンサルのリンクアンドモチベーションが16年に始めた「モチベーションクラウド」はその草分けだ。当初の利用はスタートアップが中心だったが、近年はスバルなど大企業の導入が目立つ。利用企業数は累計8千社を超える。

新型コロナウイルス下でのテレワークの定着も追い風となっている。「日本企業は職場での対面コミュニケーションを通じて従業員の意欲を把握する傾向が強かった。テレワークでそれが難しくなったためオンラインツールへの関心が高まっている」(同社)

東京ガス子会社で都市ガス配管の維持管理を手掛ける東京ガスパイプネットワーク(東京・港)は全国約90の職場でエンゲージメントサーベイを導入した。各職場で10人前後の小グループをつくって調査結果を共有し、働きがいの改善策を議論したり、同僚同士で励まし合ったり、職場の連帯を強めている。

同社は20年までに東ガス子会社や協力会社など8社の事業を統合した。出身母体の異なる約1700人の融合が経営課題となっており、職場改革を進めている。

東京ガスパイプネットワークが利用するのが求人サイト運営アトラエの「Wevox」だ。アンケートの質問数を4~32に絞り、毎週~毎月の高頻度で実施するのが特徴。21年6月末の導入企業数は2千社を超え、1年で3割増加した。

アトラエによるとエンゲージメントの数値が低い働き手の離職率は高い働き手の3倍以上だ。Wevoxを活用することで離職率を4分の1に抑制した外食企業もあるという。アトラエの新居佳英最高経営責任者(CEO)は「終身雇用が一般的だった日本で雇用の流動性が高まっている。今後は人材定着のためにエンゲージメントを高めようとする企業が増えるだろう」と話す。

関連ソフト、世界市場2400億円

海外でもエンゲージメント調査を手掛ける企業が台頭している。独SAPグループの米クアルトリクスはオンラインアンケートのデータ分析に人工知能(AI)を使い、エンゲージメントと従業員の業績評価の相関関係を分析する。1月に米ナスダック市場に上場し、時価総額は200億ドル(約2兆円)を超える。米リンクトインのグリントもデータ分析を武器に利用を伸ばしている。

印ブルーウィーブ・コンサルティングによると、2026年のエンゲージメント関連ソフトの世界市場は21億ドル(約2400億円)と19年から2.6倍に増える見通し。

日本では日立製作所が20年7月にハピネスプラネット(東京都国分寺市)を設立した。スマートフォンのセンサーでうなずきなどの人間の動きを検知して、従業員の幸福度を測定するアプリを開発している。

(雇用エディター 松井基一)

[日経電子版 2021年10月21日 掲載]

ピックアップ

注目企業

転職成功アンケートご協力のお願い
日経転職版を通じて転職が決まった方に、アンケートのご協力をお願いいたします。