人手確保へ「学費全額負担」 Amazonやウォルマート

米小売り大手は従業員を確保するため大学の学費を支給する=AP
米小売り大手は従業員を確保するため大学の学費を支給する=AP

【ニューヨーク=河内真帆、白岩ひおな】人手不足が深刻な米国で、アマゾン・ドット・コムやウォルマートなど小売り大手が大学に通うパート従業員らの学費を負担する動きが広がっている。ローン返済に苦しむ学生には朗報だが、企業によっては1000億円を超す費用負担が見込まれる。年末商戦を控えた米国で、人材獲得合戦が過熱する。

「人が採れない」悩み深刻

アマゾンは9月、米国の物流センターで働く75万人に対し、大学在学者について授業料を全額支払うことを決めた。2022年1月以降、入社3カ月を超す従業員が米国内数百の教育機関で学位を取得するのを支援する。高卒資格の取得、英語が母国語でない人の英語検定資格にも利用できる。

ウォルマートは7月末、パートタイム、フルタイムで勤務する従業員150万人に向け米国内で提携する10校の教育機関の学費および教材費を全額支給すると決めた。ディスカウントストア大手ターゲットも9月から従業員34万人を対象に同社の提携先40校での学費や教科書代を負担する。提携校で修士号を続けたい場合には年間最大1万ドルまでの費用負担をする。

ウォルマートとターゲットの場合、専攻科目はビジネスやコンピューターサイエンス、サイバーセキュリティーなど小売業務に関係する科目に限定される。従業員が途中で退学したり学位取得直後に退職したりしても返金を迫るような縛りはない。

背景にあるのは深刻さを増す人手不足だ。

「募集条件を引き上げても応募がない」「採用時のボーナスを手にした途端、いなくなってしまう」――。全米の経済情勢を集約する米地区連銀経済報告(ベージュブック)には悲鳴が並ぶ。米労働省が取りまとめた最新の雇用動態調査(8月分)では、全米で約1044万人の求人がかけられた一方、採用できた数は約632万人にとどまった。求人と採用のギャップは約411万人と7月の426万人からわずかに減ったものの高止まりが続く。小売業でも118万人の求人に対し採用数は91万人にとどまった。

新型コロナウイルスのワクチン普及などを背景に経済活動が再開しモノやサービスの需要は急回復した。一方でコロナ禍で解雇された労働者のなかには、感染を懸念して小売り現場への復職をためらったり、子供の学校再開の遅れで働けなかったりする人も多い。業種を超えた人手不足で他の業種も採用条件を改善するなか、より労働環境のよい職種に転職する人も後を絶たない。

学生に朗報、効果は未知数

ウォルマートなど各社は人手不足が顕在化した春先から従業員の時給引き上げなど対策を打ってきた。それでも埋まらない人材不足を解消しようと考え出されたのが学費の全額負担だ。

企業の負担は小さくない。アマゾンは25年までに12億ドル(約1300億円)、ウォルマートは5年間で10億ドル、ターゲットは4年間で2億ドルの資金を用意する。人材確保へ背に腹は代えられない、との判断だ。大学に通いながらパートなどで働く優秀な従業員を囲い込めれば、中長期的な人材戦略にも合致するとの思惑もありそうだ。

学生にとっては朗報だ。ある調査では20年の大学生1人の平均的な学生ローン借入額は2万9927ドルと10年比で20%増加。重い学生ローン負担は社会問題となっており、小売り各社の施策は解決の一助となる可能性もある。

一方で、各社の教育プログラムは効果が限られるとの見方もある。ペンシルベニア大学ウォートン校のピーター・キャペリ教授は「大学の授業への出席は有給休暇にならない。従業員は労働時間外に勉学せざるを得ず動機づけになりにくい」と懐疑的だ。各社とも数十万人が対象になると発表しているが、実際に手を上げるのは少数にとどまるとそろばんをはじいている可能性もあり、「企業は従業員のためというより、横並び的に施行しているように見える」(キャペリ教授)。

[日経電子版 2021年10月16日 掲載]

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