次世代リーダーの転職学

40歳過ぎても年収がアップ 必須の学びとスキルとは

ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行

以前の職場での評価は転職先で同様に通用するとは限らない(写真はイメージ) =PIXTA
以前の職場での評価は転職先で同様に通用するとは限らない(写真はイメージ) =PIXTA

40代の平均年収は510万円だそうです(転職サービス「doda」の「平均年収ランキング2020」による)。30代の444万円から15%以上も上がっています。しかし、実際には性別、業界、職種でかなり大きな開きがあるのも事実です。また、同じ会社の同じ仕事でも、個々人の活躍度によって賃金には大きな差が生まれます。今回は40歳を超えても、継続的に年収を上げていくために必要な要素を考えてみたいと思います。

経験が豊富でも、転職活動で不採用が続く人の共通点

先日、転職相談で会った42歳のFさんは、新卒で繊維メーカーに就職し、アパレル会社向け素材の営業で経験が長いベテラン人材。自分なりの工夫と、逆境に負けない粘り強さで若いうちから業績を上げ、売上目標でも高い達成率を何年も継続して評価を得てきた人でした。結果的に同期の中でも一番早く30代で営業部長に昇格し、エース格の幹部候補として社内の期待を集めてきたそうです。

しかし、アパレル業界の不振に、高付加価値な繊維素材の需要減少が追い打ちをかけ、経営状況は右肩下がり。部長職以上の減給措置が2年連続で続き、4月から転職活動を開始。いざ初めての転職活動を動き始めてみると、エージェントから紹介される求人の中には自分に合うものが少なく、求人サイトに登録してみてもピンとくる求人はほとんどない状態。やむなく未経験の業種にも広げて20社程度に応募してみるものの、ほとんどが書類選考で不採用になってしまった。何とか面接にたどり着いた企業も3社あったものの、「すべて1次面接で落とされました」ということでした。

経験も実績も豊富で、コミュニケーション能力も高いのに、なぜ転職活動で苦戦しているのでしょうか。当事者に思い当たることはないか聞いてみました。

「なぜ不採用になるのか、その理由は全く自分には理解できません。私は現職で悪くはない評価をされてきた人間です。部長としても社内では突出したレベルの業績を生み出し続けてきた。その結果が、今の年収1200万円という金額に表れていると自負しています」

「もしかすると不採用の理由は、現在年収を最低限維持したいという希望条件にあるのかもしれませんが、自分としてはこれまでの実績から考えて、年収を下げてまで転職するのは納得できない。また、転職後に自分の強みを発揮するには部長職以上のポジションでないと貢献できないと考えています。役職と権限も譲れない条件です」

以前の勤め先での評価に、採用側は関心が薄い

過去こんな実績を生んできた。過去こんな年収をもらってきた。過去こんなポストについていた。

実力があるにもかかわらず、なかなか転職活動が進まない人の共通点は、このFさんと同じような「過去の実績を軸にした自己評価の高さ」です。実績をもとに「自分の値段」は決まっていて、価格決定権も自分にあると考えているように見えてしまう可能性をはらんでいます。転職経験のない人ほど、過去の実績が未来の年収を決める最重要因子だと思い込んでいる傾向があります。

しかし、雇用する側が知りたいことは、その人が他の会社で「過去、どれだけ実績を残したか」ということではなく、「今後、自社でどれだけの利益を生み出してくれるか」という入社後の未来の活躍を裏付ける情報なのです。極端に言えば、過去に他の会社がその人をどのように評価してきたかということには全く関心はありません。このギャップが、転職活動のミスマッチを生む最大の壁となっています。

「定額固定給与」から「利益分配型報酬」という考え方へ

日本の雇用慣習の中で働いてきた人々の中には、「労働時間と交換に給料をもらっている」という暗黙の前提が根強く残っています。もちろん仕事の内容や業種によっては、労働集約産業であるがゆえにその考え方が適しているケースが多いのも事実です。

しかし、事務系専門職や営業職などのホワイトカラーやエンジニア領域では、「成果に見合った報酬を獲得する」という前提に切り替えたほうが、働く人にとっても公平感が高くなるような仕事が増えています。

特に40歳を超えてきたベテランになるほど、新卒社員のような「将来の伸びしろへの期待」は減り、「今、ここで稼ぐ力」が求められます。

「決められた時間働くことで、会社から毎月定額の固定給与を“もらう”」という考えから、「自分が稼いできた利益から適正な分配率で報酬を“獲得する”」という考え方に自ら切り替えていかなければ、年収を上げていく糸口すら見つからないということになりかねないのです。

『給与』に関しては、ひとたび「労働時間と交換される受動的に対価を受け取る権利である」という錯覚を持ってしまうと、固定観念としてしみ込んでしまうので、これを脱するのはなかなか厄介です。意識の中からは、『給与』という言葉を聞いたら『報酬』という言葉に変換して、「自分が提供した価値から生み出した利益の中から能動的に勝ち取るものである」という認識を、自分の頭の中にしつこいくらいに刷り込んでおいたほうがいいかもしれません。

分業化した組織で、いかに創出利益をプレゼンできるか

「報酬は会社からもらうものではなく、提供価値に応じて獲得するもの」という思考で働いていくには、自分の仕事が生み出した価値の見立てを、上司や会社に任せてしまうのではなく、自ら客観的に自己評価ができるように訓練することも重要です。

しかし、企業においてはほとんどの場合、多様な職種、役割の人がモザイク状に組み合わさって分業しているため、自分の生み出した価値を見立てることは容易ではありません。

1億円のマンションを1年間で10件売ったデベロッパーの営業は、外形的には「1年間で10億円を稼いだ」ように見えますが、実際には、設計や建築、販促、経理など様々な人が関わった大きなプロジェクトで顧客に直接接する役割を持った一員に過ぎません。商品・サービスが売り上げを生み出すプロセスに関わるビジネスプロセス(プランニングから生産、販売、アフターサービスに至る部署)の中で、自分の果たしている役割の関与度を正しく評価するには、日々のコスト意識や経営指標を理解しておくための勉強も不可欠になると思います。

最後に、40代を超えても年収を上げ続ける人に共通するスキルを紹介します。

(1)継続的な学習習慣

ビジネスに必要な知識だけでなく、人間力を高め、包括的な視界を手に入れるために、継続的な学習ができる人は、新たな困難にぶつかっても対応できる範囲が広くなります。特にテクノロジーやケーススタディ、歴史から多様な生き方や価値観などを学んだ人は、それだけ多くの生きる知恵を身に付けていると言っても過言ではありません。

(2)業務効率化のノウハウ

売り上げを増やすことと同じように、業務の無駄や非効率を省き、効率化することも積み重なれば多大な利益をもたらします。多様化するクラウドサービスや外部リソースの活用で、効率化できることも日々刷新されています。現場業務を知り抜き、最新の事例をインプットしておくことで、会社にもたらす利益は必ず年収にも反映されていきます。

(3)投資ノウハウ

会社の経営は簡単にはできませんが、株、不動産、金融資産などへの投資は個人でも可能です。いかにうまく投資をして、いかに回収するかを学ぶには、自ら投資を学ぶことが最短の未知です。経営感覚を身に付けるためにチャレンジしてみる価値はあるかもしれません。

(4)やり切る力

企業の中で高い評価をされ、実績を残す人はどんなものごとも簡単にあきらめず、最後までやり切る力を持っています。ただ、決めたことをやりきるだけではなく、目的を見据えて、手段や方法を柔軟に試行錯誤できる力も重要です。

これらを参考に、明日からできること、今すぐ着手できることを即座に行動に移せるかどうかが、あなたのキャリアを高めるための最初の一歩です。ぜひ、無理のない範囲で、楽しみながら実行を始めてほしいと思います。

黒田真行
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年08月13日 掲載]

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