
決済代行サービスなどを手掛けるメタップスは、正社員とフリーランスを組み合わせた雇用形態の導入を加速する。エンジニアを対象に同社と雇用契約を結んで正社員となったうえで、フリーランスのように自由に仕事を選べる。多様な働き方を用意し、優秀なエンジニアの確保や接点づくりに生かす。
「フリーランス型正社員制度」は、メタップスが正社員として雇用しつつ、自分で獲得したシステム開発などの案件を手掛けることができるのが特徴だ。2020年2月に導入し、21年8月からは月額最大100万円の報酬を保証しながら、最長で1年間フリーランスの体験ができる支援プログラムの提供も始めた。
基本給+報酬を上乗せ
同社が展開するフリーランスと企業のマッチングサービス「リシャイン」のプロジェクトなどに参画でき、働く場所や時間、仕事内容、報酬などを自分で選択可能だ。相手先企業とは、メタップスが本人との間に入って業務委託契約を結び、それを業務命令として遂行する。メタップスの新規事業などを手掛けてもらう場合もある。
週4日勤務であれば月額20万円、週5日なら同25万円が基本給となり、開発案件などフリーランスのように働く分は報酬として上乗せしていく形になる。報酬のうち、2割は労務や人事などにかかる費用として差し引かれるものの、残りの8割を得ることが可能だ。
すでにフリーランス型正社員として2人と雇用契約をしており、10月に1人が新たに加わった。契約第1号となった山口弘太郎さん(31)はシステムエンジニア(SE)として他社で正社員勤務していたが、その後フリーランスに転じていた。

「リシャイン」のマッチングサービス登録などをきっかけにメタップスと接点を持ち、20年2月にフリーランス型となった。「引っ越しや住宅ローン、結婚など様々な場面でフリーランスの社会的な信用が浸透していないと感じ、このままでいいのかと考えていた」と転身を決めた理由を振り返る。
福利厚生や技術交流に利点
フリーランス時代から手掛けているセキュリティー関連のシステム開発案件に引き続き携わっている。それでも山口さんは正社員になったことで「新型コロナワクチンの職場接種や福利厚生、厚生年金など利点が多い」と話す。
さらに「相手先との契約書の取り交わしや契約更新の手続きなどを会社が代行してくれ、手間が大きく省けるのでかなり『お得感』がある」と日ごろの業務負担軽減もメリットと実感している。
メタップスのエンジニアとも同じ社員同士として交流できるため、勉強会や合宿などを通じて技術を磨き、知見を広げる機会も得やすくなった。
現在、他社の正社員でフリーランスを目指している人向けの採用プログラムもこのほど始めた。上限は5人で、フリーランス型正社員として社内外の様々な開発業務に従事してもらう。指定のプログラミング言語を使った3年以上の実務経験があることが条件だ。プログラムの終了時に、独立するか、フリーランス型を継続するかを決められる。
報酬面を含めて、かなり手厚い待遇となるが、開発部の阿夛(あた)浩孝部長は「エンジニアが不足するなか、優秀なIT(情報技術)人材の確保につながる」と話す。
将来、独立したとしてもメタップスと近いところで仕事をしている人を増やすことは「ある意味では『人材プール』にもなると考えている」と協力的な技術者のネットワークを広げる効果も見込む。
フリーランスには課題も
内閣官房が20年2~3月に実施した「フリーランス実態調査」によると、フリーランス人口は副業も含めると462万人に達する。働き方の多様化でフリーランスを選択する人が増えてきた一方で、収入について満足している人は4割にとどまる。
フリーランスとして働くうえでの障壁(複数回答)としては「収入が少ない・安定しない」が59.0%で最も多く、「1人で仕事を行うので、他人とのネットワークを広げる機会が少ない」(17.2%)などが続いた。
社会的信用の面も含め、現時点ではまだ正社員であることの利点を重視する人は多い。ただ今後は副業・兼業の広がりやジョブ型雇用の適用などで、従来型の雇用形態を区分けしていた境目は曖昧になってくるとみられる。
フリーランス型正社員の試みは、そうした移行期で多様な働き方のニーズに応える1つの制度といえる。
(井上孝之)
[日経電子版 2021年10月13日 掲載]