「越境的キャリア」の形成 人生100年時代のカギに

A.T.カーニー 滝健太郎プリンシパル

社会で活躍する若手リーダーのキャリア形成術とは(写真はイメージ=PIXTA)
社会で活躍する若手リーダーのキャリア形成術とは(写真はイメージ=PIXTA)

社会で活躍する若手リーダーたちはどのようにキャリア形成していったのでしょうか。業務や職種、領域などを「越境」することで身に付けた多様なスキルを融合するなどして、活躍の場を切り開いているケースが目立ちます。経営コンサルティング会社、A.T.カーニーの滝健太郎プリンシパルが実例をもとにアドバイスします。

「今の職場に満足していますか」。このように聞かれたら、あなたは何と答えますか。日本の若手で「満足」と答えた割合はわずか10%で、同様の回答をした諸外国の若手と比べ最も低いです(図表1)。例えば、アメリカは52%、ドイツは39%、韓国は18%でした。(内閣府による29歳までの男女を対象にした各国1000人規模の調査。2018年)。日本は20~30代を中心に、世界有数の「仕事不満足社会」であると言えます。

活躍する若手リーダーは「収入」「労働時間」だけを重視せず

では、満足度が低い理由は何でしょうか。この調査では、日本の若手は職業選択の重視点として「収入(71%)」「仕事内容(63%)」「労働時間(60%)」などを挙げました(図表2)。「労働時間は減らし、プライベートの時間を確保したい」「でも今の年収は下げたくない」……。20~30代の皆さんが転職する際に気にするものと同じ視点ではないでしょうか。

一方、社会で活躍する20~30代のリーダーを見ると、必ずしも「収入」「労働時間」だけを重視して仕事を選んでいるわけではないように思えます。筆者は職業柄、日本の大企業の(将来の経営候補と目される)20~30代の若手リーダー層や、日本発のスタートアップ企業の起業家の方々との接点が多いです。彼らは複数のキャリア・転職を経験し、今のキャリアに至っていることが多いですが、彼らが「収入」「労働時間」を重視して転職しているかというと、そうは見えません。

例えば、安定した高収入の大企業のキャリアを捨て、一念発起してスタートアップを立ち上げたり、金融業界で既に高収入で、それなりの地位だったにもかかわらず、全く別業界に転じて見習いからやり直したり、といった具合です。もちろん、こうした紆余(うよ)曲折を経て、今は素晴らしいポジションに就いていますが、最初からそれを狙っていたかというと、そういうわけではありません。

筆者の知る限り、彼らは自分のパッション(志)を定義した上で、自らスキル/エッジ(長所)を磨き、自らが納得するキャリアを積極的に形成しているのではないでしょうか。結果として、収入、あるいは収入以外の社会的報酬を得ている、という構造に見えるのです(図表3)。

「仕事不満足」層 自分の長所に気付かず

さて、先ほどの調査に戻ると、「自分には長所があるか」という質問に対し、「そう思う」と回答した日本の若手の割合はわずか16%にとどまります。アメリカは59%、ドイツは43%、韓国は32%であるのと対照的です(図表4)。ここには冒頭の「仕事不満足」と大きな関係があると、筆者は見ています。実は多くの人が自分のエッジ(長所)に気づいておらず、言語化できていないが故に、「何となく不満足」の状態に陥ってしまうのではないでしょうか。

こうした問題意識から、社会で活躍する「創造と変革のリーダー」たちが何を自らのパッション(志)と捉え、何を自らのエッジ(長所)と定義し、どのようなスキルを磨いてきたか。そして、知られざる報酬に対する考え方について今後、実例に基づいて明らかにしていきます。

「創造と変革のリーダー」はこれまでの日本のキャリア形成の類型だった「文系(事務系)・理系(技術系)」「業種(金融、通信、製造業……)」「職種(営業職、企画職、エンジニア職……)」「日系・外資」「総合職・事務職」のような軸ではなく、図表5に挙げるような軸で捉えられます。

加えて、上記の領域を越境する力も今後、重要になってきます。転職市場でもこれまでT字型(1つの専門分野に加えて幅広い知識を持つ人材)と言われていたキャリアが当たり前になり、π字型(パイ字型。幅広い知識を持った上で、2つの専門分野を持つ人材)やBTC(Business/Technology/Creative)のバランスが問われるようになってきています(図表6)。

多彩な「創造と変革のリーダー」

筆者の周りにいる「創造と変革のリーダー」の中には、まさにそのような越境的キャリアをたどってきた人材がいます。例えば、ビジネスの仕事をしながら、デザインスクールに通い、その後、デザインファームで研さんを積み、今は「ビジネス×デザイン」の融合領域で働く人物。例えば、スタートアップのリードエンジニアでありながら、顧客の求める最善の会計ソフトウェアを理解するため、自らが簿記資格まで取得した人物。例えば、日中英韓の4ヶ国語を操る超グローバル人材でありながら、今は超ローカルの地方創生に取り組む人物。例えば、土木工学を専攻しながら、司法書士になった後、司法過疎地に移住し、その後、政治の世界に身を投じていった人物。

こうした越境を繰り返しながら、自らのパッション(志)を問い直し、様々なスキルを組み合わせつつ、自らのエッジ(長所)を形成していくことは、これからの「人生100年時代」の重要なテーマになるでしょう。

社会で活躍する若き「創造と変革のリーダー」たちはどのようT字型、π字型、あるいはBTC型のキャリアを形成していったのでしょうか。連載では筆者が用意した5つの問いを通じ、「創造と変革のリーダー」のキャリア観を深掘りしていきたいと思います(図表7)。

次回はゴールドマン・サックスからコンサルへ、その後、スタートアップのCFOとして上場を果たした竹本祐也氏をお招きし、日本でも稀有(けう)なスタートアップCFOキャリアをどのように築いてきたかについて、5つの問いを通じて振り返ってみます(図表8)。

滝健太郎
東京大学経済学部卒。生まれてこのかた日本は低成長で、バブル時代を知らない世代。A.T.カーニーのリーダーシップグループの一員として「日本の課題解決先進国化」に挑む。「創造と変革のリーダー輩出」のための社内の各種キャリア形成セミナーを主催。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年08月18日 掲載]

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