会社設立で自分の価値をお金に 合同会社なら安く簡単

sfidaM代表 小沢松彦氏

とりあえず会社をつくってみては(写真はイメージ=PIXTA)
とりあえず会社をつくってみては(写真はイメージ=PIXTA)

「会社をつくるなんて、起業なんて、そんな大仰な事はとても……」と感じる方も多いのではないかと思います。会社設立の意義や狙い、事業の広げ方などについて、中小企業のバリュー開発・社員教育などを手掛けるsfidaM(スフィーダム、千葉県浦安市)代表の小沢松彦氏に聞きました。

以前に当欄「出世ナビ」で「12万円であなたも社長 第2の人生、仲間の力も宝に」という記事を書きました。これはセカンドキャリアの1つの選択肢として、あまり身構えずに、とりあえず会社という装置をつくってみることから始めてみてはという発想を勧めたものでした。

とはいえ、もちろん自分に提供できるサービスが何もなければ、会社をつくっても意味がありません。 ただ、誰しも長く働いて生きている中で、何かしらのスキルや力は備えているものです。それを自分で認識し、可視化できていないだけです。その可視化の方法はまた別の機会に譲ることにしますが、何らかの提供価値が見つかったならば、それをどのようにお金にする形をつくっていくかを考えていくことになります。

合同会社は株式会社より簡単・安価に設立

今回は私の会社設立から、どのようにして仕事を広げていったかという経緯を紹介してみたいと思います。私は勤務先を退職した後、数人での起業に参加していましたので、それに加えて新たに個人の会社をつくるということは当初、考えていませんでした。ある時、知り合いの会社から「社員研修を導入したいので手伝ってくれないか」という依頼を受けたのですが、その時点では個人事業主として研修を引き受けることを考えていました。

ところが、その会社は上場企業だったので、個人事業主とは取引をしづらいと言われ、どこかの会社を間にかませてはどうかと持ちかけられました。それでは、間に入った会社にマージンを支払うことになってしまいます。さすがにもったいないし、意味も無いことなので、急いで法人をつくることにしました。

合同会社を選択することになった経緯は前述の記事で紹介していますが、株式会社に比べ個人でも簡単に安価に設立できることが決め手でした。研修の依頼を受けてから実施までの1ヵ月ぐらいの間に、研修プログラムの開発と並行して合同会社を設立し、無事に直接請け負うことができました。法人であることは仕事の広がりの可能性をもたらします。たとえ小さな会社でも法人登録されることで社会的信用が異なってきます。

次はせっかく会社をつくったので、できる限り活用のチャンスを広げようと考え、いろいろな人に「会社をつくったんですよ」と話しました。個人で仕事を始めようとした時と会社をつくった後では、相手の興味の持ち方が明らかに変わりました。「どんな会社なのか」「何を提供する会社なのか」と聞かれることが増えてきました。そんな中から新たに「社員研修をしてほしい」という依頼が舞い込みました。その会社の社長に熱い思いと強いリーダーシップがあり、自社の製品で日本の安全を守るという高い志を持った会社ですが、まだ成長途上で、社員教育などはこれからという時でした。

仲間と組み提供サービス拡大

この会社の要望に応えるプログラムをつくるには、人事経験者の参加が必要だと感じたので、ちょうど退職した元同僚に声をかけ、一緒にユニットを組んで対応することにしました。この結果、私一人ではできないことを提供できました。つまり、提供サービスが広がったのです。当方も会社を設立して間もない頃ですし、相手は知り合いの会社でしたので、この研修は原価を補う程度の価格で引き受けました。

ただ、その時、その会社の社長には「もし我々の提供するプログラムが良いと感じたら、ぜひ他企業に紹介してください」とお願いしました。やがて、この会社の取引先である中堅優良企業のミッションバリュー開発(経営者との対話を通じた企業のミッションや提供価値の開発)とそれを社内外に伝える仕事を紹介されました。ここでは、マーケティングやクリエーティブの要素が必要になりそうでした。すると今度はマーケティングとクリエーティブの元同僚2人が退社して独立するという知らせが舞い込んできました。早速、この2人に声をかけ、先の人事経験者と合わせて計4人でユニットを組んで対応することにしました。

こうして、まるで「桃太郎」の昔話のように、会社設立を起点として少しずつ仲間が増え、機能と提供するサービスが広がり、得意先も増えていくという形になりました。しかし、これは最初から設計していたことではありません。最初に自分が動くきっかけとしての装置をつくってみた。自分が動くことで新たな変化が生じた。その変化がまた次の動きにつながっていったということなのです。

タイミングや運に恵まれただけではないかと思われるかもしれません。もちろん否定はできませんが、運を引き寄せるにしても、何もしなければ何も生まれません。こうした行動のつくり方については、別の機会に紹介しますが、会社をつくったことが自分の考え方や動き方に変化を与え、機会を広げるきっかけになったことは間違いありません。起業といっても革新的な技術やアイデアをもとに、ベンチャー企業を立ち上げるばかりではありません。最初から大きな成果を狙う必要もありません。自分と自分の周りに眠っている「売り物」はありませんか。目の付け方ときっかけのつくり方次第で、稼げるチャンスが生まれてきます。

小沢松彦
1962年名古屋市生まれ。85年早稲田大学卒業後、博報堂入社。営業部長や広報部長などを歴任し、2014年に早期退職。セカンドキャリア支援の一般社団法人、社会人材学舎の起業に参加し、後に自身で主に中小企業のバリュー開発・社員教育を手掛ける会社「sfidaM(スフィーダム)」、企業戦略の伴走支援ユニット「Halumni(ハルムナイ)」を設立。現在は経済同友会と兼業。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年08月04日 掲載]

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