在宅勤務のリモハラ防げ メールやチャットはですます調

プライベート空間と仕事の場が混在する在宅勤務では丁寧なコミュニケーションが欠かせない
プライベート空間と仕事の場が混在する在宅勤務では丁寧なコミュニケーションが欠かせない

長引く新型コロナウイルス禍で、出社をせずに自宅などでリモートワークを続けるビジネスパーソンは多い。チャットなど情報ツールの活用は進むが、コミュニケーションの行き違いから「リモートハラスメント」(リモハラ)に悩む人も少なくない。リモハラの実態やリモートワークでも心地よく働く環境づくりについて、労務問題に詳しい森・浜田松本法律事務所の安倍嘉一弁護士に聞いた。

――リモハラとはどういうものですか。

あべ・よしかず 00年東大法卒。05年弁護士登録後、企業法務の労働問題を専門に扱う法律事務所に約10年在籍し、15年から現事務所。解雇や残業代、ハラスメント、人員削減など人事・労務分野に詳しい。
あべ・よしかず 00年東大法卒。05年弁護士登録後、企業法務の労働問題を専門に扱う法律事務所に約10年在籍し、15年から現事務所。解雇や残業代、ハラスメント、人員削減など人事・労務分野に詳しい。

「在宅勤務などオフィスを離れて仕事をする際に起きるハラスメントだ。法律上の定義はなく、何を指すかは必ずしも明確ではないが、コロナ禍でオフィス勤務と異なる環境になったことで起きている。在宅勤務ではプライベート空間と仕事の場が混在する。対面ではなく、メールやチャット、ウェブ会議が増え、コミュニケーション方法にも大きな変化が生じた。リモハラはこうした環境の変化を背景に生じる」

――実際にはどのような事例が起きやすいですか。

「メールやチャットなどでのコミュニケーションは冷たい、怒っているなどの印象を与えることがある。例えば、ミスをした部下に上司が『何やっているんだよ』とメールすると、部下は必要以上に責任を追及された、パワーハラスメント(パワハラ)と受け止める可能性がある。対面なら表情や声色で柔らかく伝えられるが、メールなどではニュアンスが伝わりにくい」

「もともと仕事の場ではない自宅で、業務中にプライベートが介入することは避けられない。オンライン会議で子供の姿や声が入ってしまうといった例だ。『子供は話さないようにして』と文句を言うとストレスを与え、パワハラやマタニティハラスメント(マタハラ)になる可能性もある。オンライン会議中、参加者にカメラ表示をオンにするよう強制すると、ストレスを感じる人もいる」

――勤務時間中はパソコンのカメラを付けるよう求めるケースもあるようです。

「従業員の労働時間の管理のために導入している例がある。ただ、パソコンの前にいれば仕事をしているかというと、ネットニュースを見ているようなケースもある。カメラ映像を通じて本当に働いているか、誰がどう検証するかは難しい」

「従業員の一挙手一投足をカメラで監視するのは肖像権の侵害、また一時的にカメラの前から姿が見えなくなったときに何をしていたのかと詮索するのはプライバシーの侵害になる場合もある」

――リモートワークならではの問題で訴えられる事例は増えていますか。

「行き過ぎた言動が原因のケースはみられるが、リモートワークの問題のみで直ちに法的な紛争になるものは限られる。ただ、リモートワークで起きるハラスメントの芽となるような状況を放置すると、企業にとってハラスメントに発展するリスクが高まる」

――企業はどんな対策をすべきですか。

「こうしたハラスメントによって労働者が体調を崩したりすると、労働契約法に定める、労働者が生命や身体など安全に労働できるよう企業側が必要な配慮をする『安全配慮義務』に違反したとして、被害者から損害賠償を求められる場合もある」

「男女雇用機会均等法、パワハラ防止法、育児介護休業法などで求められる、ハラスメントを防ぐ措置は当然実施する必要がある。例えば、ハラスメントの相談窓口を設置し、ハラスメントを起こさないよう注意喚起する社員向け研修などだ」

――現場レベルでは。

「皆が気持ちよく働ける環境作りを進める必要がある。まずメールやチャットで連絡する際に、普段よりも丁寧なコミュニケーションを心がけたい。例えば、上司はメールやチャットでのやりとりを『ですます』調で書く、指示の内容だけでなくその背景についても記載するといった手立てが考えられる。上司が部下に対して1週間に1回程度のオンライン面談を通じて、最近の状況を尋ねるのもよいだろう」

「オンライン会議では1人が話し出すと、他の参加者は聞き役に回りがちだ。反対意見があっても言い出しにくい。上司は発言していない出席者にも質問を投げかけるなど配慮するとよい。ウェブ会議中に入った子供の声に文句を言ったり、映った住居や服装を度々話題にしたりしていないかも注意すべきだ」

「コロナ禍では働き方の変化や外出自粛などを背景に、さまざまなストレスがかかっている。ビジネスパーソンのストレス耐性は弱まっているのではないか。コミュニケーションを丁寧にし、誰もが気持ちよく働ける環境作りに企業は一段と配慮すべきだ」

(聞き手は相模真記)

[日経電子版 2021年09月13日 掲載]

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