新型コロナの感染拡大が続くなか、航空大手が外部企業などに出向中の社員の支援を拡充している。日本航空(JAL)は出向者の支援に特化した組織を設立。出向先の管理職と協力し、客室乗務などから長く離れた社員のキャリア形成を後押しするほか、心理的なケアにもつなげている。

JALから乗務員などが出向するコールセンター運営のテレコメディア(東京・豊島)。JALから出向し、現在は電話応対業務を担当する示野寛子さんは「電話応対で培った正しい言葉遣いや声のトーンを、航空の便数が復活した時に生かしたい」と話す。
テレコメディアでは、シフト管理や社内イベントの応援などにもJALの社員が携わる。テレコメディアの関田勝次会長は「自社の社員も出向者の立ち振る舞いなどを勉強している」と話す。出向先でもモチベーションを維持しながら、復帰後の職務にどう生かすか試行錯誤が続いている。
JALでは雇用契約を維持した上で客室乗務員などの社員が自治体やサービス業界などに出向している。直近でグループ外への出向者は約1800人にのぼる。新型コロナの収束が見えないなか、今春に出向者の支援チームを発足させた。
「自分の業務が何につながっているのか悩むことがある」。9月、自治体に出向する社員からチームに相談が寄せられた。対応したJALの管理職は「出向先を機内だと思うと取り組んでいることがどんな価値に結びつくのか見えてくるかもしれない」と助言した。
JALの支援チームの管理職7人には昼夜問わず、外部に出向する社員からの相談が届く。「出向先の仕事が乗務と異なる人ほど、JALに戻った時に経験をどう生かせるか、キャリアに影響はないのかなどを考えるようになっている」とJALの担当者は話す。
悩みの解消に向け、オンライン会議や昼食会などによる面談を実施してきた。6月以降、出向しているほぼ全ての客室乗務員と面談。想定以上に残業などが多い場合、出向先企業と管理職同士で相談し、職場改善などを依頼することもある。
全日本空輸(ANA)も昨年10月から今年8月までの累計で約1200人のグループ社員が、スーパーの成城石井や高松建設などに出向している。出向前の社員に研修を実施し、キャリアを振り返ったり、出向中に過去の経験をどう生かすかなどを社員が自ら考えたりする。キャリア支援の相談窓口を常設し、面談も月1回程度は実施している。
航空2社が活用する在籍型出向は、雇用契約を維持しながら従業員が出向先で働く制度だ。政府は2月、出向元と出向先の企業双方を助成する「産業雇用安定助成金」を創設。公益財団法人の産業雇用安定センターが仲介した在籍型出向は2019年度が1240人だったが20年度は3061人に増加。21年度は8月末で2776人だ。コロナの長期化で出向元と出向先が協力し、出向社員の多様なキャリア支援に取り組む必要がある。
(松本萌、佐藤優衣、野元翔平)
[日経電子版 2021年09月08日 掲載]