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まず上司が部下に歩み寄れ ライオン流「働きがい改革」

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管理職は本当に部下を理解し育てているのか――。2019年に「働きがい改革」を始めたライオンは、全管理職600人に、部下との関係を6カ月かけ再定義する「関係性向上プログラム」参加を義務付けた。職場の人間関係が働きがいを左右すると考える企業はライオン以外でも増えている。

「上司というOSをアップデートしないまま、新しい働き方を入れても効果は出ない」。ライオン人材開発センターの関屋建輔チームリーダーは言う。

上下関係に問題があると、優れた人事施策を採用しても上司が原因で効果が薄まってしまう。多くの企業に見られる現象だろう。

約130年の歴史を持ち「社員の愛社精神も非常に強い」(関屋氏)ライオンが働きがい改革を始めたのもそのためだ。同社の考える働きがいは、社員が企業人、家庭人として充実した生活を送り、自ら成長していくというもの。上下の関係性を改善して認め合い「部下が本音で話す心理的な安心感が必要だ」(関屋氏)。「100年後も歯磨きの会社でいいのか」との問題意識も強く、働きがいを感じ、能力を発揮できる若手を増やすことが事業変革につながると期待する。

新任管理職を対象とした以前の研修で「(さらに上のクラスの)上司が変わらねば新風土は醸成できない」と指摘され、関係を築けぬ上司が阻害要因になる危険性は分かっていた。

そこで同社は(1)部下の考えを取り込みながら未来を示す「オーセンティック(信頼感のある)リーダーシップ」を打ち立てる(2)異なる職場でも部下への接し方に差がないようにする――を目標とする独自プログラムを今夏から始めた。

9月28日には部下の査定権限をもつ管理職600人のうち約20人が2回目の会合に参加。オンラインで4時間のセッションに取り組んだ。ヘルス&ホームケア営業本部の土谷佐知業務管理室長は「悲しみや喜びの経験を参加者に話し、相手がどう受け取ったか聞くことで意図がどう伝わるか体験できた」と手応えを語る。

「ラベリングしない(決めつけない)」「互いを尊重」などリーダーシップに関わる10種ほどの言葉から、自分が何を重視するかを考えるワークもあった。「全員が目指すリーダー像は示されない。正解がないなか、講師のヒントを基に『これだ』と思う姿を自分で見つけなければならない」と土谷氏。年齢や立場が遠い部下に自分史を語り、感想を聞くという不慣れな課題も出たといい「大変だが自分なりの気づきがあった」。

全プログラムは約60時間。うち32時間は講師がテーマを設定する。3回目は社会との関係性、4回目は自分のチーム内での関係性、次いで未来との関係性とテーマの幅は順次拡大する。後半は自身の部門での実践が中心で、6カ月後には成果発表会を開く。

上司が変われば部下との関係性は改善するか。研究開発本部ではその効果を示すような経験があった。

同本部人事担当の田淵照人副主席研究員は「18年の調査で『キャリアへの助言が不十分』などの声が出て、若手の働きがいの低下が判明した」と話す。対策として管理職に部下への関心を高めるために、部下に対し1~2週に一度のインタビューを継続させたところ「上司の壁が低くなり改善が確認できた」。

雇用管理に詳しい事業創造大学院大学の浅野浩美教授はライオンの方策について「若手は『上司にはしごを外されるのでは』と不信感を抱く。その上司から変える手法は、会社の本気度を信じさせる強いメッセージで効果的」と評価する。

上下だけでなく左右の壁も取り払い、認め合う

部署を超えたコミュニケーション不足に課題を感じていた内藤宏治・ウシオ電機社長。自身も社員らと称賛のメッセージを送り合う(東京都千代田区)
部署を超えたコミュニケーション不足に課題を感じていた内藤宏治・ウシオ電機社長。自身も社員らと称賛のメッセージを送り合う(東京都千代田区)

「コロナ禍の今年もボーナスありがとうございます」「新入社員の皆さん、入社おめでとう #ようこそ」。産業用光源メーカーのウシオ電機が20年に導入した「ピアボーナス」と呼ぶサービスの社内SNS(交流サイト)には社員同士の感謝や称賛の言葉が日々刻々と書き込まれる。

ソフトウエア開発のユニポス(東京・港)が提供するシステムで、批判は書き込まないのがルール。称賛を送った側も送られた側も双方が電子商取引(EC)サイトで使える報酬ポイントを受け取れる仕組みだ。

社員がワクワクしながら自発的に働くにはどうすれば良いか――。20年9月に「働きがい改革プロジェクト」が発足。在宅勤務が広がったコロナ禍でも生産性や創造性を高めようと、役員も巻き込んだ議論を始めた。

きっかけは国内外で営業や新商品立ち上げに携わってきた市村順太郎さんが、初めて人事担当の課長になって抱いた違和感だった。間接部門のルーティーンの事務仕事はミスがなくて当たり前の「減点主義」で、職場の雰囲気は活気に欠けた。「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)だけでない雑談的なやりとりが必要だ」と感じた。

参加社員の全員が見られるオープンなチャットで、個人同士が業務を褒め合う効果は大きい。年次や勤務地を越えてお礼のメッセージを送り合い、通常の業務では接点のなかった静岡県と兵庫県の事業所に勤務する開発者同士が顔見知りになり、新規開発の相談が始まった例もある。

「社内コミュニケーションの活性化で職場の心理的安全性は高まり、自然とイノベーションが生まれる」との内藤社長の考えはライオンに通底する。

業績や士気に直結する、笑いや褒め合える場の存在

揚羽では週初に全社的な朝会を開き、部署の垣根を越えて互いの仕事ぶりを認め合うコミュニケーションの場にしている(写真左はコロナ禍で始まったオンライン朝会、右は2018年)
揚羽では週初に全社的な朝会を開き、部署の垣根を越えて互いの仕事ぶりを認め合うコミュニケーションの場にしている(写真左はコロナ禍で始まったオンライン朝会、右は2018年)

広告会社「揚羽」(東京・中央)は毎週初めに約30分間、湊剛宏社長以下全員が参加する朝会を05年から続ける。湊社長は「今では朝会をやめるのは不安だと思うほど、重要なコミュニケーションの場として定着してきた」と話す。

「営業メンバーで3件受注しました」。9月21日午前、社員ら約100人が参加するオンライン朝会で各部署の業務報告が始まると、チャット欄は「おめでとう! すごい」などの称賛の言葉があふれた。社員の誕生日を祝い、湊社長自ら服装の失敗談まで明かした。司会役の軽快な進行で30分が過ぎた。

朝会は当初、社員20人ほどの業務連絡として始めた。業態を拡大して営業やコンサルタントなどを中途採用し始めたころから、湊社長は「仕事の進め方や理念など異なる文化の衝突が起きるようになった」と話す。

社の行動指針を話し合ったり、隣の社員と仕事ぶりを褒め合うなどのしかけを取り入れ、朝会を明るい交流の場に変容させた。毎週続けるうち、社内で部署を越えた顔見知りの人間関係が強化されていった。取り組みは評判を呼び、100社超が見学に訪れる。

湊社長は「『あうんの呼吸』では特に若い社員は認められていることを感じにくい。笑ったり褒め合ったりという場をあえて作ることは、業績や士気に直結する」と強調する。

上司の理解不足、仕事の満足度を左右

企業組織で働くことを、ごく個人的なレベルで言い換えれば、自分では選べない上司に指揮命令を受けながら配置された業務をこなすということ。これは年齢や立場を問わずサラリーマン全体に共通している。ここで問題となるのは、上司の部下に対する理解が不十分な場合、部下のやりがいや仕事の質に顕著な影響が出ることだ。

632acd10-33e3-446d-b8c6-502026136bd9.jpgカオナビHRテクノロジー総研(東京・港)が20~60代の600人に実施した2018年末の調査では、上司から理解されていないと感じる従業員で「職場に満足」と答えた割合はわずか6%だった。対照的に、上司に理解されていると感じている従業員は68%が満足していた。

では、実際には、どの程度の上司が部下を理解しているものなのか? 同調査に「上司は自分を理解している」と答えた部下は約42%と半数以下にとどまり、「理解していない」が約25%、「どちらでもない」が約33%だった。職場感覚からみてそう違和感のある結果ではないだろう。

部下が上司に理解してほしい点のトップ3は(1)これまでの業務(2)業務への希望・不満(3)性格――だ。1990年代初頭のバブル崩壊後、四半世紀にわたって多くの日本企業は成果主義を標榜しており、自分が担当して結果を出してきた業務について理解を得たいとする要望は妥当だ。(2)(3)も、自分に合う業務を担当したいという前向きの思いの表れとみることができる。

社内公募制や新事業提案制で従業員個々のやりがいを重視する動きは出始めているものの、組織の方向性と部下の要望が一致することは多くない。そんな時に部下を勇気づけるのは上司による丁寧な説明や方向付けだ。組織が踏み出すためにも日ごろの部下との関係構築は重要なのだ。

(礒哲司、松浦奈美)

[日経電子版 2021年10月04日 掲載]

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